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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 秋
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第四十二話 メイドと文化祭を楽しみます。

 「相馬君、先ほどの事で一つ訂正したいことがあります」

「何でしょう?」

「私は別に怖がってはいません」

「あぁ、そのことか」


 着替えるのが面倒だからとメイド服のままで僕の横を歩く陽菜。今日という日に限っては別に不自然な恰好ではない。むしろ制服姿の方が浮くという変な日だ。


「信じてないのですか?」

「信じている。大丈夫、知っているから」

「それなら良いです」


 先ほどまで感じていた熱も引き、どうにか落ち着いている。今は文化祭を楽しむことに集中したい。本番でこんなにも立て続けにハプニングが起きるとは思わなかった。

 さて、どこ行こうか。


「おっ、縁日やってる」

「それは勘弁してください」


 そういえば陽菜は縁日が苦手だったな。


「大丈夫、学生のやっている縁日だから」

「そうですか」


 不安げな目、そんなにトラウマだったか。

 とりあえず何かやってみようと100円でダーツに挑戦。


「行きます」

「頑張れ」


 静かに構え、投げる。飛んで行ったダーツの矢は見事真ん中に命中。景品としてお菓子の詰め合わせを貰う。


「どうですか?」

「お見事」


 景品を抱え満足気に見える陽菜をつれどこに行こうかなと考えていると、目に入ったのは占いの館のようなもの。


「行ってみる?」

「行ってみますか」 


 黒いカーテンをくぐり中に入ると、紫色のローブをかぶりタロットカードを見つめる布良さんの姿。


「ようこそ魔女の館へ、私はあなたの運命を覗くものです。あなたにカードの導きがあらんことを」

「夏樹さん、そのセリフ似合いませんね」

「私は布良夏樹というものではありません。ただの魔女です」


 布良さんのほのぼのとした声では迫力も不気味さも出ない、この違和感は何だろうか。


「ふむ、では魔女さん。私の運命でも見てもらいましょうか」

「良いでしょう。ではこの水晶で占いましょう」

「そのカードは使わないのですか?」

「使いません」


 水晶に手をかざす。


「見えます。見えますよ?」

「どうして疑問形……」


 何やら念を送っているのだろう、布良さんは必至の形相。


「ごめんなさい。何も見えません」

「そうですか、カードは使いますか?」

「やり方がわからないのです」


 うなだれる布良さん。すると陽菜はタロットカードを手に取る。


「夏樹さんは占いとか信じますか?」

「うーん、都合の良い時だけかな」

「そうですか。ふむ、不思議な絵のカードですね。見たことないです」

「意外だね陽菜ちゃん。タロットカード知らなかったんだ」

「えぇ、占いの類いとは無縁だったもので」

「そうなんだ!じゃあ頑張って覚えて占ってあげるね」

「楽しみにしています。そろそろ行きますね、邪魔しても悪いので」

「うん、二人ともまた後で。陽菜ちゃん、メイド服とても似合っている」

「ありがとうございます」


 占いの館を出る。時計を見ると時間は既にお昼を過ぎ、今日の展示はあと一時間。


「お昼まだ食べてませんね。何か食べます?」

「そうだね、何か食べよっか」


 焼きそばにフランクフルトにたこ焼きに焼き鳥。結構種類あるな。


「相馬君、あれを見てください」

「どれ」


 陽菜が指し示す方、あれは、ラーメン?


「ラーメンの上にもやしを大量に乗せているようですね。さらに注文すればニンニクもトッピングしてくれるそうです」

「へぇ」


 食べにくそうだな。


「食べてみませんか?」


 陽菜は興味津々のようである。まぁ、確かにあれはすごいよな。近くに立てかけられた看板を見てみると、とある店から許可をもらってそれのミニチュア版を出しているようである。


