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134話 メリット

「さくらさんとみゃーこさん、そこから離れてくれないと歩きにくいんですけど……」


 温かい視線から逃れるように塔の広場から重い腰を上げ、ギルドに向けて足早に歩き始めてから何度使い古したか分からない言葉を、左右にしがみついているように抱きついている二人に掛ける。


 ちなみに周囲からの微笑ましいものを見るような温かい視線は、先ほどと場所が変わってもまだ継続しているので、もうどうしようもないと半ば諦めている。だからといって、さすがに歩きにくさは諦められないが。


「――――」


 しかし、そんな僕の思いと言葉とは裏腹に、今回も二人からは全くもって反応はない。


 今横抱き、所謂(いわゆる)お姫様抱っこしているウィルほど僕は疲れていないにしろ、重力を倍ぐらいに感じるほど肉体的には疲労を感じている。それに加えて比較的軽いとは言ってもさくらがほとんどの体重を預け、みゃーこが抱きついているような動きを阻害されている状態で歩くのは至難の業。


 だが、必要に迫られたとは言え二人がここまでになるほど心配させたのも僕の所為と言えば僕の所為なので、今回は甘んじて受けよう。若干甘えさせすぎかとは思うが、仕方あるまい。どうせあと何度言っても離れてくれないだろうから、そう考えた方が収まりが良いと思う。


「――――」


 それよりもこの先の事を考えるべきだ。


 ベルーゼは僕がこの世界に来た手段を問うてきた際、雰囲気を様変わりさせた。怒り、憎悪、嫌悪、それらじゃとても言い表せないような、真っ黒な何かをベルーゼは持っていた。


 その何かはウィルが話した魔神が引き起こしたとされる第一次世界戦争、ベルーゼが争いの中、どんな立ち位置にいたか定かではないが、おそらくそれに起因しているのだと思う。


 そして、ベルーゼがしてきたその問い、つまり僕がここに来た理由は、他の誰でもない僕が一番分かっている。


 僕は自分を変えたいが為に、この世界に自らこの足を踏み入れた。


 しかし、そうした理由は覚えていても、どうしてこの世界に来ることが出来るようになったのか、その成り行きがどうにも思い出せない。

 それを思い出そうとすると、記憶に(かすみ)が掛かったみたいに急に不鮮明になっていく。


「――――」


 誰かがこの世界に来られるように異世界跳躍の魔法を僕に与えてくれたと、僕が所持しているスキルと、飛び飛びで覚えている断片的な情報から推測出来る。


 ラノベ然りアニメ然り、それらの中で転移、転生関係なく、神やそれに連なる者が何らかの理由によって地球の人を異世界に送っている。そして、その送られるときは記憶を保持したままが多い。


 僕の場合もその例に漏れずそのような超越した存在がしてくれたのだろうが、一点違うところは、全くと言って良いほどそうした者の存在が記憶に存在しない。あるいはベルーゼが言っていたように何かしらの理由で秘匿されているというところだ。


「――――」


 今の僕がこの世界に来る前の僕よりも強くなれたのは、マシだと思えるようになったのはその存在のおかげでもある。だから、その恩人を忘れるということは決してあってはならないのではないだろうか。恩を仇で返すというのは、まさしくこのことを言うのではないだろうか。


 しかし、だからといって探すべき者が記憶にいないのだからその存在を探し出すことも、自分の意思で会うことも出来ない。


 僕がここに来れたのは、その存在が僕をこの世界に送ることで何かしらのメリットがあるからに違いないので、そのメリットをできる限り叶えたい。


 恩人とその者が望むメリットが分かるまでは、ひとまず強くなって選択肢を増やすことに専念しよう。そんな風にどこかに導かれているような思考を締めくくった所で、タイミング良くギルドに辿り着いた。


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