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154話 無理難題

 人間が使う魔法の原始である精霊魔法を、ただの髪を乾かすという日常の作業にわざわざ使おうとしたウィルの行動を大胆にも遮ったさくらは、先ほどまでとは違い真剣な表情をしていた。


「そういうことね。良いよ、僕の代わりに任せても……ただ僕もお腹が減っているし料理も冷めちゃうだろうから、僕が渇かす時に最大で掛かると思う時間――一人一分、つまり合計三分だけね、それだけ時間をあげる」


 さくらの表情を見て納得の様子を見せたウィルは、試すような、意地悪をするような、そんな似つかわしくない顔でさくらに人差し指、中指、薬指を立てて見せ、三本の指で三を表した。


「…………」


 さくらは口を(つぐ)み何も言わなかった。いや、何も言わないのではない、言えないのだ。


 それは精霊魔法でさえ三人に対して三分ほど掛かるというのに、それを人間が使えるように落とし込んだ通常の魔法、言うなれば下位互換の物を用いて同じ時間まで短縮できるわけが無いからだ。


 賢者というスキルを所持していることから魔法に精通しているさくらはもちろんのこと、魔法に関しては門外漢な僕でも分かるウィルの無茶振り。余りにも突飛なそれに言葉を失うのは、至極当然であろう。


「…………」


 さくらは依然として黙りこくったままだ。下を向いているので今一どんな顔をしているのかは分からないが、きっと悔しそうに唇を噛んでいるに違いない。しかし、ウィルに要求されたのは無理難題、出来ないのも無理はないので、落としている肩を慰めようとそう思ったとき、周囲に先ほど感じたのとは異質の魔力の奔流が感じとれた。


「直ぐ終わらせる……ッ!」


 その魔力の流れを作っているのは顔を上げ、諦めるや悔しいなどとは一切無縁の集中を研ぎ澄ませているさくらだった。


 そんなさくらの決意を見た僕は自然とさくらが集中できるように距離を取りながら、料理の乗った机を影響の無い場所まで離すように動かした。そして、ウィルは料理が安全な場所に運ばれたのを確認すると、時計を一瞥し、指を鳴らした。


 パチン


 破裂音が高く鳴り響いたのと同時にウィルの頭上には、光で出来た砂時計が現れた。


「じゃあ、今から――スタート!」


 始まりを告げる声と、砂時計が反転した瞬間、周囲を渦巻く魔力の流れはより一層激しさを増した。


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