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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
二年 夏

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間話 メイド派出所のクリスマス。 

 「せんぱーい、滑らないように気をつけてくださいね」

「任せろ。あたしを誰だと思っている」

「そうですね。真城先輩は滑りませんね、ギャグ以外は」

「なっ、リラ、どういうことだそれ」


 わいわいがやがやと、結城先輩が屋根から雪を落としていく。落ちた雪を丸めて私と東雲先輩で雪だるまのパーツを作る。


「明日ですね、クリスマスパーティー」

「そうですね。うーん、正直めんどくさいです」

「あはは、候補生の私は裏でお手伝いですけど、先輩方はフロアに出るのですよね」

「そうですねぇ、知り合いがいれば多少はサボれるでしょうか。あっ、乃安さん、その雪はかまくらにでも使いましょう」

「はい」


 イルミネーションの準備もほぼ終わり、雪集めにほとんどの人員が割かれている。綺麗な雪を集めて、それを使って庭を少し賑やかなものに変えていく。器用な人は雪で像を作ったりする。プチ雪祭りだ。


「まぁ、私はせいぜい丸めた雪を積むだけですけど」

「大丈夫ですよ。そういえば、メイド長からの当日の人員配置、乃安さん、調理班とのことですね。大出世じゃないですか」

「あはは、陽菜先輩が抜けてしまった穴は大きいですから。私のような雑兵もそれなりの所に着けるという事ですよ」


 せっせとスコップを動かしてかまくら用の山を作っては固める。


「よう、終わったぜ。今日は後は降らないみたいだから、屋敷で集められるのはこんくらいか」

「お疲れ様です。命綱つけなかったのですか?」

「落ちても死なねぇよ。あたしの受け身技術甘く見るな」

「落ちたときの衝撃より、それによって埋まって亡くなる例の方が良く聞くのですか、そこら辺の所は?」

「知らん。あたしは埋まらん。それよりも少し休もうぜ、疲れた」

「そうですね。少しお茶にしましょう」

 




 「ぷはぁ、生き返る!」

「紅茶で出す声では無いですよ、真城先輩」

「んあ? まぁ、気にするな」


 窓から見える庭には雪がどんどん集まり山となっている。夕方になればそれぞれに形が与えられ、庭の装飾物の一部となる。

 晴れた空に雪が舞う。外の寒さと対照的な温かさが手に伝わる。寒さでかじかんでいた事に今更気がついた。


「陽菜お姉さま、今頃どうしているのかな」

「夏頃に一回帰ってきてたけど、会わなかったのか?」

「はい、残念ながら。話は聞いていたのですけど」

「そうか、まぁ、しばらく帰ってこないんじゃね? 春の定期報告会及び研修までに正式に登録されれば、会えるかもよ。ほら、今度の登録試験受けるんだろ。あたしもリラも協力すっから」

「はい。ありがとうございます。……そういえばお姉さまは登録されて一年で赴任でしたっけ」

「あぁ、そうだけど。それがどうした?}

「その間、どんな感じでした?」

「あぁ、あいつほとんどの時間、新しいご主人様に関することやら、赴任先で通う学校の事やら調べて、後は高校受験の準備してたからな。指導係の方も免除されてたし」

「なるほど、それで……。しばらく見かけなかったので、ちょっと心配でした」

「まぁ、大丈夫だ。元気にしてるから。あたしが保証したる。リラ、もう一杯」

「はいはい。飲み過ぎないでくださいよ」


 思い出すのは一昨年の冬。お姉さまに登録試験の話が出てすぐのクリスマス。あぁ、あの時はお姉さまも屋根に上っていたっけ。


「乃安さん、頭上に注意してください。あと、真城は命綱つけてください」

「呼び捨てって、一応先輩だからな」

「では、脳筋先輩、命綱をどうぞ」

「なっ、てめぇ、このロリッ子!」

「まぁ、年齢的にその区分は間違えていませんね。年増先輩より若いですから」

「おい、喧嘩売ってるのか?」


 屋根の上の陽菜先輩は無表情で煽る。それでも口の端には隠しきれない悪い笑みが浮かんでいた。


「えぇ、早くそれを付けないと、先ほど落とした雪の中に真っ逆さまですよ」

「上等、その前に仕留めれば良い話」


 あの頃は、どうして煽るのかよくわからなかった。一緒に下で雪を運んでいた東雲先輩もあきれ顔、けれどそんな事があったおかげで、私は結城先輩と東雲先輩と関りを持つことができた。

