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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
二年 春

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第七十九話 メイドが帰ってきます。

 ベッドの傍に誰かがいる。いや、もうこの流れなら誰なのかはわかるのだが。うん。


「何しているの、乃安」

「あれ、起きましたか?」

「うん。着替えるから部屋出てくれ」

「あっ、はい。すいません」


 ペコペコと頭を下げながら部屋を出て行く。とりあえずジャージに着替え部屋を出ると既に乃安は廊下にはいない。何をしに来たのだろうかと考えるが、ふと見たスマホの画面が答えを示していた。


「うわ、何でこんな時間に」


 いつもより三十分遅い起床。確かに起こしに来てもおかしくない。

 台所を覗くと、結った髪を揺らし、トントンとリズミカルな音を立てながら朝食を作る乃安がいる。


「ちゃんと目、覚めましたか? 寝坊もたまには良いと思いますよ。今日は日曜です」

「そうは言ってもね、ちょっと焦った」

「わかります。私も、訓練を始めた頃はよく寝坊したものです」

「何時に起きなきゃいけなかったの?」

「四時です」


 まぁ、慣れていない人は寝坊するな、その時間は。


「あれ、何歳から訓練しているの?」

「十歳の頃ですね。先輩、そろそろ朝食できます」

「了解」


 その日も昨日とは変わらずに過ぎた。そろそろ夕方という時間帯、部屋から持ってきた本を読み返して、しかし一度読んでいたからか、すぐに読み終わる。暇を持て余し、陽菜はいつ帰って来るのだろう。そんな疑問が頭に浮かび、しかし連絡が来ない故に確かめようもなく、思考を打ち切る。


「先輩、おやつ用意しました」

「ありがとう」


 二日も会わないと、やはり不安になるものだ。

 自分の気持ちを疑いはした。それでも陽菜の事が大事なのは確かだった。


「先輩、嬉しそうな顔していますね」

「そうかな?」

「はい」


 自分勝手な納得だとは思うけど、今はそれで良いと思える。すっきりしたような気がして、用意してくれたおやつ、今日はスイートポテト。季節外れな気がするのは気にしない。


「あの、先輩。考えてくれましたか?」

「何を?」

「私にして欲しい事です」

「あっ、考えてなかった」

「もう。まぁ、強制することでも無いので。良いです」

「ごめん」

「先輩が、謝ることでは無いです」


 会話が途切れる。そのタイミングを見計らったかのように呼び鈴がなる。


「私が出ます」


 誰だろう、我が家を訪ねる客は少ない。心当たりは無いけど。

 そうしてしばらく、なかなか戻って来ない乃安、誰が来たのだろう。

 また、呼び鈴が鳴る。仕方ないので玄関に向かうと、何故か扉の前で乃安がしゃがんでいる。


「申し訳ありません。これは私が出たらいけないやつです、お願いします」

「うん、良いけど」


 小声でそう言うと、足音を忍ばせ、周到に自分の靴を回収して乃安は二階に上がっていく。そういえば派出所のメイドは隠密行動も得意とか言っていたような。女の子になんてもん教えているんだ。

