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122話 不必要

 突如として目の前に現れた光の眩しさに目を細めていると、


「ごめんごめん、これで大丈夫かな」


 目の前の強烈な光は徐々に弱まっていき、その発光源の姿が見えた。


「ウィル……だよね……?」


 流れからしてほぼ間違いなくウィルなのだろうが、光が明けた先にいたのは記憶上のウィルとは似ても似つかない、高身長で神秘的な色気のある妙齢の美女だった。


 その女性が持つ容姿は、エルフであるアルフさんでさえ霞んで見えてしまうほどで、神が作り出した彫刻のような、ある種の恐怖を感じるほどまでの“美”だった。


「そこまで顔を真っ赤にしながらガン見されると、ちょっと照れちゃうなー」


 そう言いながら微笑む姿はさながら女神のようで、余りの美しさから思考が停止しかけてしまう。


「それよりもウィルちゃん大丈夫なの?」


 ウィルと同性ということもあり、まだ耐性のあったさくらが心配そうに尋ねた。


「あいつ――ベル―ゼなら千日手だったしちょっと足止めしてる……けどあんまり時間無いかも」


 先ほどとは違い緊迫した様子を覗かせるウィルを見て、停止しかけた思考を強制的に動かし、僕も今一度気を引き締める。


「そっか、私たちはどうすれば良い?」


「真冬くんには言ったけど、ここから逃げるために力を貸して欲しいんだ」


 逃げるためとは、僕たちが全力で手助けをしたとしてもおそらく、ただ逃げるだけの僅かな隙しか作れないと言うことだろう。つまり僕たちがどれだけ束になって立ち向かっても、決して倒すことが出来ないということだ。それほどまでにベルーゼの力は強大なのだ。


「分かった、じゃあ――」


 ウィルから助力の願いを受け、さくらが意気込んだところでウィルが言いづらそうに、


「でも、ごめん……正直さくらちゃんとみゃーこちゃんだとキツいと思う」


 と、さくらとみゃーこの面々を申し訳なさそうに見据える。


 ずいぶんと婉曲(えんきょく)した言い方だが、身も蓋もない分かりやすい言葉で言い換えるなら、さくらとみゃーこでの2人の力では微力にもならないと、そう言いたいのだろう。


 みゃーこはまだしも、さくらは光の大精霊であるウィルと命を賭して契約まで結び、切っても切り離せない強固で確かな繋がりがある。対して必要とされている僕は、数回一緒に戦ったことがある程度だ。しかしウィルは現実的に考えて、ステータスと戦いの経験ということから考えて僕を選んだ。


「――――」


 ウィルのそうした意図に気が付かないほど、さくらは頭が悪いわけではない。しかしそれに気が付いてしまったからこそ、自分はこの局面において不必要だ、と言われる悔しさや無力感がさくらを襲っていることだろう。現に今は血が滲むほど下唇を噛みしめており、見ているこちらが胸を痛くしそうだ。


「さくら……」


 ウィルが千日手となるほどまでに対等な力を持つベル―ゼの足止めはそう長く持つまい。それは分かっているが、僕も過去に痛いほど感じた悔しさや無力にうちひしがれた気持ちから、さくらに声を掛けずにはいられなかった。


「――――」


 僕が名前を呼んでから数秒が経った時、俯きがちで下唇を噛んでいたさくらが急に上を向き、


「私は大丈夫。真冬、ウィルちゃん……頑張ってね!」


 僕が名前を呼んだ前後数秒間、さくらの頭には様々な想いと感情が過ぎったことだろう。


 契約者である自分ではなく、先ほどまで倒れていた万全ではないだろう真冬を選んだこと。

 地球では何でも出来た自分が、この世界では何も出来なくなってしまったこと。

 いつも真冬を庇護していた立場だったのに、いつの間にかその真冬に護られる戸惑い。


 もしかしたら空元気で言葉を発した今でも、止め処ない思考と感情に押しつぶされそうになっているのかも知れない。


 それをさくらはこれから命がけの戦闘をする僕とウィルに見せないよう、頑張って気丈に振る舞っている。


「――――」


 僕は思った――さくらはやっぱり僕よりも強い。


「それじゃ行ってくる」


 ウィルの視線を感じて僕は今にも泣きそうなさくらと、心配と顔に書いているような表情をしているみゃーこに告げた。


「行ってらっしゃい」

「行ってくるにゃ」


 僕とウィルは光となってその場から消えた。

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