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142話 人見知り

 まるで有名な絵画から出てきたのかと、そう思うようなほど調律と均整が整えられた美丈夫であり、冒険者ギルドの長(ギルドマスター)を務めるアルフさんがリリスさんの後ろから、頬を掻くような動作で恥ずかしげに入ってきた。


「やっぱりって何?」


 先ほどの緊張に緊張を重ねたものとは一転して、旧知の仲だと思わせ得るほど親しげにアルフさんに言葉を投げ掛ける赤い髪の少女に、僕たち一同は言葉を噛むほどの緊張の理由に大体の察しがついた。


「皆も気付いていると思うよ……リリスが人見知りだってことに」


 リリスさんは後ろに錆びたゼンマイが付いているかのようにゆっくりと緩慢な動きで首を回し、アルフさんが苦笑いをしながら目を向けている僕らの方を向いた。


「ち、違う……これは……えっーと……」


 そして、目をグルグルと回し、手をあたふたと振りながら慌てふためくリリスさんは、恥ずかしさがピークに達したのか一瞬でアルフさんの後ろに隠れてしまった。その動作を見て、いやそれより以前の、謝辞の言葉を完璧といえる程までに綺麗に噛んだ時から、僕たちは目にしてきた”研ぎ澄まされた刃”と称されているリリスさんが、本当はどんな人なのか気が付いていた。


 ――極度の人見知り、ということに。


「う……」


 それからリリスさんがアルフさんの後ろから前に出てくるまで、皆でしばし待つこととなった。最近は誰かが羞恥心やそれに近い感情を爆発させ、ある程度落ち着くまで待つというようなことが多い気がしてならないが、気にしたら負けであろう。



 現在、若干一名を除いて僕、さくら、みゃーこ、フランさん、アルフさんの面々は円形のテーブルへと場を移して、今回はイスに座っているのだが先ほどと同様、再び車座になっていた。


「それで一応紹介なんだけど、あの子はリリス。知っての通りこのギルドのトップランカーだ。かの有名な剣神の唯一の弟子で、その実力は全冒険者の中でも五本の指に入ると思う……が、これももう分かっているだろうが、極度の人見知りでもある」


 掌握していると言っても過言ではないほど場の空気を読めるアルフさんが、リリスさんを軽く紹介をしてくれた。先ほど言った若干一名であり、今紹介に与ったリリスさんはと言うと、一人ベッドの上で布団を被ってぷるぷると震えていた。


 現在こうなった経緯としては、リリスさんは中々アルフさんの後ろから出てこなかったため、とりあえず僕たちが先にテーブルに移動したところ、てこでも動かなそうだったアルフさんの後ろという場所からこれ幸いと言わんばかりにベッドへと瞬く間に移動し、流れるように布団を被ったのが事の真相だ。


 そんなこんなで僕の正面で苦笑いをしながら、アルフさんは布団の塊を見つめていた。


「君たちのことは一応彼女には話してある……勝手にすまないね」


 申し訳なさそうに目を伏せるアルフさんの姿に見とれそうになりつつも、僕は慌てて否定する。


「いえいえ、今の……そのリリスさんを見るに、おそらくそれが正解だと思います」


 他の面々を見ても同様のことを思っていたみたいで、三人はコクコクと同意をするように頷いていた。アルフさんならば例え悲しんでいようが、憂いていようが映画のワンシーンになってしまうと思うが、あまり重い雰囲気は似合わないと思ったので、話を逸らすべく先ほどから気になっていたことを尋ねる。


「それよりも何でここにいらっしゃったんですか?」


「それは――」


 アルフさんは落ち込んだような様子から、顔を上げ真剣な眼差しで僕の左隣にちょこんと座るウィルを一瞥。視線を向けられたウィルは理由を端的に話す。


「僕が呼んだんだ、リリスちゃんを連れてくるように頼んでね」

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