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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 秋

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第四十三話 メイドと文化祭に臨みます。二日目

 「京介の兄貴、昨日から休んでないじゃないですか」

「ん?気にすんな。お前ら!今日もやるぞ!」


 クラスメイトの男子に囲まれ休むよう言われている京介、確かに万全の様子だが感情的な問題だ。


「京介、お前は今日休め」

「何だよ相馬、俺は見ての通りいつでも行けるぜ」

「そういう問題じゃない。ここは僕らに任せろ」

「そうだ!日暮の言う通りだ!」


 調理室の中に野太い歓声が上がる。


「たくっ、お前ら……。わかった、任せよう。頼んだぞ」

「「「任せてください」」」


 京介のカリスマ性という奴だろうか。まさかここまでまとめ上げるとは、恐るべし。

 今日はちゃんと材料は届いた。お詫びという事で二日分支払った代金は全額返金となった。下手したら昨日営業できなかったわけだし当然と言われたら当然かもしれない。

 今日も馬車馬のごとく働く、むしろ昨日よりも忙しい。


「よし、持っていてくれ」


 指示を出しながらも手は止めない。一人でも手を

止めれば遅れが出る。


「日暮君、注文」

「了解」


 いやはや、忙しい。拭えどあふれ出る汗、目に入った汗が視界をゆがませる。染みるなこれ。


「相馬君、あの二人が来ました」

 

 そんな状況の中でも陽菜は平常運転、いつも通りの無表情。


「何食べるって?」

「ケーキだそうです」

「それなら冷蔵庫にある」


 そう言うと陽菜は首を振る。


「いえ、お二人は相馬君も注文しております」

「どういうこと?」



 「おまたせしました」

「おぉ、来たぞ相馬」

「日暮さん、来ちゃいました」


 結城さんに東雲さん、こうして見ると普通の女子大生だ。昨日来るとは言っていたが本当に来てくれるとは。


「いやはや、予想より本格的にメイド喫茶だな」

「そうですね」

「お二人がそう言うならそうなのでしょう」


 本職に認められるとはな、本職が一人いるとはいえ。


「今日は大丈夫だったのか?」

「今日は問題ありませんでした。どうぞ食べてみてください、陽菜の指導で僕らで作ったものです」


 チーズケーキにチョコレートケーキに紅茶、不味くはないはず。


「どれ……美味しいな」

「そうですね。文化祭だからと甘く見ていました」


 こっそりと胸を撫でおろす。これで不味いと言われたらどうしようかと思った。


「そういえば夏樹は?」

「布良さんなら、そこで客見送っていますよ」


 今日は布良さんも生徒会ではなくクラスの方に参加している。


「夏樹のシフトは?」

「あと十分で終わりですね」

「ありがと」


 二人を見送り調理室に戻る。教室の方を見るとどうやら夏樹さんを誘って回るようだ。


「日暮君、客足の方は?」

「そろそろ落ち着いてきたかな」


 昨日の陽菜からの特訓のおかげで今話しかけてきた人が佐藤君だとわかる。


「そっか。それじゃあ日暮君もそろそろシフト終わるでしょ。ちょっと早いけど休んできたら?」

「うん、そうする」


 調理室を出てエプロンと三角巾を取る。今日も働いたな。陽菜はまだ働いているようだし、どうしようか。昨日のうちに結構回ったし。


「そこの少年、彼女が仕事中で途方に暮れているのですね」

「入間さん、何しているの?」

「私が演劇部に所属しているというお話ししましたっけ?」

「いや、初めて知った」

「そうですか。ではこちらをどうぞ」


 貴族のお嬢様風のドレスを着た入間さん、差し出しているのは文化祭特別講演と書かれた紙。


「暇でしたら見に来てくだされ、ではでは」


 ドレス姿でも器用に走り去る。見に行ってみるか。体育館のステージは有志発表とかに使われていたはずだ。近づいて行くとギターの音が聞こえてくる、結構上手だ。


「みんなありがとー!」

「「「イエーイ」」」


 ノリ良いなみんな。演劇部の講演はこれの次だ。


「「「アンコール!アンコール!アンコール!」」」

「応えたいところだけどごめんな、次の人がいるからさ。また来年ここで会おうぜ!」


 颯爽とステージを去って行くバンドメンバー。かっこいいな。

 さて、この温められすぎた空気の中、どうやって観客たちの興味を演劇に持って行くのだろうか。

 演劇が始まる。配られたビラを見ると、どうやら演目はオリジナルのものらしい。小説家志望の高校生の挫折と奮闘の物語、結構面白いが先ほどの盛り上がりのせいか、体育館を出ていく生徒も多い。一時間ほどの演技が続く。ふと湧いてくる疑問、どうして入間さんは貴族風のドレスを着ていたのだろうか。

