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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 冬

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第六十五話 メイドの裁判を受けます。

 「さて、相馬君。説明していただく前に、これにサインしてください」

「これは?」


 陽菜が差し出した紙。色々書いてあってその下に署名欄がある。


「嘘をつかないでくださいね。という事です」


 椅子に座る陽菜を正座で見上げるという恰好。メイドであることを捨てた陽菜が再び降臨している。


「さて、相馬君。夏樹さんの裸を見たのですね?」

「うん」


 正直に答える。


「そうですか。では有罪という事で」

「ちょっと待て。故意ではないぞ」

「そうですか」


 陽菜が鞄から何かを取り出す。


「それは?」


 陽菜がにっこりと笑う。


「これはですね、相馬君を縛り付けてかまくらに放置するための縄です。一晩そこで猛省してください」

「陽菜ちゃん、それはさすがに」

「おっと、被害者が弁護しますか。これは聞きましょう」

「私が呼び出してね、それでね」

「夏樹さん、まさか露出狂……」

「違うよ!違うから!そんな事無いから」


 慌てた様子で手を振り回す。


「それ、相馬君の服ですよね?」

「そうだよ」

「相馬君、私にも服一着貸していただきませんか?」

「良いよ。僕の部屋から好きなの持って行くと良いよ」

「ありがとうございます。お風呂入って来るのでそこで待っていてください」


 陽菜が部屋を出て行き、二人になる。


「ふふっ」

「その笑い方陽菜っぽいな」

「そうかもね」


 口に手を当てて楽しそうに笑う。


「彼シャツってやつだね、陽菜ちゃんがやりたいの」

「彼シャツ?」

「サイズの大きい彼氏さんの服を着るのって憧れらしいよ」

「へぇ」


 初めて知った。


「お兄ちゃんみたい」

 ぼそりと布良さんが呟いた言葉。

「お兄ちゃん?」

「えっ、あ~。もしお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな~って」

「どうだろうね、もしいたとしても喧嘩ばかりかもよ」

「そんな事無いもん」


 結構強く来るな。


「きっとお兄ちゃんは優しくて頼れて、一緒にいたら楽しい人だよ」

「そうかもね」


 一概に否定することも無い。布良さんがそう思うならそうなのだろう。


「だから、お兄ちゃんみたいだな~って」

「そんな立派な人間かね」

「うん」

「ただいま戻りました。仲良さそうにしていて何よりです」


 ぶかぶかな服を着て戻って来た。袖に手は隠れて肩ははだけている。これに女子は憧れるのか?


