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106話 未来予想

 懐から出したカイトが作った一振りの剣をフランさんに見せると、それを目にした途端フランさんの目つきが急に変貌を遂げた。


 受付嬢であるフランさんは、職業柄から多種多様な武具をその目で見てきたと想像することは容易い。それは依頼を受ける冒険者がランク抜きで本当にその依頼を受けて妥当なのか、あるいは駄目なのかを見極めたり、もしくは初めて見る人の実力を推し量る指標にするためだ。だから鍛冶師ギルドとは関係を持っていない、かつ武具に関して目が肥えている人物としてフランさんに白羽の矢がたったのだ。


 そしてそんな理由からカイトが作った剣の出来映えがどれ程の物なのか分かるかなと思い、今し方持ち込んでみたのだったが、その考えはどうやら正しかったようだ。


 フランさんは僕から剣を慎重に受け取り、質屋のように真剣に吟味しだした。


「これは何処で?ダンジョンのドロップ?だとしたら50層以上……下手したらそれよりもっと上かも……」


 フランさんの独り言を聞き流しながらさくらを見てみると、武具の目が肥えていないからさっぱりなのか、凄いと称されている我楽多を見ているかのような面持ちだが、独り言の発信地であるフランさんは反対に、伝説の骨董品を見ているかのような目の鋭さだ。


 門外漢からしたらただのゴミくずでも、その道に通じる者なら金銀財宝など目ではない、とそんな良くある光景の一例だろう。


 そんなことを思いながら、僕は製造者の名前を念のために伏せて、この剣の入手元を伝える。


「それはある人が作ったものです」


 僕がそう伝えると、剣に穴が開くほどまで隅々を見ていた手を急に止め、フランさんは僕に視線だけで本当かどうか尋ねてきた。疑っているよりかは、驚きすぎて確認したいというニュアンスの方が正しいと思われるその視線に対して、僕は本当と同じく視線だけで返し、今度は言葉でフランさんに尋ねる。


「これは正直に言ってどの程度の物ですか?」


「……大体になるけど、おそらく冒険者の中でもほんの一握りが持てるぐらい」


 冒険者の中で一握りというとおそらく金と白銀クラス――約10%位だろうか、トップクラスが持つようなレベルだ。

 数字上では大体10人に1人の割合で持てると考えられるが、それは飽くまでも机上の空論に過ぎないだろう。


 確かに確率論では10%――10分の1で10回やったら1回は絶対に当たる。だが事カースト制度、あるいはランキング制度の上位10%ともなると話は違ってくる。今回のことで言う冒険者の上位10%になると、実力や知識はもちろんのこと、経験や仲間、そして運など努力でどうにか出来ることや出来ないこと、それら全てのことが他人よりも抜きん出ていなくてはいけない。


 実力だけが上位10%に入っていても、1人では幾多の困難が万全を期して待つダンジョンを乗り越えることは出来ないし、知識だけが十二分にあってもそれを役に立てる他のことを持っていない。上記2つ以外の経験や仲間、運なども同様のことだ。


 1つだけでは宝の持ち腐れ。2つだけでは中位。3つになるとあと一歩。そして全部を兼ね備えた者だけが冒険者、延いてはカーストに類する全ての制度で一流と呼ばれる定義なのではないだろうか。


 実際の所、ステータス上では通常ならば上げられない運を上げ、そのステータスでは上位者にも引けを取らない僕だが、一目だけこの目で見た”研ぎ澄まされた刃”ことトップランカーのリリスさんに勝てるイメージがまるで浮かばなかった。

 例え相手が何の装備もしていない丸腰で、僕が死角からの不意打ちをしたとしても刃が届く前に地面に打ち倒されているだろう。それがトップであるリリスさんのトータルの持っている者なんだろう。


「ちなみにですが、参考までに“そのまま”売ったらどれぐらいになりますか?」


 僕がフランさんに問うと、フランさんは顎に手をやり少しだけ考えた後、


「多分、値が付けられない」


 と、少しだけ大袈裟に考えていた僕の考えをあっさりと上回ることが返って来た。


 そして内心驚いているのを知ってか知らないか分からないが、そんな僕を余所にフランさんは「確証はないけど……」と前置きをしてから、


「まだ剣の作り自体は荒削りなの。でもこれがダンジョンのドロップじゃなくて人が作った物で、しかも初めから大きなアドバンテージのある魔物の素材からではなく、普通の鉱石から作ったともなると、これからの伸びしろしか感じられない。だから現トップランカーあるいは収集家の貴族からしたら、青田買いだとしても喉から手が出るほど欲しがる人材だと思うわ」


 フランさんのその予想は、最初こそさすがに大袈裟で心配が過ぎるのではないかと話半分に聞いていたが、話を聞くにつれて徐々にその信憑性は増してきて、最後まで聞いた今では、これを僕たちがいる部屋の外で見せびらかした瞬間に、まるでシナリオが決められた物語のようにとんとん拍子で進んでいきそうと思えるほど、現実味を帯びてきた気がしてきた。

 いや、気がするのではなく、むしろそうなると確信に近いものさえ感じていた。


「そうですか……じゃあやっぱりカイトには申し訳ないけど加工します」


 僕はやっぱり自分の大事な人を守るために自分勝手をすることにした。


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