 演劇が終わる。入間さんは最後まで出てこなかった。 

 体育館を出ると同時に今日の展示の終了を知らせる放送がなる。今から片付けか。


「相馬君!」


 振り向くと、数人の女子に引き連れられた陽菜が近づいてくる。


「演劇見ていたのですね」

「うん」

「朝野さん、私たち先に行っているからごゆっくり~」


 よく見たらクラスメイトだ。えっと、佐野さんと加藤さんと渋谷さん。


「相馬君、一人で行動していたようですね」


 いつもより少しだけ低い声、体が少しだけ緊張するのがわかる。


「うん、まぁ」

「さっきの三人の名前、わかりました?」

「うん」


 そう言うと少しだけ強張っていた陽菜の表情が緩む。


「それなら良いです」


 もしかして、陽菜怒っていたのだろうか?


「戻りましょう。片付けに遅れてしまいます」


 さりげなく手を握る陽菜。

 頑張らなきゃな、陽菜に見限られないように。




 「みんな、お疲れ様!なんと黒字が出ました!お店からの返金を差し引いても黒字だよ、やったね!」

「「いえぇぇぇ!!」」

「というわけで、打ち上げだ!飲むぞ!食うぞ!」

「「「うおぉぉぉ!!」」 


 布良さんの言葉に教室では野太い歓声が上がる。


「お前ら一応未成年だろ」


 先生からの冷静な突っ込みも今の彼らには耳に入らないだろう。

 片づけている間に会計担当の人たちが計算していたらしく、生徒会への上納分を差し引いた後、分配され返金されるそうだ。


「私がほとんど参加できなかった中、よく頑張ったと思う。来月の体育祭では更なる団結力を見せてくれ。とりあえず今日は乾杯をしよう。布良、乾杯の音頭を」


 担任の先生に言われ立ち上がる布良さん、先ほど先生からの差し入れとして配られたペットボトルを掲げる。


「乾杯!」

「「「乾杯!!!」」」


 良いクラス、何だろうなぁ。仕事しながら何人かと話はしたが嫌な印象を持つ人はいなかった。

 そんなことを考えながら打ち上げの会場へ歩いていく。


「広く浅くで良いと思います。別に誰とでもべったりと仲良くなる必要もありませんし、できる事でもないと思います。私だってさっきの方々とは誘われて一緒に回っただけですし連絡先も交換していません。話せる人は多めにいた方が良い、相馬君はそういう意図で私に人間関係を広げるよう言ったのでしょう」


 僕が悩んでいることに気づいたのだろう。陽菜が少しだけ優しい言葉をかける。


「まぁ、そうだね」


 それしか返せない。最初は僕が言い出したことなのに、今は陽菜の方が一歩も二歩も先に行っている。

 こっそりとため息をつく。その時手を強く引かれ、路地裏に引きずり込まれる。感じたのは唇に温かくも湿った感触。顔を離すと陽菜は明らかに睨んでいた。


「そんなしょぼくれた顔をしていると、今度は駅前の人混みの中でやりますからね」

「罰ゲームになってないよ」


 クラスメイトのグループの後方を歩いていたからか、誰も気づいていない。と思ったら布良さんがちらりとこちらを見る、あれはウインクしたつもりなのだろうか、それとも瞬きなのだろうか。顔を見合わせる、頬が熱い、陽菜の顔も少しだけ赤く染まっていた。少しだけ頬を緩める陽菜。優しい顔になる。


「安心してください。相馬君がどんなにヘタレたダメ人間でも見捨てないので。だからしょぼくれた顔をするのは私の前だけにしておいてください。さぁ、行きましょうか」


 陽菜に手を引かれる。

 さっきよりも背筋が伸びたのを感じる。ヘタレたダメ人間か、確かに今の僕にはぴったりだ。でもそこで座って諦めるのはきっと陽菜は許してくれない。自分にも他人にも厳しいこのクラスメイトなメイドは座りこもうものなら手を引いて立ち上がらせ、引っ張ってでも前へ歩かせるだろう。

 殻は破ったんだ。だったら次は空を目指そう。

 握られた手の温かさを感じながらそう心に誓った。

 

 


 


 

 

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