145話 見くびり
そして場所は移り、今は冒険者ギルドの地下にある冒険者ギルドに冒険者として登録している者なら誰でも使えると言う修練所に来ていた。
この修練所は中央にだだっ広い砂地があるすり鉢状で、俗に言うコロシアムのような感じとなっており、中央の舞台を全方向囲むひな壇になっている席は相当な数あるので、そこに座れるだけでも見物客は数え切れないほど入ることが出来ると見受けられる。
そして現在、リリスさんはソロでしかダンジョンに潜らないため、残している実績に見合う実力なのかどうかを知りたいのか、この相当な数があるコロシアムの席は綺麗に埋まり、それでもなお立ち見の人が溢れるほどいた。
「これ使って」
ともすれば耳が割れんばかりの歓声がひしめく中、対面している赤い髪の少女――リリスさんがそう言い、あるものを渡してくれた。それは自身の腰に着けていた実用性を究極的に極めているため装飾などは一切無いながらも、地球で見つかればたちまち美術館に出されるクラスの、綺麗でとても立派な剣だった。
「本当に使って良いんですか?」
すでに受け取っておきながらも、自身の半身とも言える剣を手渡すことに疑問を抱いたので聞いてみたが、まるで今日朝ご飯を食べたかどうかか答えるような、そんな程度に淡々とリリスさんは答える。
「剣の実力を見たい、だから当然」
「では有り難く使わせて貰います……ってこれを僕に貸したらリリスさんは何を使うんですか?」
リリスさんは自身の得物を僕に渡したため、丸っきりの丸腰ということになる。そしてリリスさんは飽くまでも剣神の弟子で、その実力は僕が今し方受け取った剣を持っているからこそ十全に発揮できるもの。
いくら冒険者ギルドでトップを走っているとは言え、ナビー曰くステータスが異常なほど高い僕に対して丸腰では、僕の相手にならないのではないだろうか。
「これで行く――いつでも来て」
僕が徒手空拳であるリリスさんの心配をしていると、リリスさんはおもむろにコロシアムの中央から端の方に行き、そこに落ちていたぼろぼろの木刀を手に持ち、軽く確かめるように素振りをしてから僕に向き直った。
僕の手には鎧で身を包んだ人など紙切れの如く切ってしまいそうなほどの上等な剣。対して目の前で余計どころか一切の力など入っていない自然体そのもので、こちらを見ているリリスさんの手には、まるでどこかの海岸に打ち上げられていたかのようなボロボロの木刀。
どちらが有利か、あるいは不利か言わずともこの場にいる誰もが分かるだろう。
「さすがにそれは見くびりすぎではありませんか――ッ!!」
僕は決して自分の持ってる力に慢心し、傲慢になってはいないと思う。ただこの時は、この時だけは、コロシアムの舞台を囲む幾人もの人々の怒号にも聞こえたそれが、全く聞こえなくなる程までには自分の力が低く見積もられていることに腹が立った。
今剣を振りかざしている相手の見積もりが至極妥当であるとは露知らずに。