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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
二年 夏

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第八十五話 狂犬物語 1

 中一の春に誘われて不良になった。今の俺を形作ったのも、そして俺が今こうしているのも全て、今から話す二年の秋がきっかけだ。



「おら、終わりだ。戻るぞ」

「はい!」


 後輩を一人引き連れて店の中へ戻る。行きつけの定食屋に他校の奴らがいるとは思わなかった。


「京介さん、ありがとうございます」


 まぁ、もう一つ意外なことと言えば、この一年の後輩がまさかいきなり喧嘩を売りに行くとは思わなかったことだな。

 店の店主に詫びを入れつつ、明太子チーズ唐揚げ定食を注文する。


「またそれっすかー。好きっすね~本当に」

「うっせぇな。おら、お前も奢ってやるから何か食え」

「あざーす」

「いきなり喧嘩売りに行くな。弱いなら弱いなりの行動を知れ」

「だって京介さん、強いじゃないっすか」

「俺が負けたらお前がやられるんだぞ」

「あははー。その時はその時っす」

「たくっ」


 今日の集まりは四時からだったか。ポケットに突っ込んでおいたスマホを確認。


「京介さん、リーダーがすぐに来て欲しいそうです」

「これ食ってからな」

「でも!」

「大丈夫だぁ。あいつらしぶといから」


 心底どうでも良い。どうせ俺が行けば勝てる。どんな劣勢でもひっくり返せる。


「ほら、食え食え、腹が減ったら何とやらだ」

「は、はい」


 食べ終わって、呼ばれた場所にバイクで向かって、そこでいつも通り他校の、名前も知らないやつらの顔面に拳を叩き込む作業だ。


「これで良いだろ」

「あざっす、京介さん」


 リーダと呼ばれている男にまで敬語を使われるのは、変な気分だが、実力至上主義なら仕方ないのかもしれない。


「それじゃあな」

「おう」


 俺は一人家に帰る。最近は全く身に入らなくなった不良行為。バイクでの暴走も参加しなくなった。

 もうすぐ冬だ。それが過ぎれば三年になる。そうして卒業して、その後の俺に何が残るのか。ガチガチに固まった拳とすっかり乗りこなしたバイク、後は父親との約束で勉強し続けた理科の知識。これで何ができるだろう。

 バイクを停め、家に入る。家には誰もいない。父親は今頃大学で研究か。母親もまだ仕事中だろう。父親の書棚から専門書とかいう本を一冊。もう理解した内容だが復習とかいう奴だ。


「もしもし」

「京介さん、今日も参加しないんすか?」

「あぁ。勝手にやっていてくれ」


 さっきの後輩からの連絡。うざったらしい。面倒だ。


「そっすか。わかりました」


 はぁ。と思わずため息を吐く。読む気が失せた本を机に投げ、冷蔵庫からラップにくるまれた晩飯を取り出し、レンジで温めるのもおっくうになり、そのまま食べるが、食えたものではなくやっぱり温める。

 何やってんだ俺。

 授業も成立しないこの学校で、今更高校に行きたいと言っても無駄な話だろう。何が大学行ってそのまま俺の助手になれだ、クソ親父。






 次の日も、一応学校に向かう。バイクで校門を突っ切り、数少ない一般生徒から怯えた目を向けられるのもいつもの事だ。


「あっ、京介先輩!」

「おう」

「リーダーから西校から喧嘩売られたから殴り込みに行く、手伝えだそうです」

「勝手にやってろって伝えとけ」

「えっ、でも西校には奴がいるからキツイと」

「んな頭でっかちで喧嘩弱い奴に今更手こずるなし」


 奴、萩野は殴り合いに強いタイプではない。統率力と作戦で勝負する。一人じゃ何もできない。しかしうちの学校も何回かそいつに嵌められて逃げ帰る事もあった。

 あいつの作戦に真っ向から打ち勝ったのは俺くらいか。


「それに、そいつがいるとわかっているなら殴り込みに行く方が思うつぼってやつだ。俺は知らねぇ。そもそも中学の俺らが高校に挑むってのがおかしな話だしな」

「あっ、先輩!」


 俺はさっさと学校に入る。後で臆病風に吹かれたとか言われても知らない。

 一年の頃は楽しかった。自分より実力が上の奴らもいた。その差をひっくり返せた時は確かに喜びを感じた。この感覚だけは嘘じゃない。俺がいれば勝てる、そんな風潮が広がり、他校を傘下に入れて、気がつけば地元の中で一番の勢力を誇る学校になっていた。

