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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 冬
66/186

第六十四話 メイドとクリスマスを過ごします。2

 朝起きる。目の前にある陽菜の顔、見慣れた無表情。


「おはようございます」

「おはよう」


 何回か迎えたことがあるこの瞬間、僕はこの瞬間が好きだ。心が繋がっている気がするから。


「僕のサンタは陽菜か。プレゼントに自分を置いて行くとはな」

「起き抜けに何を言っているのですか?それならこれもらって行きますね」

「これというのは?」


 陽菜が指さす方向、ゴロンと転がり反対側を見る。丁寧に包装されたそれは吊るした覚えのない靴下の中に入っていた。


「メイド派出所恒例の物ですよ。この屋敷はセキュリティが厳しいのでサンタも入れませんから」

「陽菜、もしかしてサンタ信じている?」

「当然です」


 お化けは信じていなくてサンタは信じるのか。


「あんな目立つ服着て、あらゆる家に侵入して散財していく奇特なお爺ちゃんを信じているのか?」

「はい」


 よくわからないな。どういう基準なのだろうか。


「起きましょうか。朝食はバイキング形式ですよ」


 体を起こしてプレゼントの中身を確認、入っていたのは棒状の何か。


「陽菜、これ何?」

「恐らくは携帯警棒ですね。振ってみてください」


 言われたとおりに振ると、ビー〇サーベルやライ〇セイバーのごとく棒が伸びた。


「何を思ってこれをくれたのだろう」

「相馬君、剣術も嗜んでいたそうではありませんか。だからじゃないですか?」


 まぁ、殴る蹴るより剣を使う方が得意ではある。剣で戦うか柔道的な戦いの方が得意だ。父さんは逆だな。


「持っておくと良いと思いますよ。ベルトに着けられるようになっているようですし」

「そうだね。そうする」




 朝食会場の大広間、既に結構な人が朝食を楽しんでいる。


「朝から豪勢だな」


 バイキングはとりあえず全種類を食べるというルールを課している僕としては嬉しい限りだ。


「美味しいな。下手なホテルより良い」

「照れますね。そこまで言われると」

「よう、相馬。プレゼントは気に入ってくれたか?」


 結城さんが座りやすいように椅子を引いてくれる。


「結城さんですか?あれ選んだの」

「おうよ。メイド長からの提案で見繕ったのはあたしだ」


 昨日の夕食会場で結城さんを見なかったのはそういう事か。


「今度稽古誘いに行くから、それに慣れとけよ」

「そうしておきます」


 綺麗に礼をして会場から出ていく。


「あの脳筋、見かけによらず隠密行動も上手で、プレゼント配るの毎年あの人がやっているのですよ」

「マジで?」

「マジです」






 朝食を終え、部屋でもう一度警棒を振ってみる。妙に手に馴染むのも結城さんが選んだという事で納得する。

 陽菜は先ほどから台本に赤ペンで修正を入れている。


「難しいですね。でも頑張りますよ」

「うん」


 こんな時、僕にできるのは応援だけだ。それが悔しい。気を紛らわせるようにもらったばかりの警棒を振り回す。

 帰ったらかまくらをもっと大きくしよう。唐突にそんな事を思いつく。大きくしたら何人か呼ぶのもありだ。


「そろそろ時間ですね。行きましょうか」

「うん」


 僕らは荷物を纏めて屋敷を出た。





 結城さんの運転で家に戻る。陽菜は自分の部屋に籠り僕は外で雪を集める。

 雪の山を作りそれを固めていく。前に作ったかまくらも崩して重ねる。一日家を空けただけで結構積もったなぁ。

 この中でやるなら何鍋かな。カニ鍋とか食べたい。


「相馬君、お疲れ様です」

「お疲れ、進行状況は?」

「どうにかなりそうですよ」

「そうか」


 自信があるように見える。それなら一安心だ。明日はみんなで集まることになっている、その時にでも提案してみよう。


「大きいかまくらできそうですね」

「おう。鍋にしよう鍋。正月まで残せればそこで餅でも焼こうじゃないか」

「良いですね。七輪ありますか?」

「あるよ」


 父さんが七輪で魚焼いたりするのが好きだったから。

 中を掘り進めていく。入口を整え、中もできる限り広くしていく。三人くらいなら余裕で入りそうだ。

 うん、何かテンションが上がるな。


「今回は二人で入れるのですね」

「おう。良い感じではないか」

「そうですね」


