149話 地球産と異世界産
リビングの扉が閉じられるその瞬間までこちらを心配そうに見つめていたさくらや、引き摺られるように強引に引っ張られ消えていったみゃーこと、みゃーこを喜々として無理矢理引っ張っていったウィル。三者三様の動きと感情を見送った僕は、早速台所へと足を踏み入れた。
目の前には異世界産ではあるが、地球で買える物とは何等変わりの無い野菜や果物の数々と数種類のお肉。それらは先に申した通り見た目こそ変わらないが、味は良い意味で一線を画す。
地球では野菜や果物などは畑や田んぼ、果樹園などで育てられ、おおよそ虫除けのために大なり小なり農薬が使われる。
しかし片や異世界では、魔法という地球には存在しない超常とされる類いの物があり、それは魔力というエネルギー源が必要ながらも、身体に害をもたらすような残留物を一切合切残さず、と言うよりはそもそも魔法で虫自体を寄せ付けないように出来るので、違う次元で農薬よりも虫除けに関して圧倒的な力を発揮する。
それに加えて、栽培の土壌の土や、必用不可欠な水など、それらも魔法で出すことが出来、ある一定の魔法と農業について経験と知識を積んでいる者ならば空気の量、温度、硬度など様々な条件で出すことが出来る。そのため、コンピュータというイレギュラーな事態に比較的弱い物に頼らずとも、育てたい種に応じて適切な環境を完璧に作り上げることが出来るのだ。
それらの理由から、野菜や果物は地球の物とは比べものにならないぐらい美味しく、そして比較的安価に手に入る。
「――――」
それに野菜や果物だけでは無い。お肉もそこら辺のスーパーに売っている物とは格が違う。もっと言えば専門店で買えるものでも中々比肩する物は少ないだろう。
ちなみに異世界では家畜として育て上げる畜産ではなく牛や豚のような感じの魔物がいて、そいつを倒すことでお肉がドロップするらしい。
例えば、肩など脂身が少なく比較的硬いとされる部位。地球ではそんな評価を受けるが、異世界でのそのドロップは、口に入れた途端とろけるような脂は無いが赤身の部分はうま味が非常に強く、噛めば噛むほどにまるでスポンジのようにうま味がしみ出てくる部位とされている。
しかもお年寄りや子どもなどが歯で噛み切れなかったり、何時飲み込めば良いのか分からなくなるほどに口の中でずっと残るような嫌な硬さではなく、ずっと噛んでいたいとそう思わせる心地の良い噛み心地なのだ。
そうした感じで野菜だろうが、果物だろうが、お肉だろうが、異世界産は地球産よりも断然美味しいのだ。
「じゃあやりますか」
手を洗い、さくらがいつも使っているユニセックスでシンプルなエプロンに袖を通す。そして、目の前に並べた色とりどりで多種多様な食材を一瞥し、秘策について瞑目する。
ある秘策――それは、
(ナビー……手伝って)
僕の一番の相談者であり、良き理解者であるナビゲータースキルことナビーに指示して貰うことだ。