「うーん、色々ギリギリだね」

「相馬君、体大きいですね」

「陽菜が小さいのでは?」

「それもあるかと」


 椅子に座り足を組む。裁判の続きでもするのかな。


「相馬君がお兄ちゃんだとしたら私は夏樹さんのお姉ちゃんになりますね」

「おぉ、確かにそうだ」


 さっきの話聞いていたのか。


「陽菜お姉ちゃん」


 そう言いながら抱き着く。そのままベッドにダイブ。


「ほらお兄ちゃんもおいでよ」

「さすがに無理かな」


 色々アウトだろ、あそこに飛び込むのは。


「お姉ちゃん、甘えさせてよ~」

「ちょっ、夏樹さん。色々当たってますし。そこは触らないでください!」

「えへへ、温かい」

「あれ?」

「どうかした?」

「寝てしまったようです」


 陽菜に抱き着いたまま動かない。


「このまま寝かせてあげましょう。私は動けませんが」

「了解、それじゃあおやすみ」

「おやすみなさいませ」


 どうやら僕は判決から逃れることができたらしい。




 「起きていますよね? 夏樹さん」

「気づいた?」

「はい」


 誤魔化せていると思ったのでしょうか。


「夏樹さん、お兄様いるのですね」

「それもわかっちゃったんだ」

「はい」


 夏樹さんは私の上から動こうとしない。この距離で人と話した経験は相馬君としか無い。綺麗な顔だと思う。


「今はどちらに?」

「天国かな、私の知る限り地獄に落ちるような人じゃなかったから」

「そうですか」


 夏樹さんの表情、それは思わず守りたくなってしまうような表情。弱った相馬君が見せる表情に似ていて、私は思わず手を伸ばした。


「優しいね」

「そんな顔するからです」


 頭を撫でる。相馬君が私にしてくれるように丁寧に、優しく。

 私を抱きしめる手に力が込められる。


「陽菜ちゃん、ずっと友達でいてくれる?」

「夏樹さんが私を嫌いにならなければ」

「なるわけ無いじゃん」

「それならずっとですね」

「うん。お父さんとお母さん、私が毎晩お兄ちゃんの仏壇の前で話しているのが不気味なんだって」

「はい」

「それでね。仏壇を処分しようという話になってね、それで喧嘩になっちゃって」

「はい」

「逃げてきちゃった。仏壇の部屋の中で籠城しようとしたらその前に部屋に鍵かけられちゃって」

「そうですか」


 泣いているのでしょう。服が濡れているのがわかりますし小刻みに震える肩、雰囲気も少し弱々しい。


「二人とも、お兄ちゃんの話嫌がるからさ。悲しい」


 家族、ですか。

 私と相馬君の関係は家族とはまだ言えない。私とメイド長は書類上家族だけど関係の距離としては相馬君の方が近い。派出所のメイドたちも仕事仲間と言った方がふさわしいだろう。


「ずっと友達ですよ、夏樹さん。友達ですから、私は夏樹さんのどんな話でも聞きます」


 今の私はこの家に来る前の私と違う事を初めて実感した。

 私は一人ではいられなくなってしまった。誰かと心で繋がる温かさを覚えてしまった。きっと私の心はもう孤独には耐えられないだろう、孤独の寒さを相対的に知ってしまったから。

 



 ジャージに着替えて一階に下りると、台所では女子二人が朝ご飯の準備をしていた。


「おはよう、日暮君」

「おはようございます。相馬君」

「おはよう二人とも」


 かまくらの次は雪だるまでも作るかと雪玉を転がす。ついでにかまくらの補強もする。

 布良さんの親御さんは心配しているのだろうけど連絡先がわからないからどうしようもない。警察沙汰になっていなきゃ良いが。


「日暮君、お疲れ様です」

「夏樹さん、朝ご飯できた?」

「うん」


 スコップを片付けて家に戻る。今日の気分は和食だからたぶん和食だ。


「相馬君、朝食ができました」

「ありがとう」


 ほらやっぱり。味噌汁に鮭の塩焼きに卵焼きに漬物にご飯。

 今日は練習再開の日、陽菜の改訂版台本が公演会を再開できるかを決める日。




 「うん、確かに可能ではある。でもそれはシーンの質を下げることに繋がると思うのだけど」

「しかしこれしか方法は無いかと思われます。できる限り質は下げないように努めました。お読みいただければと思います」


 差し出された台本を受け取り読み始める。

 しばらくして顔を上げる。その表情は強い決意と覚悟が感じられた。


「ありがとう。君たちの気持ちは受け取ったよ。でもこの台本は受け取れない」

「どうしてですか?」

「君たちがこの公演に本気になってくれていることが伝わったから。だからこそ台本の質を下げてまでやろうとは思わない。ちょっと行ってくるよ」


 そう言ってそのままどこかに駆け出して行ってしまう。

 演劇部の部室。三人で登校し、既に来ていた部長に提案してみたが、結果的に部長のやる気に火をつける事に成功したみたいだ。

 十分ほど三人で読み合わせをしていると部長がダッシュで戻って来る。


「野球部の人たちにお願いしたらどうにかOKしてくれたよ。なぜか一年生の男の子が加勢してくれてさ」


 京介か。劇成功させて焼肉にでも連れて行こう。


「さぁ、入鹿ちゃんが来たら練習だ」


 上機嫌の部長が窓を開けると、猛烈な風と共に雪が入って来る。 


「そういえば今、冬だったね」

「どの季節と勘違いしていたのですか?」

「夏かなと」


 どう勘違いしたらそうなるのかな。


「入鹿登場です!」

「入鹿ちゃん、おはよう」

「姉御、今日はシャンプーのにおいがいつもと違いますね」

「あらら、気づかれましたか。ちょっと今日だけ変えてみたのだよ」


 家出の事は内緒にするみたいだな。ちゃんと和解できるのだろうか。


「さて、公演まで時間無いから。今日からガンガン練習していくよ! 正月も無いと思ってね!」

「「「「はい!」」」」

 

 

  

 

 

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