 お姉さまはその優秀さから、派出所のメイドたちとも交流を持つことができた。基本の授業を免除され、派出所本館の方でメイドたちから色々教わっていたらしい。

 別館で行われる候補生の講習で見かけることも少なかった。それでも、時間を見つけては目にかけてくれる先輩、私を屋根の雪下ろしに呼んだのはこの二人と関わらせるためだろう。山を駆け回って雪を回収するのは個人作業だ。そこで新しい関係を生み出すのは難しいのは、今振り返れば理解できる。

 去年はイルミネーションの方でトラブルが起きて、陽菜先輩がそっちに行ってしまって、その後はフロア班の指揮に行ってしまって、ほとんど会えなかった。


「乃安、何ぼさっとしてんだ。そろそろ休憩終わるぞ」

「はい! そういえば、執務室からメイド長の雄たけびが聞こえましたけど、どうしたのでしょうか?」

「それは聞こえなかったことにしろ。面倒だから」

「はい、でも、もう遅いようです」


 どす黒いオーラ、廊下の気温がガクッと下がったような感覚。何かが確実にこちらに近づいていた。


「おう、お前ら、丁度良い所に。今さ、ドタキャンされたんだよ。秋から告知はしておいたのによ。何が政府高官との食事会だ。後からしゃしゃり出てきた方を取りやがって。二度と呼ばねぇ」


 私でもわかる。それは断った方が正しい。企業関係者ならともかく、このパーティーにでて政治的なメリットは無い。経済界に影響を持ちつつあるメイド長も、まだ政治に対する発言権は持てていない。


「おいリラか真城、陽菜に連絡しろ。ついでにあの少年も呼べ。居づらいだろうがら呼ばなかったがあいつらの顔が見たくなった」

「じゃあ、私が」

「よし、リラ、頼んだ。真城は明日迎えに行け。乃安は顧客データから日暮相馬のページを確認、あいつの好物も追加してやれ。確か、寿司とか好きだっただろう。あとは卵料理とか書いてあったか?」

「はい、了解です」


 お姉さまのご主人様、どういう人なのだろう。そんな疑問が頭をよぎった。







 「乃安、駄目だ人が足りない、お前もフロアに出ろ。盛り付けはこっちでやっておく」

「はい!」


 調理はひと段落。私の担当している部分は落ち着いた。あともう少しで吹奏楽部の演奏が始まれば、そちらに注目が集まり、フロアも少しは気分が楽になるはず。

 服装を整えフロアに出ると、あっ、東雲先輩、あんなところで。あれ、お姉さま? 隣にいる人は、優しそうな人だな。少しぼんやりした感じもあるけど、穏やかそうな人だ。考え込んだ表情で髪をいじっているのは癖なのかな。


