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151話 アドバイス

 ナビーのアドバイスは的確過ぎるほど、的確で完璧だった。


 僕の知らない調味料などを把握していることから、どうやって知ったのか皆目見当も付かないほど正確にこの家にある調味料とその量を全て網羅し、足りなかったら違う物で代用をしたり、更にコンロの火力とフライパンの温度など、言葉一つで普通では考えられない一度単位で火を調整させてみせた。


 そんな感じでまるで魔法に掛かったように、次々と何処かの高級レストランで出てくるような品物が、自分の手では無い感覚を持ちながらも紛れもなく自分の手で生み出されていった。


 そして色とりどりの宝石箱みたいなサラダと、子どものおもちゃ箱みたいに見るだけでワクワクするような主菜や副菜の数々、どこかの神秘的な池をそのまま(すく)ってきたかのようなスープと、詰めれば六人ほどが座れる大きさのテーブルがそれらで所狭しと埋め尽くされた。


(あとはさくらさんたちが出てくるまでとろ火で煮込むだけです)


 ナビーの指示のおかげで小一時間ほどの、料理のクオリティーと品数から考えたらほんの僅かなで一通り調理が終わり、今日の豪華絢爛(ごうかけんらん)なメニューの数々は残すところ目の前でじっくりと煮込んでいるものだけとなった。


「――――」


 グツグツ煮込まれる鍋の中に入っている物は僕の心の中にある淀みのような物と似ており、それはあの時発覚し、自覚している今でも消えずに、極々弱い火力ながらも確かに煮えたぎっている。


(ナビー、あの時……何で出てこなかったの?)


 あの時、それは僕が同じ人間――リリスさんと一対一で力比べして負けたときのこと。しかも相手はボロボロの木刀に対して、僕は冒険者でトップクラスの人が使っている真剣。


(――――)


 剣神という未だに見たことないながらも名前だけは良く耳にすることから、実力は確かなのだと容易に推測できるような、凄い人の弟子であるリリスさん。


 そんな実力に太鼓判を押されているはずのリリスさんとの戦いだったが、僕はその戦いの直前に、人智を遙かに越している実力を持っていたベルーゼとの戦いで当初の作戦である一撃を与え逃げるという点では一応勝ちを収めたため、ベルーゼとは違い所詮は人間の器を持っているリリスさんならば全力を出せば勝てる可能性は十分にあると、そう思っていた。


 しかし結果は惜敗、いや惨敗、それどころかこれ以上など無いほどの完全たる敗北だっただろう。足下は愚か、同じ土俵にすらも立てていなかったのである。


(おそらくですが、真冬さんが考えている通り私が出れば、少なくともあのように一瞬で決着が付くようなことにはならなかったと思います)


 ナビーにはお見通しだったらしく、今言ったことは僕が考えていることと相違ない。


 僕はピンチになればナビーが出てきてくれると心の何処かで思っていたが、あの場でそれを裏切られたからと言ってナビーを責めることは決してない。それはナビーを使うのは気が引けるとか思っているわけではなく、そもそもナビーは僕の力の一部であり、全ての力を尽くすという観点から見れば力の一部であるナビーを使うのはずるでも何でも無く、正攻法と言えよう。


 だからナビーが勝つための最適解の助言をくれるのであれば、僕は迷わずそれにしたがっていた。


 ――しかし、そんな思いとは裏腹にあの場面ではナビーは顔を出さなかった。


 まさかナビーが一瞬で決着が付いたから助言する暇が無かったとそう思っているはずもなく、一瞬でやられるのを予測に入れて助言をしてくれるはずなので、顔を出さなかったのは敢えてと評するしか他ない。


 僕はその訳が知りたい。ナビーがあの場で何を思って助言をしてくれなかったのか。


(真冬さんの考えが、気持ちが、心が分かると私は以前に言いましたよね。あの時の真冬さんの考えは勝ちたい、気持ちは勝って力を示したい、そして心は俺の方が強いはずだ、とそう刃を木刀を持ったリリスさんに向けていました)


(――――)


(だから、あの場では私の助言を持ってして負けるよりも、真冬さん、あなたの力全てを持ってして負ける必要があった――傲慢で研ぎ澄まされた刃を折るために)


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