 さて、待たせるのもまずい。誰だろうか。


「今出まーす」

「はーい。相馬くんかな? やっほー」

「ヤッホー」


 馴染みの声が聞こえる。扉を開けると、そこには夏樹がいた。


「陽菜ちゃん、いる?」

「実家に帰っている」

「喧嘩したの?」

「してない」

「そうかそうか。上がって良いかな?」

「良いよ」 


 なるほど、確かにこれは乃安が出たらあらぬ疑いを受けかねない。主に僕が。


「いやはや、突然連絡も無しにごめんね」

「うん、それで、要件は?」

「うん。えっとね。そうだね……」


 言い難い事だろうか。視線が泳いでいる。


「あの、ね。その~。うん。あっ、そうだ。いや、違う」


 どうしたのだろう。ものすごくそわそわしている。


「えっ、ちょっと待って。そんな疑わしい物を見る目で私を見ないで」

「いや、まぁ、ね」

「呆れた目に変わったー」


 大方、用事もなく来たといった所だろうか。まぁ、それならそれで良いのだが。乃安も部屋で休む口実ができる。


「いやー、となると二人きりか。陽菜ちゃんいつ戻って来るの?」

「今日の夜には」

「そっか、ふーん。……夕飯、作ってあげよう。それなら」

「はい?」

「もう、知ってるでしょ。私だってできるよ、料理くらい」

「まぁ、そうだけどさ」

「肉じゃがだね、肉じゃが。台所借りるねー」


 背負っていたリュックから買い物袋取り出す。その中には確かに肉じゃがの材料が入っている。

 うん、まぁ。良いかな。展開がいきなりすぎるが、もうなるようになれといった気分だ。




 「はい、召し上がれ」

「ありがとう。いただきます」

「さて、要件だっけ。うん、話すね」

「要件、ちゃんとあったんだ」

「あるよ、そりゃあ。言い辛かっただけ」


 そう言って、僕と向かい合わせに座る。身を乗り出して、鼻と鼻が触れ合いそうな距離、近い。夏樹は無意識のうちに距離が近いことがある。だからもう、戸惑うことは無い。いや、嘘だ。めっちゃドキドキする。


「あのね、気になったんだけど。相馬くん、陽菜ちゃん無しで生活できてる? 私の料理、美味しい?」

「はい?」

「だからね。私、心配なの。相馬くんと陽菜ちゃん。お互いがお互いに依存し過ぎないか」

「それは、どういう」

「陽菜ちゃんがもし、いなくなったら、相馬くんは生きていけるのかって。このままずっと仲良しなら良いけど、それでも、進路が別れたりしたら話は別でしょ」


 真剣に、そう危惧しているようで、箸で僕に自分の料理を突き出す。家庭的な良い匂いのする、ちゃんと柔らかそうなジャガイモ。肉じゃがは好きだ。嫌いな人の方が少ないだろう。


「他の人の料理、美味しく食べられる?」

「それは……」


 問題ない。現に、僕は乃安の料理を。料理を?

 いや、あの料理、陽菜の味付けの仕方と全く同じだ。ほとんど、違いは無く。

 恐る恐る布良さんの肉じゃがを口に入れる。


「美味しいよ」


 美味しいけど、そうだ。確かに。どうしても比べてしまう。それは、陽菜の料理が美味しすぎるからか、物足りない部分に意識が行ってしまう。


「だからね、気をつけてね。私がどうにかできる事じゃないけど。意識するだけでも違うと思うから。それじゃあ、また明日。陽菜ちゃんにもよろしく伝えてね」


 あっさり帰っていった。どうして、今なのだろう。わからない。けど、こう実感してしまうと、駄目な気もする。

 依存することは悪いのかもしれない。確かに良い印象は持てない。


「先輩、あれ、夕飯?」

「あぁ、乃安。うん、作って行ってくれた」

「そうですか。そういえば今、連絡が来まして、朝野先輩、もうすぐ帰って来るそうです」

「そっか。乃安、お願いあるのだけど。自分の料理、作ってくれないかな」

「どういうことですか?」

「陽菜に似せないで、自分流の」

「それは、できません。すいません、せっかくのお願いなのに」


 申し訳なさそうに目を伏せる。外で車の音が聞こえ、玄関の鍵が開けられる音がする。


「私は、陽菜先輩のように、陽菜先輩になりたくて今まで頑張ってきました。何から何まで陽菜先輩を真似してきました。でも、能力が足りない。壁がありました。だから……あっ、朝野先輩」

「ただいま帰りました」

「すいません、気づかなくて」

「良いのです。夏樹さんが来たと聞きましたが、もうお帰りになられたようで」

「うん、夕飯作って行ってくれた」

「そうですか」


 二日で何か変わるわけでは無い、だけど新鮮な気がするのは不思議だ。

 乃安の様子の変化はわからないけど、でも、今の話の続きを聞き出したい、けど陽菜の前では無理な気がする。

 でも、「陽菜先輩」と呼ぶ乃安の声には強く何かが込められているような気がして、普段聞く「朝野先輩」から感じる無感情さを補完していて。

 そう簡単には踏み込めない領域の境界線をはっきりさせていた。 

 

 

 

 

 

 

 、

  



 


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