128話 勝利の条件
(上から行く!ウィルサポートお願い!)
悩んだ末、と言ってもほぼ直感なのだが、考えた結果、暴食の弾数が他2つのルートの丁度半分ぐらいである上のルートに決めた。そして、上ルートの場合、宙に浮いて移動しなくてはならないので、ウィルのサポートが必要不可欠だ。
(分かった、【精霊魔法・飛行】)
ウィルによって魔法が唱えられると同時に僕は思いきり膝を曲げ、その反動を余すことなく上方向に向け、跳躍した。
ウィルが使った飛行魔法は助走や勢いなどは通常ならば全く必要なく、スロースタートで良いのならば完全に停止した状態からも飛ぶことは可能なのだが、そうゆっくりとしている時間も無かったため勢いを付けたのだ。
「――――」
飛行魔法自体は前にも使ったことがあるので初めてではないのだが、比べ物にならないほど移動する速度が速いのと、装備品にすら掠らせてはいけないという過度なプレッシャーから、その動きはとても覚束ない物であった。
しかし、飛行魔法は行きたい場所に行こうと意志を持つだけでそこへ向かうという特性から、ウィルは僕の行きたい場所をリアルタイムで常に把握し、確実にそこへ行けるように、また暴食を避けるための細かな速度調整などを完璧にやってのけた。
そうしたウィルのサポートのおかげで覚束なさは数瞬の間だけで、それ以降はまるで暴食が僕を避けているかのように掻い潜ることが出来、ベルーゼがいる場所へと効率よく進めていけた。
キィン、キィン、キィン……
粒の密度が徐々にだが、目に見えてわかるほどに上がっているため途中何度か避けきれない粒が出てきてしまい、光る剣で咄嗟に対応したが、おそらく左のルートを選んだよりかはずっと少なく、安全に進めているだろう。
そして、次第に皮膚を刺し抉るように変わってきた圧倒的な力の根源から発せられるプレッシャーから、もうすぐでその大本であるベルーゼを視界に捕らえられるだろうと思い、目の前の粒を一思いに断ち切る。
キィン
目の前の黒い粒が切られ、消滅したことによって視界が開け、不思議にもベル―ゼの顔だけが覗いている状況でウィルが緊迫した様子で、呟いた。
(真冬くん、剣がそろそろ限界かも……)
いよいよベルーゼと相対する間近のこんな時に、と思いながらも眩しいほど輝いていたはずの剣を見る。
「――――ッ!?光が……」
ウィルによって光が付与された時は満月のように明るかった光が、今ではもう三日月程までに光を弱め、刀身の大半は暗い闇に包まれていた。
「何で……」
ポツリと意図せずに零してしまった一言に、すかさずウィルは心底申し訳なさそうな声音で、
(闇に光を食われたんだ。ごめん……制御に集中してて……)
魂さえも喰らってしまう闇に対して、ここまで耐えられたのはむしろ凄いことだろう。
それに零してしまった一言は、ウィルを攻めているわけでは決してない。ウィルは僕に暴食が絶対に当たらないように神経をすり減らしながらも、僕のたどたどしい飛行を完璧なまでに制御していてくれていた。非があるのはどちらかというとウィルにおんぶにだっこの僕の方だ。武器の状態を把握していなかった僕の所為だ。
(こっちこそごめん。それよりも……)
おそらくこの剣は残り数撃でその役目を終わるだろう。そのことは確かにショックだった。しかし、それよりも視界が開けた後、ようやく見えた光景のことが気になって仕方が無かった。
その光景とはベルーゼの姿のことだ。現状僕たちは宙に浮いているためベルーゼを見下ろす形になっているが、そのベルーゼはと言うと、首から下がまるで何かに遮られているかのように暗くなっており、顔だけしかその姿を見せていない。
(もう掛け直す力が残ってないから一気に――(待って!!))
違和感の正体を確かめるべく今一度ベルーゼの姿を一瞥した瞬間、違和は確信へと変わった。
――何かが来る
「今更気が付いてももう遅い。その手に持っている剣では耐えることなど出来まい」
ベルーゼの首から下、その身体の大半を隠していたのは巨大な闇――暴食だった。
「万が一耐えられたとしても……ッ!!」
ベルーゼは突如として咳き込み始め、巨大な暴食の所為で詳しくは見えないが、状況から予想するにおそらく膝を下に付いていることだろう。
いくらダンジョンのボスと言えど、力が制限されている状態でこれほどまでの即死のスキルを無尽蔵に発動していたら、疲れが出てくるのは当然のことだ。これは僕たちにとって好機である。
ベルーゼが途中で言い掛けた言葉は気になるが、おそらくここがこの戦いにおいての最大の山場となるだろう。
「――――」
ベルーゼはもうスキルを使う余裕など残っていないと思われる。対する僕も武器は今にも壊れそうで、ウィルは魔法を新たに掛ける余力は残っていない。まさしく互いにとって絶体絶命。
目の前の暴食を突破出来れば、僕らの勝利。
突破出来なければベルーゼの勝利、というわけだ。
「ウィル!」
「うん!」
僕は頭を下に向けそのまま空を弾くように蹴り、ウィルと一緒に絶望に立ち向かった。