 虚しいと思ったのはいつからだろう。拳のやり取りが作業になっていたのはいつからだろう。

 教室の机に足を乗せ、窓の外を眺める。廊下を駆け回り「西校攻めだー!」と叫んで周り戦力を募る奴に二回、同行を求められたがもちろん断った。

 しばらくして校門の方から先生の怒鳴り声が聞こえ、それに混じりバイクの集団がエンジンを鳴らして学校から遠ざかっていく。あの後輩のバイクが見えた。

 しばらくして戻って来た。勝ったらしい。



 校舎を出ると、十人くらいか、が。俺の前に立ちふさがった。他校の制服、よくうちの奴に見つからなかったな。


「何だよ」

「てめぇ、忘れたとは言わせねぇぞ。昨日俺の後輩を……」


 最後まで聞かずに俺はそいつの顔面に拳を叩き込んだ。当たり前のように、それは必然のように、決定された未来に従うようにそいつは地面に転がった。


「喧嘩したけりゃ顔近づけてごちゃごちゃ言う前に殴れ。殴られたいならどうぞ顔近づけろ」


 後はいつも通りの作業だ。殴って地面に転がすだけ。数分もすれば俺の駐輪場への道は完成だ。


「おい、運んどけ。他校の奴だ」

「はっ、はい」


 適当に傍にいた見覚えのあるやつに処理は任せて俺は帰る。


「先輩、待ってください。今日は参加しないのですか」

「しねぇよ。じゃあな」

「待ってください。お願いします。今日はどうか」

「やらねぇよ」

「お願いします」


 無視して発進しようとするが、バイクの前に土下座されては発進もできない。


「ぶっ飛ばすぞ」

「構いません」


 何でこいつは。まぁ良い。仕方あるまい。


「わかった。さっさとバイク持って来い。どこに集まるんだ」

「はい! ついてきてください!」


 かれこれ二か月ぶりの参加を決意した。

 風を切る。勘は鈍っていなかった。


「先輩、正面に他校の奴らがいるそうです!」

「突っ込め。リーダーもそう言うだろ」

「はい!」


 片手でバットを振り回しながら突っ込んでいく。とは言っても後ろの方を走っている俺が乱戦に入る頃には先頭部隊によってほぼ片付いていた。数分もすれば道は開いて駆け抜ける。


「ははっ」

 つまらねぇ。つまらねぇつまらねぇつまらねぇ。くそっ、こんなつまらねぇのはうんざりだ。

「おい! 京介! 隊列乱すな!」

「うるせぇ」


 先頭に躍り出る。警察が俺らを止めるべくそこにいた。


「邪魔だ!」


 気がつけば俺は警察の奴らに取り押さえられていた。半分は逃げたらしい。結果的に俺の単独行動のおかげで警察の厄介になる奴らは減ったと後で逃げ切れた奴から聞いた。迎えに来た父親は何も言わずに俺を連れて帰った。



 ここまで聞いて僕は一度止めイヤホンを取った。京介のお父さんは黙って僕を見ていた。


「少し休憩にするかい」

「はい」

「そうか。すまないね、授業があるのに」

「いえ、構いません」

「なに、安心したまえ。大学の教授という立場はわりと便利なものでね、進路関連の云々と言えばあっさりと君の事を解放してくれたよ」

「そうですか」


 お茶は既に冷めていた。陽菜と夏樹は探しているだろうか。そういえば弁当を食べ損ねたな。けれど既に空腹は消えていた。作ってくれた乃安には悪いことをしたな。


「続きは聞くかい?」

「はい、聞きます」

「そうか、その前にこれを食べなさい。酷い顔だ」

「チョコですか?」

「あぁ。私も研究に疲れた時はこれを食べる」


 確かに頭がすっきりする。靄がかかった意識が晴れ渡るような感覚がする。

 イヤホンを着ける。再生ボタンを押すと、再び京介の穏やかの声が流れ出した。


  

 

 

 

 

 


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