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125話 おかえり(ウィル目線)

 光の鎖にヒビが入り出し、あと数秒も持たないと判断してから彼に声を駆けた瞬間、彼は急に顔を真っ青にし、何かを強く拒絶するように震えだした。


 そしてすぐに震えが治まったかと思えば、彼の周囲には(もや)が掛かったように不鮮明になり、その靄のような物は次第に闇へと変貌を遂げた。


「真冬くん!真冬くん!!」


「――そやつはもう動けんよ」


 精霊しかも大精霊クラスほどの実力が無いと決して壊すことが出来ない光の鎖を幾重(いくえ)にも重ね、絡ませた牢獄を派手に壊しながらベルーゼは言った。


「何故そうもそやつを庇う。そやつは……貴様も分かっておろう?」


「分かってる……けど、信じてみたいんだ」


 僕は彼と初めて出会った時のことを思い出す。


 最初はただの興味本位だった。道端に落ちている石を蹴り飛ばすぐらいの気持ちで、少女を助けたいと切に願う彼の手助けをすることにした。


 その中で彼は(もろ)く、儚く、吹けば飛ぶような危うさによってほとんどが形作られていたが、一番根っこの方にある芯には確かな強さがあると知った。

 しかしそれと同時に、この世界に、延いては全世界に危険をもたらす恐れがあることも知った。


「彼なら……真冬くんなら、きっとあいつを倒してくれる」


 彼は驚異的な成長速度を持っている。近い将来間違いなく僕ら大精霊クラスを易々と抜いていくだろう。そして超された場合、その強大な力を相手にすれば僕ら調停者(ちょうていしゃ)でさえも為す術がない。だから僕らは、文字通り世界を掌握(しょうあく)できるほどの力を持っても、しっかりと自分を保てる人を待っていた。


「世迷い言を。現に恐怖に飲み込まれそうになっておるじゃないか、もうすぐ闇落ちする」


 ベルーゼは僕の考えを鼻で笑い、今にも闇落ち――闇に包まれて自我を消失すること――しそうな彼を一瞥(いちべつ)する。


 その視線には軽蔑(けいべつ)や哀れみなど負の感情が込められているが、それを見る者が見れば妥当と判断するだろう。

 それほどまでに真冬くんの闇落ちまでは秒を呼んでいた。


「彼の強さの根源は、彼自身にもあるけど一番は違うんだ。彼の強さの一番根元にあるのは、君がさっき捕らえていた女の子――さくらちゃん。だからさくらちゃんが彼の記憶に存在する限り、彼は負けることなんてない」


眉唾(まゆつば)なことを――!?」


 再度鼻で笑おうと真冬を一瞥しようとした瞬間、ベルーゼの顔が驚愕(きょうがく)一色に染まった。それを見て僕は小気味良いものを覚えながら、


「おかえり、真冬くん」


 彼――真冬は僕の言葉に笑いかける。


「ただいま」

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