「おっと、仕事仕事」


 お姉さまのご主人様、見た所同年代みたいだ。ちょっと話してみたい気がするけど、ちらりと見たあの表情、隠せていない。


「幸せそうだったな」


 皿をお盆にどんどん重ねていく。あぁ、仕事にここまで没頭したいと思ったのは初めてかもしれない。お姉さまと話したい。


「ふぅ」


 厨房に戻ってため息をつく。気がつけば結構仕事をしていたみたいだ。


「お疲れ」

「あっ、お疲れ様です」


 先輩メイドの人、もう行ってしまったから誰だかわからない。


「食器洗おう。うん」


 うぅ、これは何でしょう。もやもやです。厨房まで聞こえてくる吹奏楽部の奏でる旋律に身を委ね、鼻歌交じりに食器を洗うも気が紛れない。

 奥の休憩室から調理班の人たちが休憩がてら軽いクリスマスパーティーをする声が聞こえる。去年の私は、お姉さまと一緒に混ざっていた。


「これは、うん。寂しいのかな、私」


 お姉さま、か。未だにそう呼んでしまっているのは、私がまだ子どもだから。うん、もっと成長しよう、成長すれば、また会える。

 根拠のない確信とともに、私の手の中でガラスのコップがパリンと割れた。





 そして、クリスマスが終わり、けれどもその興奮も少し残る26日の朝。


「あの、結城先輩」

「おう、どうした。あぁ、今日は休みだもんな。それで、武道館までわざわざどうかしたか?」 


 朝の武道館、剣道場と柔道場に分けられたその空間、剣道場の中央に結城先輩は正座し目を閉じていた。朝から練習するつもりなのか、既にその格好は道着に袴だ。


「あの、私に何か武術、教えてくれませんか?」

「うん、良いよ。丁度良いや、私も稽古相手探していたし。リラは休みの日は絶対起きてかないからな。今日は剣道の気分だから剣道で」

「ありがとうございます」


 そうして、厳しい練習が始まった。


「余計な力を抜く、ほら、足がおろそかだよ。腕だけで剣を振ろうとするな」

「はい!」

「肘も使う! 安物のガ〇プラか」

「すいません、その例えはわかりません」

「ネタの説明は恥ずかしいからやらせるな」

「すいません」


 木刀で素振り、持ち方を覚えるならこれが良いらしい。既に何回振ったのだろう。まさか面も着けさせてもらえず、延々と一時間素振りとは。


「基礎の基礎も固めずに面を着けられると思うな。次は足を徹底的に叩き込むぞ。これが終わったら山道ダッシュな。そしてすり足。地獄の足しごきだ」

 私は、教えを乞う相手を間違えたのだろうか。



 「はぁ、はぁ」

「まぁ、今日はこんなものかな」

「あ、ありがとうございました」


 全身が痛い。最後は根性だ。結局今日は面を被ることは無かった。


「雪も片付いたし、一石二鳥だね。ほら、肩貸すから立ちな。シャワー浴びよ」

「はい」


 お姉さま、いいえ、朝野先輩、私は成長した姿をいつか、あなたに見せられるよう頑張ります。


「そういえば何で私?」

「うーん、強さってキーワードで考えたら、武術で、そう考えたら結城先輩でしたので」

「いや、そこは家事洗濯磨けよ。リラ叩き起こすなりして」


 朝野先輩、道は遠いですけど、春にはあなたと一緒に研修受けられるよう、努力します。

 


 そうして、無事登録試験に合格し、正式にメイドになった朝比奈乃安は、思わぬ形で朝野陽菜と再び出会う事になる。


「えっと、メイド長、その、高校受験を突然受けろと言われましても、しかもここ、偏差値高くないですか?」

「余裕だ。そこに合格し、陽菜の元でさらなる訓練だ。これは業務命令と心得ろ。三年間の研修だ」

「はい、お任せ下さい」

 

 乃安を見送り、メイド長は一人ほくそ笑む。願書を勝手に出したのはメイド長だ。そして、乃安が合格することは確信している。別に裏で取引しているわけでは無い。乃安が自身の力のみで合格できることは、彼女にとって当然の未来なのだ。


「あとは、陽菜のメイドに対する執着をどうにかしなければ」


 そればかりは、メイド長にはどうすれば良いかまだ見えない部分だ。相馬との相性の良さは予想通り、いや、予想を超えていた。そして、陽菜のメイドに対するこだわりもまた、想定外の事だった。


「いやはや、楽しいね、予想外が起きるというのは。もっと楽しませてくれよ、若人よ」

 

 そして、乃安が試験で作ったターキーに思いっきりかぶりつき、グラスに入ったワインを一気に飲み干した。



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