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104話 虚飾

「それよりも昨日から何も食べてないってどういうことなの?そう言えば目の下に隈ができてるし」


 テーブルを3人と1匹で囲み、買ってきた大量の食べ物を口に運びながら僕はカイトに尋ねた。カイトは先ほどからブラックホールかと思うぐらいのさくらの驚異的なペースを凌駕するほどの勢いで次々と大量の食物を胃に納めており、昨日から食べていないというのはあの場を鎮火する方便ではなく、ただ単純に本当のことだと窺えた。


「あ、ああ……さくらが入れてくれた火と一晩中にらめっこしてたんだ。火力が今までとは段違いでな、そのおかげで、ほらあそこにあるのが作ったやつ」


 カイトは多種多様な武器と防具が並べられた場所を指さした。その指された武具たちはカイトが今まで作っていたもののそれとは漂っている雰囲気が違く、武具達を囲っている周囲の空気感を変えてしまうほどの異様さを孕んでいた。僕はそれを見て瞬間に上物だと一目見て確信していた。


「じゃああれから一睡も寝てないって事?」


 手を休めずに食事をしていたさくらが驚きながらカイトに聞いた。さくらはどちらかというと魔法使いに分類されるので、ぱっと見ではカイトの作った武具たちの凄さが分からないのだろう。


「ああ。でもまだ元気だ!」


 と、カイトは答えるも、明らかな空元気だと僕もさくらも分かった。僕らがカイトの家に来た目的は火力をどうやって稼ぐか、そしてその火力にどうやって耐えるか、という話し合いをするためだったが、これでは良い案は出ないだろう。そう思っていた矢先、カイトから目的を尋ねられた。


「で、お前らは何で来たんだ?」


 僕とさくらはカイトにばれないように一瞬だけアイコンタクトをして、カイトの酷使した身体を休ませるため、今日の目的を誤魔化す。


「みゃーこが屋台食べたいって言ったからついでに差し入れをって」


「そうしたら買い過ぎちゃって……」


 僕が急遽路線を変更し、それにすかさずさくらが合わせる。一方みゃーこは僕たちの会話には目もくれず、幸せそうな顔をしながら食事に夢中。


「そっか、ありがとな。俺はこれからあいつらをギルドに持って行ってから休むことにするよ」


「それって僕たちが行っても問題ないのかな?」


「納品だけだし多分大丈夫だと思うが……」


 僕の質問にカイトは不思議そうに答えた。隣にいるさくらも何故とカイトと同じく疑問を浮かべていた。そんな二人に僕は説明した。


「ちょうど僕たちも鍛冶師ギルドに行こうかなって思ってた所だったからついでに。僕なら、ほら荷物一杯持てるし」


 飽くまでもついで、と強調するように話し、俗に言うインベントリ機能が付与されている外套をパタパタとなびかせながら、カイトにアピールした。


「そうか、じゃあ任せて良いか?」


「うん、もちろん!」


 そんな会話をし、僕たちは買ってきた山ほどある食べ物の消化へと本格的に着手した。



「じゃあ真冬、さくら、それとみゃーこありがとな」


 本人は気が付いていないがやっと休めると身体が一安心したのか、さらにひどくなった隈を見せながらカイトは僕たちに手を振った。


「どういたしまして、お休み」


「ゆっくり休んでねー」


「みゃー!」


 続いて僕、さくら、みゃーこの順でカイトに別れを告げた。




 そしてカイトの家から少し離れたところでさくらがおもむろに訊いてきた。


「私にだけは本当の理由を話してくれても良いんじゃない?こうしてギルドまで付き合わされているんだし」


「ご、ごめんね」


 みゃーこの時ほどではないにしろ、そんな事を言いながら詰め寄ってくるさくらに一言謝ってからカイトの納品を無理矢理な理由を付けて引き受けた理由を話す。そしてその説明のために僕は懐から手間賃と渡された一振りの剣を出し、さくらに見せる。


「カイトが作ったこれ、多分だけど、この世界だと一級品、もしくはそれ以上のポテンシャルを持っているかも」


 僕のその言葉でさくらは瞬時に僕が何を言わんとしているのか察したようだった。


「それって……」


「そう、カイトがこれをそのまま持って行ったらとおそらく大変なことになってた」


「ギルドは自分たちの利益のために情報を欲しがるから、造り方とか使った材料とか訊かれて――無いとは思いたいけど、ひょっとしたら直接手を出してくる可能性も……」


 さくらは神妙な面持ちでカイトが陥りそうだった最悪の事態の想像を呟いた。その内容は僕が考えていた物とおおむね一致していたが、さくらの想像はまだ最悪の一歩手前と言えよう。


 カイトは鍛冶師ギルドの立ち位置で言うと、ベテランと呼ぶには些か実力不足だが、かといって実力や経験が無いわけではないので、掛け値無しに中堅ってところだろう。

 大多数の人物が厚い壁に隔たれた熟練と称されるまでに一回はそこの段階で足踏みする中堅が、剣を持つ者なら一目見て誰でも心を奪われるような剣を作ったともなれば、ギルドとしては一ギルド構成員の何を差し置いてもその秘訣を知りたがる。それを知るためなら、おそらく手段を問わないはずだ。


 手段を問わない、ということはさくらが今述べた常識的な事はもちろんのこと――


「――カイトがそれを拒んだら、適当な理由を付けて身柄を拘束し、挙げ句の果てにはその道のプロがカイトから聞き出すために拷問、もあり得る」


 普段通りのカイトならばそう簡単に口を割るとは思えないが、ギルド側はどんな非道な行いをするか分からないし、それが終わりの見えない地獄ならば嫌でも口は簡単に開いてしまうだろう。


 そして造り方の中には僕たちの情報も含まれているので、そうなってくると他人事では済まない。僕一人が狙われるのならどうにかすることが出来るが、生憎さくらもカイトの鍛冶に関与しており必要不可欠なパーツなので、カイトの口から聞き出した情報を元に確実にさくらも狙われる。この前のガンダのこともあったので、百パーセント守り切れる自信が無いのが正直なところだ。


「だから、丁度良い具合に今から少しだけ加工する」

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