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153話 料理の出来

「これ本当に真冬が一人で作ったの?」


 タオルで拭いてはいたもののしっとりと髪を湿らせているさくらが、信じられない物を見つけたような顔で尋ねてきた。心外、そんな言葉が頭を一瞬だけ過ぎるが、それはすぐさま納得によって掻き消された。


「驚くのも無理ないよね……自分でもびっくりしているし……」


 テーブルに隙間無く並べられた数々の料理は、日本でも指折りに入るほどの一流レストランの一番自信のある品のような、それほどまでに輝いて見えるほどの逸品。それが自分の手で作られたと思うと、当然信じ難く、ある意味信じたくもない光景だ。


「いくらあのナビーが指示したとは言え、レシピ通りに作れない人だっていくらでもいるんだよ」


 確かにこの世では完璧に手順が書かれたレシピがあろうと、それ通りに作れない人もいる。ましてや初心者である僕に要求された鍋振りを初めとした高等料理テクニックの数々を難なくこなせたのは、ひとえにステータスのおかげなのだろう。


 INT、つまりインテリジェンス(賢さ)を表すそれによって、僕の純粋な知能は地球にいた頃とは比べものにならないぐらいに成長している。そのおかげでコツを掴むのも得意となっており、例えば鍋振りといったプロの料理人でさえ最初に躓くという登竜門的な存在の技術も、三回試しただけで最適な角度と力の入れ方などなど全てを理解することが出来た。そして、それを実現できる筋力と運動神経もステータスによって底上げされているのだ。


 考えれば考えるほどにステータスというものは不思議さを極めている。


「……って真冬?大丈夫?」


 考え事をしていたせいで湯気を立てている料理をただただ見つめていた僕に、さくらが心配そうな顔で見つめる。


 考え事――ステータスの不思議さは強烈な食べ物の後味のように口の中に残るような感じがしているが、余計なところで心配を掛けさせまいとさくらの未だ濡れている頭に手を置きながら応える。


「ううん、何でも無い」


「そっか、じゃあお腹も減ってるし冷めないうちに食べよ!」


 さくらはナビーのように僕の内心を見透かしたのか、僕の顔を見て安心したような素振りを見せると、僕に背を向けいつもの席のイスへと座ろうとする。それに続くように料理を前に今にも涎を垂らしそうな顔をしているみゃーことウィルも着席しようとするが、次の一言で全員僕の方を見て、絶望的な表情をしながら止まることとなった。


「ちょっと待って、さくらとウィルは髪を、みゃーこは身体をちゃんと渇かさないと」


「鬼め……」 「ぶーぶー」 「早く食べさせるにゃ」


 さくらは軽く睨むような表情、ウィルは口を尖らせて、みゃーこは両手を胸の前で合わせて、それぞれの反応を見せるが、僕はそれこそ心を鬼にして渇かすための道具を手に取り三人に向けてドライヤーを差し出す。


「はい、順番にどうぞ!」


 今手に持っているドライヤーは割と最近出た新しい物で、音はあまりしないのに大風量のため、毛先が肩ぐらいの位置にあるさくらの髪の長さであれば五分もしないうちに完璧に渇いてしまうだろう。長髪のウィルでも倍の十分で事足りてしまう。


 しかし、先ほどから涎を度々すすっているウィルには十分はおろか一分さえも待ちたくないらしく、真剣な様子で呟く。


「しょうが無い……奥の手を出すしか」


 ウィルはそう呟くと、小さな両手を左右から自分の濡れた髪の毛に向け、


【精霊魔――「ちょっと待って」】


 ウィルに取り巻く周囲の魔力の流れからおそらく髪を乾かす魔法を唱えるのだと、そう誰もが察した瞬間、ストップの声が魔法を遮るように響いた。そして、魔法を遮った声の持ち主が言葉を続ける。


「髪を乾かすの私にやらせて」


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