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127話 分水嶺

精霊魔法・憑依エレメンタル・ポゼッション


 僕の身体から輝く光が溢れ、それと同時に力も溢れてきた。その力の量は全能感に近いものを覚えるほどの物で、前方を囲い、微塵の隙も無いように思えたベルーゼの出した数の暴虐とも言えるスキル暴食(グラトニー)が、今では隙だらけに見えた。


「――――」


 僕の一部である髪の毛はもちろん、身に着けている服や剣などの持ち物に掠っただけでも危険だと思われるので、細心の注意を払いながら雨を避けるような精密さで次々と交わしていく。


「避けているだけではここから出られんぞ」


 容易とは言えないが、今の距離であれば危なげなく完璧に避けることは出来ている。しかし、ベルーゼが言うように、避けているだけでは何も状況が変わるはずもなく、このままでは結局の所じり貧だ。

 ここから出る条件。それはこの豪雨のような次から次へと無尽蔵に襲ってくる物体を掻い潜りながら、そのスキルの術者であり、大もとでもあるベルーゼにどうにかして一撃でも食らわせること必須条件だ。


 だが、先述の通り、今のこの距離でこそ問題なく交わせているのだが、奴に一撃を与えるためにはもちろん剣の間合いまで近付かなければならない。そして、死の雨を降らせているベル―ゼに接近するということは、この場所以上に暴食が密集しているところに行かなければならないということで、多少のミスを犯してしまっても大丈夫なように取るべきである安全マージンという観点からすると、これ以上密度の上がった場所へ入っていくのは死にに行くようなものと同じだろう。


 悔しさから下唇を噛みながら作戦を考えていると、


(真冬くん、剣を出して)


 そのウィルの言葉に従い、一瞬の隙間を塗って腰に携えていた剣を取り出し刀身を表に出す。これはカイトに打ってもらった逸品なのだが、どんなに凄い剣であろうと、どんな名匠が打とうとも奴のスキルに当たってしまったら、跡形もなく消えてしまうだろう。


 そう思っていると、間もなく刀身が眩いほどの光を帯び始めた。その光は暴食に相反するほど輝かしいもので、直感的に理解した。


 ――これなら暴食を切れる


 その直感を信じ、僕はコンパスのようにベルーゼと同じ距離を取りながらしていた躱すだけの動きから、相手に攻撃を当てるために接近する動きにシフトする。


「――――」


 脳が焼き切れんばかりの処理動作を行ないながら、進むごとに更に密度を増していく暴食を何とか綱渡りのようなギリギリの状態で躱していると、どうしても避けきれない1粒が目の前に現れた。


 瞬間的に右、左、上下あらゆる方向を見るも、どこもかしこも黒い球体で覆い尽くされており、この1粒を目の前にしている状況が一番マシに思えるほどだった。


 この剣で斬れないのならばもうどうすることも出来ないので、仕方があるまい。僕はそんな風に腹を括った。


 ――ウィルが頷いている姿を幻視する。


「はぁぁぁ!!」


 僕はその一粒に対して、袈裟斬りの要領で右上から左下に剣を振下ろした。


 キィィン


 僕の直感通り、光を帯びた剣は、死をもたらす一粒の雨を金属がぶつかったような甲高いを出だしながら一刀両断した。手に残っている感触はさすがに何も無いと言うわけではなく、音とおなじく硬い金属を無理矢理切断したような、ビリビリしたような不快感と切れないはさみを使ったような倦怠感を覚えていた。


「――――」


 目まぐるしく変わる状況にうかうかしている暇など一切も無く、手の痺れたような感覚はどうにかこうにか無視し、次に備えて前を見る。


 暴食(グラトニー)は全てが連動していて1つを斬れば、全部が斬れる、なんて希望的観測通りになってくれるほど現実が甘いわけもなく、相も変わらず弾幕ゲームのような、第三者からしたら美しささえ感じてしまうような壮大な景色が広がっていた。


 しかし、程度の差はあれど3箇所だけ通ってくださいと言わんばかりに空いている場所があった。


「――――!」


 向かって右に進むルートは明らかに誘われていると分かるほどガラガラに空いていて、左のルートは球のランダムさから偶然出来てしまったような感じがする。そして、3つ目の上から行くルートは、比較的ガラガラに空いている右ルートと、密集はしているもののギリギリ通れるぐらい空いている左ルートの密度の丁度半分ぐらい、ここを選ばせるために敢えて隙間を作ったと言わんばかりに人が通るには丁度良いぐらい空いていた。


(ウィル、どこを通った方が良い?)


 ベルーゼは先ほど僕を試すと言っていた。だから3つの内おそらくどれかは正解になっていて、奴の元へと比較的行きやすいルートが作られているはずだ。でなければこの試練は合格するための物ではなく、落とすための、言い換えれば僕たちを殺すための物になってしまうからだ。


 ウィルが来る前にベルーゼが見せたあの本気は、ダンジョンのボスであるベルーゼと、もしかしたら知り合いぐらいの関係性はあるのかも知れない大精霊であるウィルが来たことによって鳴りを潜めた可能性が高いので、おそらく僕の推理は正しいだろう。


 そうすると、ルート選びはこの局面での最大の分水嶺ということになる。


(んー……正直僕にもさっぱり。真冬くんの直感に賭けよう)


 三択。ベットは自分たちの命。


 大博打にも程があるだろう。しかし、こうして思考している間にも暴食は僕たちに向けて移動しており、悩んでいたら折角の3択というチャンスも不意にしてしまう。


 ――右。


 ――左。


 ――上。


 僕が選んだのは――


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