第三のウワサ
続いて俺らが向かったのは、東エリアの最も北に位置するアクアエリアと呼ばれるところだ。
「川下りを楽しむところでした。今は水の循環も止まっていますが、雨が降るおかげか、プール部分の水が涸れたことはありません」
ちなみに、排水設備も今は使っていないということだ。
電気は来ているが、おそらく装置類はしばらく動かしていないので、再始動は難しいだろう。
「ここはアクアツアーと呼ばれていたところなんですか」
プロデューサーがパンフレットを確認しながら尋ねる。
「ええ、噴水や小さな水族館などがありました。その中心がアクアツアーと呼ばれた施設になります」
火山に似せた山や涸れた滝や橋が見えてくると、確かにパンフに描かれた絵のような光景が広がる。
ジャングルツアーのように、船に乗って川の流れに沿って動いていくだけのようだが、夏場は盛況だったようだ。
「ここでは謎の生き物の影があったという話を聞きました」
「ええ、ネッシーになぞらえて、ウッシーとか呼ばれていました。今もいるという話ですが、実はこれだけは私も見たことがあるのですよ」
「えっ」
そういう話を待っていた。
そう言わんばかりにプロデューサーの目が輝く。
「詳しくお教えいただけますか」
すぐにカメラも風景を映していたのに、弁護士を向く。
「あれは、閉園直後のことでした。暑い日で、大阪では35度に達したというニュースが流れていたのをよく覚えています……」
弁護士によれば、このアクアツアーには、巨大な池の部分と皮の部分、滝の部分と水源は3つに分かれている。
そのうち池にあたる所で、その姿を見たとのことだ。
閉園後、竜乃牙の人らと一緒に案内を受けていると、バシャンバシャンと水音がする。
誰かが石を投げこんでいるような音だったそうで、閉園したことを聞きつけて、誰かが入ってきたのかと思ったそうだ。
そこでその水音の方向へと歩いていると、人の姿はない。
アクアツアーの中から、相変わらず水音がする。
となれば、泳いでいるのかと思い、懐中電灯でそこを照らしたそうだ。
すると、そこには尾びれが見えた。
マグロのような大きな尾びれだったそうだ。
それが水面を叩いている。
そして、フアッと水面が盛り上がったかと思うと、人の顔が見えた。
胴体、尾部も。
「……つまりは人魚だった。そういうことですか」
「ええ、確かに私が見た彼女は人魚でした」
一応言っておくと、裸だったそうだが、それはこの話の本筋ではない。
「そのお話、詳しくお聞かせ願いたいのですが、よろしいでしょうか」
今日は単なる取材下見であり、本番の取材日を別に設定したうえで話を聞くということとなった。
人魚は、存在するのか。
思わずアクアツアーの中をのぞき込んでみたが、何も見えない。
不透明な水は、何もかもを飲み込んで、その中は異空間のように思えた。