 胡坐をかく僕の上に座る。後ろから抱きしめる。


「良いですねこれ、外でいちゃついてても入口を覗き込まなきゃ見えないですから」

「だね」

「うんうん、そうだね。この光景を独り占めできるって最高だね」


 慌てて入口の方を見ると何故か布良さんがいた。


「やっほー。近くまで来たから寄ってみたんだ」


 布良さんも入って来る。入り口側を陣取られたために僕らは逃げ出すことができなくなった。


「うわー、良くできてるね。住みたくなっちゃう」


 無邪気にはしゃぐ布良さんに陽菜は冷たい視線を向けていた。


「ところで夏樹さん、ここに来た本当の理由は何ですか?」

「えっ、何の事かな~」

「とぼけても無駄ですよ。入口の外に隠している泊まり用鞄には気づいていますから」

「えっ!何で気づいたの?その角度じゃ見えないはず」

「適当に言っただけですよ。的中したことに自分で驚いていますよ」


 えっと、つまり。


「あの~、お父さんとお母さんと喧嘩しちゃったからさ。陽菜ちゃんの家、泊めてもらえないかな?」


 布良さんは申し訳なさそうに言った。




 とりあえず家に上がってもらい悩む。

 陽菜の家と言うとここから一時間程度の派出所だ。近くには無い。


「実は私たち、一緒に住んでいるのですよ」


 誤魔化すのは諦めたのか何の打ち合わせも無く陽菜は切り出す。


「知ってるよ。親御さんにはどう説明しているのかな?」


 その事実を布良さんは平然と受け止めた。


「私の家、遠いので下宿させてもらっています。相馬君のお父さんは海外出張中なので二人暮らしですね。と言うか夏樹さん、どうして知っているのですか?」

「テレビ電話だよ」


 テレビ電話、確か陽菜の部屋で基本的にやっていたな。


「後ろの方にハンガーにかけられたメイド服あるんだもん。確信したのはそれかな~。大丈夫、内緒にしておいてあげる」


 僕と陽菜は思わず手を合わせて拝んだ。あまりにも迂闊だったなと反省する。

 

 



 台所の方から聞こえるのは陽菜が料理する音、布良さんと二人、リビングで待機。


「とりあえず陽菜の部屋に泊まりなよ。親は何て言ってるの?」

「うーん。家出します!って言って出てきちゃったからな~。明日には帰るよ」

「了解」


 布良さんでも喧嘩するのか。家出するほど怒る事ってどんな事だろう。


「二人とも、その様子だと準備はできたようですね」

「うん、それじゃあ、外に行こう!」


 かまくらの前、カセットコンロを置いた机がある。


「きりたんぽ作っておいて良かったですよ。備えあれば憂いなしですね」

「家出してきて良かったという謎の感想が湧いちゃったよ」

「それは良かったですとは言えませんね」


 きりたんぽが汁を吸うためにあっという間に無くなり、僕らは食べ終わると近所の人に怒られる前に撤退した。


「満腹だよ~」

「夏樹さん、お風呂先にどうぞ」

「うん、ありがとう」


 陽菜に促され風呂場に向かう布良さん。男の僕は引っ込んでいることにしよう。

 リビングでいつものごとくぼんやりとした時間を過ごす。陽菜は台本の確認をすると言って部屋にいる。


「だれか~」


 風呂場からの声。


「はーい」


 そう言いながら風呂場の扉を開ける。


「わっ!待って開けないで!」

「あっ」


 僕はそっと扉を閉めた。

 大きかった。




「あのね、パジャマ忘れてきちゃったの。服借りて良い?」

「僕ので良ければ」

「うん、それでお願いします」


 部屋から服を持ってきて渡す。しばらくすると出てきた。ぶかぶか過ぎたな。


「ありがとね。それで一つ聞きたいのだけど。見た?」

「見た」

「答えてくれるのはありがたいけど、即答は駄目だよ。恥ずかしい」

「ごめんなさい」


 壁に力なくもたれかかる。


「見られた、恥ずか死ぬ」


 どうしたものか。と思ったら僕の唇に指を立てる


「なんてね。忘れてね」

「はい」


 多分無理。


「もう少し綺麗な体だったら見せても良いけどさ」

「そんな安売りされてもな」

「それじゃあ私、陽菜ちゃんの部屋行くけど、日暮君も来るでしょ」

「うん」


 扉を開けると、そこは魔王の部屋だった。


「相馬君、そこに座ってください」

「どうした?」

「良いから座ってください」

 


 裁判が始まった。

 




 

 

 

 

 



 


 

 


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