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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 秋

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第四十八話 メイドと体育祭に臨みます。三日目

 ボールがリングを抜ける。陽菜の放った放物線は見事に三得点となり、それと同時にホイッスルが鳴る。しかしながらそれは勝ち越し点となることは無く、一年二組の女子バスケは一回戦負けに喫した。


「勝ちたいな」


 ウォーミングアップをしながらその光景を見て思わずこぼした言葉。


「そうだな。勝とうぜ」


 京介が僕の言葉に応えながらシュートを放つも、リングに嫌われる。

 そこは入れてほしかったな。


 相手の三年生、背が高い、というか見たことあるなこの人たち。

 思い出した、陽菜と一緒に練習した公園でダンクシュート決めていた人たちだ。

 マズいな。



 ボールを奪おうと駆け寄るも、そのボールは頭上を越えて誰かの手に渡る、そしてホイッスルの音。何点差ついたのだろうか、第一クォーターで恐らく既に二十回は聞いた気がする。

 こんなのばっかりだな、体育祭。


「相馬、何か手は無いか?」

「正直言って無い」

「そこを何とかひねり出してくれ」


 京介よ、それは無茶振りというものだ。


「とりあえずボールを奪われないようにしよう」

「オッケー」


 ドリブルで切り込んでいくがゴール下、背が高い三人が見事に固めている。


「どうしろって言うんだよこれ」


 いや待て、スリーポイントなら狙える。


「行けっ!」


 それはリングを潜り抜ける。


「よし!」

「油断するな相馬!戻れ!」


 その言葉とともにボールが僕の頭上を抜ける。

 自陣ゴール前はがら空き、いつの間にかそこにいた相手選手は落ち着いて三点を入れる。


「マジかよ」


 無理ゲーすぎる。

 第一クォーター終了のホイッスル。気がついたら結構な観客がいるな。一年が三年にいたぶられているのを見るのがそんなに面白いか。


「どうするよ」

「全力でやるしかないだろ」


 具体的な作戦が思いつくはずもなく第二クオーターが始まる。

 しかしそれもまた同じ展開が繰り返され続ける。ていうか何でこいつらこんなにもうまいのだ。

 シュートも外さず、そこにいるのがわかっているかのようにボールが飛んでいく。

 それなら!

 目を閉じて気配を探る。山での父さんとの訓練を思い出す。


「感覚を研ぎ澄ましてみろ、ほら、わかるだろ、生き物の気配が」


 その後熊と遭遇し、素手で挑む父親の神経を疑い、見事仕留めた父親が人間なのか疑ったのは別の話。

 何年か経ってようやくわかった父さんの言う感覚、ここで応用できるかもしれない。


「そこだ!」


 手を伸ばす、確かなボールの感触、落とさないようにしっかりと抱えドリブルで敵陣へと切り込む。

 取られるとは思っていなかったのだろう、相手の動きも遅い。

 落ち着いてシュートを入れる。

 急いで自陣に戻る。全身の神経を研ぎ澄ませ、動きを感じろ、気配を探れ。

 走りこむ。僕の動きに気づいた相手選手、回り込もうとするもそれより早くボールを奪い去る。


「相馬!こっちだ!」


 その方向を見ずに投げる。

 大丈夫、どこにいるかはわかっている。

 ボールを奪い奪われの攻防が続く。そろそろ疲れてきたぞ。奪えてはいるが決定打が打てない。

 それに相手も僕を避けるようになってきた。自陣ゴール下からセンターライン付近を行動範囲にして対策はしているが、四人で攻め切るのは難しい。これではジリ貧だ。我慢比べになりつつある戦況、点差は埋まらずホイッスルが鳴る。


