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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 秋

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第五十話 メイドと中間試験対策を講じます。

 三回目か。結構期間が空いたせいか、あまり実感は無い。

 ただ、今回はは一つだけ違うことがある。


「さぁ、陽菜。評価を下してくれ。僕の書いたノートを」


 目の前に座るメイド服の少女に自分が作り上げた授業ノートを差し出す。それを静かな目で読み始める陽菜、やがてノートを閉じる。


「そうですね。良くまとまってはいます、先生の話は」


 おっ、結構良い感じ?


「ただ、まず、これで相馬君は理解できましたか?」


 黙秘します。


「次に、もう少し改行をうまく使ってください。だらだら続けたら見づらいです。簡潔にまとめてください」


 目を逸らします。


「最後に、致命的に字が汚いです。私と相馬君以外では読めないのでは?」


 酷評だった。というわけで陽菜の作ったノートを開く。うん、負けた。

 おとなしくこっちを使って勉強をしよう。


「SD陽菜可愛いな」

「ありがとうございます。照れちゃいますね」


 照れてるようには見えないな。照れてると言うなら照れてるのだろうけど。


「では、頑張ってください。何か質問があればいつでも呼んでください」


 読みやすさはわかりやすさに繋がる。きれいに並んだ文字を見ながらそう感じた。


「あっ、相馬君。文字の練習をやってもらいますので覚悟しておいてください。前から汚いとは思っていたのでやってもらいます」

「はい」


 陽菜教官は今回も厳しい。




 教室に三人。僕と陽菜と布良さん。今回のテスト期間、京介は部活に行っている。休み時間に布良さんがテスト対策テストを課してはいたが大丈夫なのか正直心配だ。


「そういえばさ、とてもくだらないこと聞いて良い?」

「良いですよ、夏樹さん」


 ペンを置き姿勢を正す。くだらないことと言うわりには真剣な面持ちだ。


「二人って、一緒に住んでいたりする?」


 えっ……ばれた?


「というのは?」


 陽菜が落ち着いて返す。


「何となくそんな気がしたんだ。それに、陽菜ちゃん晩御飯出すとき『今日は』って言ったでしょ。何だか毎日作っているよな口ぶりだったからさ。相馬君の弁当は陽菜ちゃんが作っているって聞いたけど、それにしたって変だなと」


 鋭い。どう誤魔化そう。

 陽菜と顔を見合わせる。陽菜も同じことを考えているようだ。布良さんはどう思うだろう。布良さんは答えを待っている。正直に言うべきか誤魔化すべきか。


「何てね、良いよどっちでも。陽菜ちゃんは陽菜ちゃんだし日暮君は日暮君だし。秘密があるならそれは許すよ。秘密を許せる関係って素敵だと思わない?」


 いつもの笑顔。布良さんらしい穏やかな笑顔。


「だからまぁ、爛れた関係じゃなかったら良いからね。ごめんね、変なこと聞いちゃって」

「いえ、気にしていないので」


 布良さんは笑みを崩さない。


「ちょっと疲れたね。休憩しようか」

「はい、お菓子あるのでお茶にしましょう」


 鞄から水筒とタッパーを取り出しセッティング。勉強道具を片付け本日二回目のティータイム。


「いやはや、すごいね。テスト前なのにみんな部活しているよ。演劇部も定期公演近いって入鹿ちゃん張り切っていたよ」


 ミニドーナッツをつまみながらのほほんとお茶を飲む布良さんに先ほどまでの真剣な雰囲気は無い。無警戒なことをしたなと反省するのと同時に、秘密を抱えていることによる罪悪感を抱く。

