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158話 ジュースと天然水

 それから僕たちは、いつの間にかウィルがまるで作りたてのように温めた僕の料理を、それぞれ思いのままに口に運んだ。味、食感、香り、そのどれもが僕が作った物、そしてただの一般家庭で作られた物とは思えないほどに完璧で、気が付いたら料理へと箸が伸びているような、食事中はもはや本能で食べているような気さえしていた。


「今までで食べたもので一番美味しかったかも……」


 落ちないように両手を当てながら頬をほんのりと上気させているさくらはそう呟いた。その言葉通り、単純な料理の美味しさで言ったのならばさくらの料理以上にナビーの指示の元、僕が作った料理の方が圧倒的に勝るだろう。しかし、確かに完食するまで手が止まらなかったほど美味しかったのだが、僕が作った料理は機械的な料理でどこか味気ないとそんな感想を僕は持った。


 考えられる理由としては、食べ手に対して喜ばせようとか、楽しませようとかそういうのが一切無く、それは僕がそういうことを思っていたとか思っていなかったとか関係なく、ただただナビーが示したレシピ通りに機械的に作らされたからかもしれない。


 あるいはさくらのように、体調や将来のことを気遣い、味付けをその日のコンディションによって変えたり、食材の食べ合わせや栄養などを熟慮した言わば食べ手のことを考え、そしてそれを実行する部分において、僕にその技術が無いからだろうか。


 おそらく後者優勢のような気がしたので、


「そうだね、でも僕はさくらの料理が一番好きだよ」


 と僕は素直な感想を口にした。


 僕の料理が科学的に美味しさを追求されたジュースだとすると、さくらの料理は長い時間を掛けてじっくりと濾過(ろか)され洗練されたような、本当の意味での天然水のような料理なのだろう。


 嗜好品のジュースは確かに美味しいが、糖分や化学調味料などが多分に含まれており、ずっと飲み続けていれば健康に悪く、いつか飽きが来る。しかし、それに対して天然水は派手な味やインパクトこそ無いものの、ほのかに感じる甘みや、飲み込む度に身体に染み渡っていくような感じは、美味しいと感じてしまうだろう。それにシンプルだからこそ決して飽きない。


 そんな風な関係が僕の料理とさくらの料理はあると思った。


「そ、そっか……ありがと……」


 今度は頬ではなく耳を赤くして照れ笑いするさくらを見て、今度はさくらに料理を教わるのも良いかもと僕は思った。



「それじゃあ明日お昼頃にまた来るね」


「うん、一応だけど気をつけてね」


 僕はそう言いながら玄関の扉を開き、家を出て行くさくらを見送った。


 今や深夜なので家まで送ると言ったのだが、さくらはいざとなれば魔法でも何でもして逃げるから大丈夫と言って絶対に首を縦に振らなかった。おそらくだが色々あって疲れているであろう僕に気を遣ったのと、親に見つからないように早々に自分の部屋に行きたいからであろう。


 どちらかというと疲れているのは、先ほど型破りをして魔法を酷使したさくらであるはずなのに、人の心配を優先するのはさくららしいと言えばさくららしい。


「――――」


 しかし、一つだけ気になるというか不安に思うことがあった。確かにさくらはこの地球では存在しないステータスを持ち、そのパラメータが結構上がっているため、そこら辺の人に襲われたぐらいでは虫を追い払うかのように対処出来るはずなのだが、実はそこが一番の問題なのだ。


 僕やさくらはステータスが上がり、全ての身体能力において常人では到底太刀打ちできないほどの力を身体に宿している。異世界ではそんな僕やさくらほどではないにしろ、街にいる戦いとは無縁の一般の人でもこの地球の人とは比べものにならないぐらいの力を有しているため、多少の小競り合いを僕たち位のステータスの人としてしまっても多少怪我をさせてしまうぐらいで、身に危険が及ぶまでは余程のことが無い限り、あり得ないだろう。


 だが、現在いる場所はステータスの存在しない地球であり、ここの人たちでは僕たちとの小競り合いでは下手をしたら命に関わるほどの怪我をさせてしまう恐れが高い。何かの拍子に腕とかを掴まれてしまったら、それこそ虫を追い払うような仕草一つで骨折以上など簡単に起きてしまうだろう。


「大丈夫だよ、何かあったら僕が分かるから」


 さくらが出て行った玄関を見つめる僕に、ウィルは察したように言った。そして駄目押しとでも言うかのようにナビーとみゃーこも僕の心配を払拭する言葉を続ける。


「私もお力添えをします」


「みゃーも嫌な感じとか分かるから安心するにゃ」


 そうした三者三様の言葉で、僕に安心をもたらそうとしているのと、さくらのことを自分たちも心配しているんだよと言いたげなのが分かり、二つの意味で心が温かくなった。


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