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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 冬

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間話 メイドと七夕に願いを。

時間は遡り一年夏です。


 「ご主人様、今日は七夕とのことですが、何か願い事はしますか?」

「うーん。どうしようかね」


 七月、梅雨が終わり晴れの日が続いている。とはいっても七夕の日に限ってなぜか曇ったりしてこの日に天の川を見た覚えがない。


「ご主人様は何か願い事はありますか?」

「思いつかないな」

「そうですか。困りましたね、笹竹取ってきてしまいました」

「マジで?」


 そんなことを話ながら階段を降りていくと、本当に玄関に笹竹が置かれていた。ちゃんと飾り付けもされている。


「どこから持ってきたの?」

「そこの山からです。所有者の方に交渉してみたらあっさりもらえました。来年からは一本くらいなら勝手に持っていって良いとのことです」

「あの山の所有者、気前が良いことで有名だからな」


 採れた山菜とか近くの幼稚園に提供したり自分が経営しているスーパーのデザートを買い取って従業員に差し入れにしているとか。


「陽菜は願い事したの?」

「はい。見ますか?」

「うん」


 どこからか取り出した短冊には丁寧な字で『平穏な日常と高い向上心』と書かれていた。


「一応、ご主人様にも短冊を渡しておきます」

「ありがとう」


 渡された短冊をポケットに入れ、僕は朝の日課に向かった。



 朝はまだ涼しい方だ。盆地のせいか蒸し暑いこの町、少し走れば汗が吹き出てくる。

 願い事か……。

 目標も夢も無い僕には難しい問いかけだな。


「簡単に書けばいいのだろうけど、それはそれで嫌だな」


 どうせ願うならそれなりに本気になれる願いを書きたいもので。雑念が入り冴えの無い稽古になってしまった。





 「よう」

「おう」

「おはようございます」


 今日は朝練が無いのか、教室の入口で桐野と会う。


「お前ら本当に仲良いな」

「幼馴染ですから」

「にしたってこの歳になれば少しは気恥ずかしさとか出てくるものじゃないか?」

「どうですか? 相馬君」

「無いかな」

「私もです」


 やれやれといった風に手を上げると。


「こんなところで話すのもなんだし教室入るぞ」

「はいはい」


 まだ誰も来ていない教室。窓を開けて換気、今日もくそ暑い中授業か。クーラーの一つでも付けてくれれば良いのに。職員室に行きたいと思ってしまう変な季節だ、夏は。


「学校の教室にクーラがつきますように、ですか。相馬君は一体何を書いているのですか?」

「いや、何となくそう思ったからさ。でも何か違うからこれは無しで」

「それが良いかと」


 どこからか取り出した短冊を差し出してくる。


「どこにしまっているの? ポケット?」


 すると突然手のひらを何も無いことを確認するかのように振る。


「どこでしょうね?」


 そう言いながら手のひらを翻すと突然短冊の束が出現した。


「おー」


 また翻すと今度はどこかに消えた。


「マジックもそれなりに嗜んでいますから。ちなみに答えはここです」


 驚いた。スカートにもポケットあるのか。




「夏樹さんは願い事ありますか?」

「願い事? そういえば今日は七夕だね。願い事か~」


 昼休み、いつものように机を合わせて食事。


「俺は決まっている。行くぞ甲子園だ!」

「良いかと思います」

「私は思いつかないかな~」


 渡された短冊に願い事を意外と達筆に書き上げる桐野と筆ペンを持ったまま悩む布良さん。


「意外と願い事は何?と言われると思いつかないよね?」

「うん、わかる」

「相馬君も書けてない人か」

「まぁね」


 何も書かれていない短冊を見せる。


「陽菜ちゃんは書いたの?」

「はい。既に吊るしました。書き終わったら貰ってもよろしいですか? 吊るしておきますので」

「了解」

「それじゃあ、俺のよろしく」

「確かに預かりました」


 布良さんがうんうん唸ると突然何か閃いたように書きだす。


「はい、お願いね」

「了解です」


 僕は、何を書こう。




 「ご主人様、悩んでいますか?」

「悩んでいます」


 家に帰りまだ夕方、星が出てくる前に書き上げてしまいたいのだが。


「そうですか。では私も一緒に考えてみましょう」


 アイスティとチーズケーキを目の前に置くとルーズリーフを取り出す。


「相馬君のやりたいことを上げて行ってください」


 やりたい事ね。僕はシャーペンを握った……。


「本当にそうなのですか?」

「うん」

「真っ白ですよ」

「そうだね」


 本当に空っぽな人間だな、僕は。


「困りましたね」

「そうだね」


 クーラーの効いた部屋。アイスティとチーズケーキの味が絶妙にマッチして美味しい。

 やりたいこと思いつかないな、困った。いや待て、逆に考えれば……。


「思いついた」


 字が汚い僕は筆ペンを取り出し陽菜に渡す。


「陽菜、お願い」

「何を書けばよろしいですか?」


 僕は陽菜に願い事を伝えた。





 「すごいですね。今年は見事に見えます」

「うん。しかしながら織姫彦星も大変だな。一年に一度しか会えないのに願い事されるなんて」

「幸せのおすそ分けという事で手を打ちませんか?」


 夕飯を食べ終わり外に出てみる。見上げれば空には光の川が流れている。


「これを川と表現した人を尊敬するよ」

「私はそれよりも星座という考え方を最初に思いついた人を尊敬します」

「確かに」


 星と星を繋いで形を作って動物とか人を表すってすごい考え方だな。


「願い事はちゃんと届いたでしょうか」

「僕のは届かないと正直困るな」

「そうですね」


『何か目標を持つことができますように。日暮相馬』

『平穏な日常と高い向上心。朝野陽菜』

『友達とずっと仲良くできますように。布良夏樹』

『甲子園のマウンドに立つ!桐野京介』


「来年もできると良いのですが」

「やろうよ」

「そうですね」


 まぁ、本当の七夕は来月だけどな。




  









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