 ドーナッツの甘みが今は嬉しい。紅茶も美味しい。

 秘密を許し合える関係、布良さんが抱えている秘密って何だろう。


「そういえば今回の陽菜ちゃんノートはどんな感じ?」

「これ」


 ノートを渡すと早速ペラペラ捲る。


「小さい陽菜ちゃん可愛い」

「やっぱりそっちに食いついたか」

「うん、特徴捉えてるね」

「自分で書きましたから」


 そう言って布良さんの教科書に何やら書き込んでいる陽菜。


「こちらにも書いておいたので」

「ありがとう!」


 意外と気に入っているのか、プチ陽菜。

 プチ陽菜良いな。これからはそう呼ぼう。


「これコピーして付箋みたいに使えないかな」

「さすがに付箋は、作れますかね?」

「無理だろ」


 でも地味に欲しいとは思う。


「まぁ、書いて欲しいときは言ってください。すぐに書けるので」

「うん、お願いね」

「ちなみにこれが相馬君です、こちらは夏樹さん、桐野君に入鹿さんです」


 プチシリーズだ。特徴が捉えられてて誰が誰だかよくわかる。


「よし、それの書き方教えてよ」


 ルーズリーフを取り出し布良さんはペンを構える。


「良いですよ」


 そして今日の放課後の時間はプチシリーズの書き方の講習会となった。

 いや、良いよ。二人は正直このテスト期間遊びまくっても大丈夫な二人だから。僕はヤバいのだよ。勉強しなきゃ。




 電車に揺られ二人で帰る。


「そういえば陽菜、パソコンとか使わないの?」

「持っていないので。持っていたとしても対策ノートには使いません」

「どうして?」

「手書きの方が気持ちを込めやすいからです」


 こちらに向けられた目は引き込まれそうな目だ。どうして陽菜の目にはこんなに力があるのだろうか。

 


「だから頑張ってくださいね」

「うん」


 そんな目で告げられた言葉を断れるはずもない。

 電車が僕らの町に着く。今日も一日が終わる。

 いや、終わったら困る。勉強させてくれ。





 「相馬君、コーヒーです。濃い目に作りました」

「ありがとう」


 苦さを感じているうちは起きている。陽菜の姿がはっきり見えているからまだ起きている。


「理解できていますか?用語は暗記するにしても理解するのは大事です」

「うん、どうにか。頭には入ってきているから理解はできていると思う」

「そうですか」


 もう一口コーヒー。本当に濃いな。それでも瞼が重い。


「風呂入って来る。コーヒーが効かなくなってきた」

「そうですか。お疲れ様でした」


 脱ぎ捨てるように服を脱ぎそのまま眠気に堪えながら体を洗い風呂に入る。


「眠い……」

 





 おかしいですね。相馬君、基本的に上がるのは早いはずですが。

 嫌な予感が胸を過ぎる。うん、見に行こう。


「相馬君大丈夫ですか?」


 脱衣場から声をかける。返事が無い。


「相馬君?」


 私は慌てて風呂場の扉を開いた。


「ちょっ、相馬君、寝ないでください。溺れます、ていうか溺れてますよ!」


 慌てて相馬君を浴槽から引きずり出す。咳き込んでいる、良かった、死んでない。


「大丈夫ですか?」

「うん、どうにか。ごめん、助かった」


 しばらくそのまま抱き合う。まだ息の荒い相馬君が落ち着くのを待つ。

 やがてだんだん静かになっていくのに気づく。それと同時に私も冷静になっていく。


「落ち着きました?」

「うん」

「本当に、気をつけてくださいよ。それでは失礼します」


 そのまま素早く立ち去る。メイド服も濡れてしまいましたし、あの状況は色々とヤバい。別に相馬君なら嫌じゃないけどなし崩しでというのは嫌だ。

 とりあえず夏服の方に着替えて相馬君が上がるのを待つ。今更になって安堵の感情が流れ込んできた。気づけて良かった。流れてきた涙を慌てて拭う、相馬君には見せられない。


「陽菜、上がったよ。助かったよ。ありがとう」

「いえ、お風呂の中で寝るのは危険ですよ。ちなみに風呂場で寝るというのは寝ているのではなく失神しているらしいです」

「マジか」

「マジです」


 まだ少しぼんやりしている相馬君の顔が隙だらけだ。

 だから私はその唇を奪う。助けたのですからお礼の一つくらい貰っても良いですよね。


「おやすみなさいませ」


 キスは好きだ。ドキドキする。するたびに好きなんだなと感じられるから。一緒にいるだけで満足だけどそれでもそれ以上を求めてしまう私は、結構積極的な方なんだなと感じている。

 呆然としている相馬君を残してお風呂に入る。鏡に映る私の顔は少しだけ緩んでいた。最近こんな顔ばかりしている気がする。駄目ですね、気を引き締めないと。

 恋人の関係にあるとはいえ、仕事をおろそかにするような真似をしてはいけない。失敗しても許してくれるような人だけど、私が私を許せなくなってしまうから。たまに危なっかしい相馬君を守れるようにしなければ。相馬君が私を守ろうとしてくれているように。

 背中を預け合える関係。私が今目指しているのはそこなのだから。夏樹さんは秘密を許し合える関係を目指しているように。

 夏樹さんの秘密って何なのでしょうか。きっとあの様子だとあるのでしょう。

 聞けませんね。私と相馬君の秘密を許した、それはつまり夏樹さんの私が抱えている秘密も許してね。という意思表示なのでしょうから。

 

 

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