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廃墟  作者: 尚文産商堂
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プロローグ

噂は、昔から聞いていた。

随分昔に潰れた、『裏野ドリームランド』。

開園当初はそこそこな客入りだったそうだが、10年も経たない間に誰も来なくなった。

それで潰れた。

今じゃ廃墟マニアも来る、立派な廃墟が出来上がった。

だけど、ここに来るのは、廃墟マニアだけではない。

そう、ここには裏の顔がある。


手野テレビの夏休み特集ということで、毎年一つ、都市伝説に光を当てて調査するということをしていた。

俺はそんな特集用の部局で働いていて、プロデューサーから意見を求められた。

たまたまそこを通りかかったとか、そんな理由でだ。

「えー、俺っすかぁ?」

「頼むよ、大概のことはやっちゃってね」

と、プロデューサーに言われたら、俺も何か言わないわけにはいかない。

「んーそうですねぇ」

そこで思い出したのが、裏野の話だ。

たしかここから車で30分もかからないはず。

「昔潰れた、裏野ドリームランドって覚えてますか?」

「ああ、そういやそんな遊園地があったな」

「あそこ、ネットでまことしやかに噂が流れているんですよ。どうです、そこ」

「いいんじゃないか。そこにしよ」

プロデューサーの一言で、今年の取材先が決まった。


テレビの公式でいくわけだから、いろいろと調べまわってみる。

また、土地の管理者の管財人に入園許可も取りに行くことにした。

手野駅から電車で40分、とある弁護士事務所へとたどり着く。

「ごめんください」

ドアを開けると、クーラーの涼しい替えが俺の体へと襲ってきた。

俺の手には、局からお持たせとして、手野市名物のひとつである、護持饅頭をもってきていた。

鬼おろし大根を生地に練り込み、粒あんを包んで蒸した郷土料理だ。

「どうぞ、お入りください」

暇なのかどうなのか、それは知らないがパソコンをねめつけていたスーツ姿の男性が俺に声をかけてきた。

「お電話をしていました、手野テレビのサブディレクターの天萌壬生あまめみおと申します」

「ああ、お待ちしておりました。どうぞ、こちらへお座りください」

弁護士は、仕事中だろうに俺を面談に使っているであろうソファへと座らせる。

秘書は昼休みだろうか、今は彼一人だけが事務所の中にいる状態だった。

「確か、裏野ドリームランドについて、でしたね」

「ええ、取材で入園しようと思いまして。それで、許可を受けに来ました」

そもそも普通であれば園の広報にでも電話をかければいい。

だが、破産して、閉まってしまった今回では、破産財団というのが作られて、そこが管理することとなっている。

その財団の代表理事に、この弁護士が就任しているということだ。

だから、ここで許可を取りに行くのは、弁護士が一番早いということになる。

「あ、お茶いかがですか」

いつもは秘書がーと言っているのを聞き流しながら、いただきますという。

そのタイミングでお持たせ饅頭を渡した。


「入園許可は出してもいいですが、いくつか条件があります」

「条件、ですか」

お茶を一杯飲んでから、弁護士が言い出す。

「ええ、まず、テープ、ああ今はデジタルデータですかね。これを私がすべて確認して、放送できるかどうかを決定します。もともと宗教団体が作った遊園地ですので、宗教施設がいくつか点在しているのですよ。それが映ると、元の団体がとかくいうので」

宗教法人として登記されたのは1900年。

この裏野ドリームランドの母体となった、「竜乃牙」と呼ばれる宗教団体だ。

この世界は自らの尾を追いかける竜の内側に広がっていて、そこから抜け出せることができれば、新たな世界へと抜けることができるということらしいのだが、今は信者数も数万人程度で小規模なものだ。

ただ、この遊園地ができたときには、数多くの信者が来たとされている。

今となっては昔の話ということだ。

「分かりました。それで、それ以外には」

「噂をご存知ということでいいのですよね」

唐突に弁護士が言ってきた。

「ええ、子供がいなくなるっていう話でした。他にもいくつかあるようでしたので、そのあたりもまとめて取材をしたいと考えています」

俺が弁護士に言ったとたん、とある神社の名刺を俺に渡した。

「ここの宮司さん、正確には住み込みの方についてきていただきます。念のため、ということです」

「竜乃牙の方々は来ないのですか」

「彼らは忙しいので、来られません。代わりに私が同行します」

「分かりました。この、砂賀黒姫社の宮司さんは……」

「手野八幡神社の宮司さんと同一となっています。当日にお引き合わせします」

「それでは、よろしくお願いします」

その他、こまごまとした話し合いをして、俺は弁護士事務所から出た。


2週間後、取材下見当日となり、廃園となった裏野ドリームランド正門前で集合した。

今回は下見ということで、本撮影は1週間後を予定している。

2回撮影するのは、本撮影時の撮影ルートの確認と、建物の廃墟具合を確認するという目的がある。

これらのおかげで、タレントは安全に撮影できるのだ。

正門はアーチ状になっており、その頂上にはマスコットであった裏野ちゃんと呼ばれるピンク色をしたウサギの顔が張られていた。

が、それも色あせていて、聞いていなければピンク色かどうかわからないだろう。

すでにカギは開けられていて、受付と大書されたところに二人いた。

片方はクールビズ姿の弁護士で、もう片方がどうやら宮司のようだ。

狩衣を着ている。

「はじめてお目にかかります、手野八幡神社で宮司をしております砂賀弘周(すながひろかね)です」

手野グループの創業者一族である手野家の本家である砂賀家とは、江戸時代に分かれた血筋らしい。

手野八幡神社の宮司職を代々世襲しており、1817年の創建以来変わらない。

なお、本家筋は砂賀家(さがけ)であったが、こちらは砂賀(すなが)といっている。

「それでは入ります。足元と頭上に注意してください。怪我したら教えてください。王宮セットは持ってきましたので」

そういって、正門のカギを開けた。

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