「相馬君、大丈夫ですか?」

「あぁ、どうにかな」

「相馬、その、あれだ。諦めよう。これは勝てない」


 京介がらしくもなくそんな事を言う。


「そうだね、諦めた方が良いよ。こんなの無理だよ」


 布良さんまで……。

 確かに状況は絶望的だ。あとは適当に流すだけにするのも手だ。だけどそれでも。


「諦めるわけないですよね?」

「当然」


 軽くストレッチ、陽菜に水筒とタオルを渡し気合を入れなおす。


「行くぞみんな。反撃だ!」


 僕の言葉に四人は不敵に笑った。



「みんな上がれ!」


 奪ったボールを前へ投げる。

 先ほどと違うのはみんな戦意が回復し、ゴールに迫れていることだ。

 戦況が激しくなるのにつれ、頭が冷えていく、相手の動きがわかる。

 点差が縮まっていく。


「てめぇら気合入れなおせ!一年に負ける三年があってたまるか!」


 スゲーな、三年になるとベンチからヤジが飛ぶのか。

 相手選手の目の色が変わる、

 ここからが本番だな。




 「佐藤君!」


 奪ったボールをそのまま投げる。佐藤君が放ったシュートはリングを抜ける。

 点差を確認する。最終クオーター残り二分。あと二ゴールか。

 集中しよう。僕が奪えばチャンスができる。


「そこだ!」


 飛んできたボールを掌底で殴りつける。そんな事をする漫画があった気がする。

 あまりスピードは出ないな。

 京介が切り込んでいくがすぐに奪い返される。しかしすぐに奪い返す。


「こっちだ!」


 僕も上がる。ここは逃してはいけない。受け取ったボールを落ち着いてレイアップシュート。次決めれば同点だ。あと一分か。

 急いで戻る。気配を感じろ、動きを読め。

 手を伸ばす、ボールが手に触れるがその横からもう一つの手が伸びる。


「君らの戦い方はもう慣れたよ。最後の最後に破らせてもらう」


 わざわざそう言い残してダンクシュートで僕らにとどめを刺す。それと同時にホイッスルが鳴る。途端に足から力が抜け倒れ込む。


「大丈夫か?立てるか?」

「無理」


 疲れた。全力を出し切った実感はある。


「負けちまったな」

「そうだな。善戦した方だろ」

「まぁな」


 京介に手を貸してもらい立ち上がる。


「「ありがとうございました」」


 相手チームに素直な敬意を込めて礼をした。





 体育祭は終わった。秋の二大行事は無事成功。そこまでの感慨は湧かないが、後で思い返せば湧いてくるとは思う。


「相馬君、お疲れですね」

「陽菜もだろ」


 真上にある陽菜の顔を眺めながらそう言う。

 夏服とは違い、太ももは完全に隠れてしまっているが寝心地の良さは変わらない。


「相馬君、寝ないでくださいね」

「保証はできない」

「そうですか。では。こちらを進呈しようと思います」

「それは何?」

「誕生日プレゼントです。皆様から預かってきました」


 驚いたが、冷静に考えれば陽菜が知っていてもおかしくは無い。でも、嬉しい。


「十月十四日、十六年前の今日、相馬君が生まれたのですね」

「そうらしいよ」


 陽菜に抱き起され、そのまま抱きしめられる。


「生まれてきてくれてありがとうございます」

「そんなことでお礼言われたの初めてだよ」

 

 どうしてだろう、体の中から温かさが広がるのを感じる。


「変なことでは無いと思いますよ。私は相馬君と出会えたことに感謝しているのですから」

「僕だって、陽菜と出会えたことに感謝いるさ」

「そうですか。では相馬君、その気持ち、行動で示してくださいよ」


 体を離し見つめてくる陽菜。

 何をしてほしいのかはわかる。


「来ないのですか。ではこちらからしますね」


 唇に広がる温かみ、何回やっても慣れないな。慣れるのも嫌だけど。

 顔を離して見つめ合う。陽菜の目が急かしているのがわかる。


「それじゃ、こちらからも」


 いつもより少しだけ長めに。


「それでは、夕飯の支度してくるので、待っていてくださいね」

「ついてく」


 一緒に台所に入る。すぐに料理が始まる。


「何時も思うのですが、料理しているの眺めるの、そんなに面白いですか」

「うん」


 手際よく包丁を操る動きは見ていて面白い。


「そういえば陽菜って魔王って呼ばれていたんだな」


 陽菜の手が止まる。ゆっくりと包丁を置いてこちらに向き直る。


「それ、誰から聞きました?」

「結城さんと東雲さん」

「あの二人ですか。なら良いです。お世話になっていますし」


 どうしてだろう、時々感じる陽菜のどす黒いオーラがいつもより強い。


「忘れてください、相馬君。私の恥ずかしい過去なので」

「はい」


 陽菜も僕の恥ずかしい過去を何個か知っているはずだがその事は突っ込まないでおこう。


「そういえば、一つお願いしたいことがあるのですが」

「どうした」

「デートしませんか?」

「デート?」

「はい。お出かけはよくしていますが。改めて、ちゃんと恋人として出かけたいです」


 こちらに向き直り行儀よく立つ陽菜。デートか。うん、行こう。


「それじゃあ、明日土曜日だし行こうぜ」

「はい!よろしくお願いします」 

 

 


 

日暮相馬の誕生会はまたいずれ。

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