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165話 星と星と星座

「今外にいる人はいないとは思うけど、万が一でも見られたらまずくない?」


 地上にいた頃よりも僅かだが少し大きくなった月を視界に納めながら、その月を見て目をキラキラと輝かせているウィルに尋ねる。するとウィルは月からゆっくりと名残惜しそうに目を離し、


「そこは安心して、僕は光の精霊だからね。人に見られなくするのなんて朝飯前だよ」


 と、ドヤ顔で言った。ウィルがわざわざ使った光の精霊というその言葉で、おそらく光の屈折を曲げるか何かして僕たちの姿は普通の人からは見えなくなっているのだろうと思い、僕は胸をそっと撫で下ろした。


 万が一たまたま寝付けなかった人が外を眺め、空を飛んでいる僕たちを発見してしまい、その姿を写真にでも収めようものなら大変なことになってしまう。

 そのようなことから先ほどまでの気分は、さながら額に傷があり丸眼鏡をかけている魔法学校の生徒と、その友達が空飛ぶ車を運転しているときと同じようなものだっただろう。


「さすが!」


「えへへ」


 少し顔が赤くなり照れた様子のウィルの顔を見て、先ほどのみゃーこの悲しそうな表情が僕の脳裏をふと過ぎった。物悲しげなあの様子は、置いてけぼりにされて悲しいなどの自分自身についての事ではなく、今考えれば僕のことをどこか憂慮しているような感じだったのかもしれない。


 そこから考えられることは、ウィルが僕を外に連れ出したのには何か訳があるということだろうか。


「――――」


 みゃーこの悲しそうな表情という不可解な点が現れたことによって、ウィルが外に行きたいと言い出したときに僕が聞きそびれた事があるという点とが、まるで夜空に浮かぶ星座のように結びついた線を作り、その線は僕に疑問を生じさせた。


 ウィルが珍しく僕に隠し事をしているのではないだろうか、という疑問が。


「……ウィル、何か隠していることがあるんじゃない?」


 その瞬間、今までのお散歩気分の軽やかな空気が明らかに一変した。地球の空気全て、とかいうそれほどの規模が大きいものでは無いが、それほどまでと錯覚するほどの空気の変わりよう。 例えるなら、冬の寒空のようなピンと張り詰めた空気。そんな緊張感漂う空気が前方で僕の腕を引っ張るウィルから感じられた。


「――――」


 ウィルが僕の質問に否定も肯定もしなかったため、しばらく無言が続いた。しかし、これといった反応が無くとも沈黙自体が肯定の証であるため、僕の質問によるウィルの返答は是であると推測できた。


「――――」


 時間にしてはものの五分程度しか経っていないのだろうがウィルの醸し出す雰囲気により、体感ではその倍以上はピリピリとした肌を刺すような雰囲気で空を飛び続けていたのではないかと思うほどのものだった。しかしそんな長く感じる短い時間に、ウィルが目的地を見つけたように急に降下し始めたため終止符が打たれた。


そして、満天の星が視界いっぱいに広がる小高い山に、僕たちは足を付けた。


「ここで良っか……」


 ウィルは神秘的でこの世の物とは思えないほど綺麗な空、では無く、月に照らされた周囲を軽く見渡したあと、自分に語りかけ確かめるように独り言を呟いた。


「何を隠してるの?」


 僕は先ほどから脳裏にこびり付いて離れない事を早速聞いた。ウィルが何らかの事情によって仕方なく僕たちに隠していることがあるのならば、その事に気が付いたとしても僕は決して聞き出そうとはしないだろう。

 しかし、そうではないことは何となくだが分かっていた。ウィルが本当に何かを隠したいのならば、ヒントの欠片も出さないと思うからだ。例えばみゃーこの心配そうなあの表情とか、僕が聞きそびれた話のこととか。


 僕はそう確信してウィルの目をじっと見続ける。するとウィルは珍しく緊張した面持ちで、


「――君たちには伝えなくてはいけないことがある」


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