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114話 光明

 視界が暗転した瞬間から上に飛ばされているとするならば、その瞬間から現在までで体感時間にしておよそ5分ほどが経った頃だ。

 その驚くべき時間の長さが相当な高さの階層まで飛ばされているという証左となり、嫌でも湧き出てくる大量の冷や汗と脂汗で、下に水たまりが出来てしまうのではないかと思っていた矢先、今度は思わず目を背けてしまうほどの眩しい光に包まれた。


「――――ッ!!」


 強烈な光の大波に飲み込まれる瞬間、僕は咄嗟に薄らと見えたさくらとみゃーこと思しきシルエットを近くに思いっきり引き寄せた。


「きゃっ!」

「にゃっ!」


 半ば反射的な動きだったため多少強引な形になってしまったが、これから現れるであろうこの状況を作り上げた者からどんな攻撃をされるのか分からないため、最善の判断だと思えた。



「…………」


 しばらく経った今でも未だに残っている、一瞬の隙に目を焼き焦がすほど眩い光の余韻の所為で視界がチカチカとしていて不安定極まりない中、僕はごくごく微かに見える周囲の様子を血眼になって確認した。


 ――その場所は虚無だった


「なっ!」


 僕の口から思わず出てしまった驚きの感情も、その空間では無かったことにされてしまうほど“無”だけが存在する場所であった。


「さくら、みゃーこ構えて」


「「――――」」


 僕の発する緊張感を感じ取ったのか、さくらとみゃーこは一も二もなく僕の手から離れ、臨戦態勢を整えた。僕は剣を構え、さくらは杖を構え、みゃーこは白虎化、敵がいつどこから来ても、各々が持てる力全てを発揮できる次第だ。



 臨戦態勢を整え、ようやく光の余韻が抜けきり目が完全復活した僕は、力だけでは適わない時のために状況を分析することに勤しんだ。


「――――」


 僕がこの空間に対して初めに抱いた感想である“虚無”とは半分比喩で、半分見たまんまの表現だ。


 この場所、いや空間の方が正しいだろうか、ここは自分たちが今立って足を着けている場所以外、何処を見渡しても何も存在しないのだ。上を見れば終わりがなく天井が見えない。そして横を見てもこちらも同じく壁が存在しない。

 言うなれば、足場はあるが星が1つもない宇宙にいるような得も言われぬ摩訶不思議な感覚だ。


 それに加えて、明かりが無いのにも関わらず、隣にいるさくらの口を一文字に結んでいる表情がはっきりと見えるし、白虎化したみゃーこの鉄のような固さと竹のようなしなやかを兼ね備えている強靱な身体も確かに見えるのだから、いっそ不思議と言うよりは薄気味悪ささえ感じる特殊な空間だ。


「どうする……」


 とりあえずは必要な情報を集めきった僕は、次に何を行動すべきか決めあぐねていた。


 ひとまず飛ばされた先の空間で、囲まれてからの一斉攻撃ないし暗殺者よろしく死角からの急所狙いはなく、こうやって状況を分析できるほどの間を持てたものの、ここで何も起らずに終わる、何てことは万が一にも無いはずだ。だから友好的、攻撃的関係なく、何かしらのアクションがあるはずなのだが、未だに何もないのが心底不気味に思えて仕方が無い。


 可能性としては限りなく低いと思うが万が一相手方が友好的だった場合、ここで下手に動いてしまってこちらからの攻撃と見なされたら目も当てられない。しかし逆に可能性としては比較的高い攻撃的だった場合に、ここで何もせずじっとしているのも集中力を切らされて敗色がどんどん濃くなってしまうだろう。かといって緊張感を解いてしまったら隙が出来てしまう。


 まさしく八方ふさがりとはこのことを言うのだろう。


「そもそもの話、ダンジョン内でここまで出来るのって――」


 動きたくても動けない、動きたくなくても動かなければならない、というどうしようもない状況に加えて、予想を超えてほとんど確信めいたものが頭を過ぎった瞬間――目の前に無視出来ないが直視も出来ないほど、人類が決して放つことが出来ない圧倒的な存在感を放つ何かが現れた。


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