「今度行ってみましょう」


 二杯分のラーメンを受け取りながらそういう陽菜。メイド服だと食べにくそうだな。


「次はニンニクをトッピングした物を食べてみたいですね」

「朝野さーん、日暮くーん」


 誰だ?三名ほどの女子がこちらに駆け寄って来る。


「はい笑ってー」


 そのまま僕らを囲みセルカ棒を構える。そしてシャッター音が鳴る。


「ありがとう。それじゃあまた後で」


 何だったんだ。


「クラスメイト全員と記念撮影をすると言っていましたね、あの三人」

「クラスメイトだったのか」

「相馬君、それはさすがにまずいかと。半年以上過ぎていますよ、今のクラスになって」


 もやしとラーメンをひっくり返しながら食べている。器用だな。


「人の名前覚えるのがどうも苦手でさ」

「少しは私たち以外の方々と関わってみることをお勧めしますよ」

「善処するよ」


 汁を飛び散らせることなくあっさりと完食。

 陽菜も京介も布良さんも入間さんも、確かに見ていると少しづつ人間関係を広めている。僕だけか、今の関係に留まっているのは。その今の関係も、僕が話しかけてもらうという受け身のスタートだ。


「私に人間関係を広げるよう言ったのは相馬君ですよ。相馬君も頑張ってください」


 駄目だなぁ、僕は。

 その時、校内放送が今日の展示時間の終了を告げた。


「戻るか」

「そうですね」



 「皆さん、今日はお疲れ様。トラブルもあったようだけど乗り切れて良かったと思います。さて、みんなちゃんと家に帰って明日に備えてね。寝坊しないように、シフト忘れないように。それじゃ、解散」


 布良さんの号令とともに今日の文化祭は修了。結構疲れた。


「あっ、一つ言い忘れた。明日終わったら打ち上げしようと思うので、参加する人はあとで連絡してね」


 打ち上げか……。


「陽菜は行くの?」

「どうしましょうか、相馬君は」

「僕は、うーん。行かなくても良いかな」

「何言ってんだ相馬、お前も来い」


 京介が後ろから肩を組む。


「今日はお前のおかげでどうにかなったのだから。一緒に肉食って飲もうぜ」

「僕らまだ未成年だぞ」

「そうだっけな」


 京介は豪快に笑う。もう飲んでるとか無いよな?


「明日も頼むぜ」

「任せろ」


 ちらりと陽菜を見る。視線に気づいた陽菜はうなずいた。と思ったらクラスメイトからさらわれて行った。また写真か。女子は写真が好きだな。


「日暮、ほらこっち向いて笑って」

「えっ?」


 シャッターを切る音が聞こえる。周りを見るといつの間にか男子に囲まれていた。


「次俺ので撮って良い?」

「良いよ~」


 それからしばらく、撮影会は続いた。



 家に帰る。部屋着に着替えソファーに身を投げ出す。


「陽菜、少し休もうぜ」

「いえ、私は仕事が」


 制服から再びメイド服に着替えた陽菜、持っているのは掃除道具。


「うん、月曜振休だからその時にやれば良い。今は僕と一緒に休もうではないか」

「わかりました」


 掃除道具を片付け、ソファに横たわる僕のすぐそばに座る。


「それで、どうしたのですか?相馬君、基本的に私の仕事の邪魔しないですよね」

「ごめん、ちょっと一緒にいたくなってさ。邪魔だった?」

「はい。でも嫌ではないです。むしろそういう理由なら誘ってくれて嬉しいです。今は、彼女の私で良いですか?」

「それでお願い」

「では、少しだけ甘えさせてください」


 そう言って僕の体に頭を預ける。


「相馬君も甘えてください」

「お互いが甘え合うってどんな状況よ」

「甘えたくないのですか?」

「……甘えたいです」


 二人でソファに座りお互い体を預け合う状況に、これはこれで結構良い。


「出会った頃、こんな関係になるなんて思わなかった」

「そうですね。私もです」


 一緒にいるだけでどうしてこんなに安心するのだろうか、温かいな。


「相馬君。今日は守ってくれて、ありがとうございました」

「あはは、守れてたかなぁ」

「それは私にとってあまり重要では無いです。守ろうとしてくれたのが嬉しかったです。とても」


 それから、何か話すわけでもなくただ時間だけが過ぎていく。ちらりと横を見ると目が合った。示し合わせるわけでもなく顔が近づいていく……。その時、電話が鳴り響いた。


「夏樹さんからですね。はい、朝野です」


 それから陽菜はしばらく話す。


「はい、相馬君も参加するそうですね加えておいてください。よろしくお願いします。……相馬君、電話終わりました」

「うん、明日の打ち上げの事だよね。ありがとう」

「いえ、どうします?夕飯にしましょうか」

「そうだね」


 さっきまでの雰囲気を返してくれ布良さん……。嘆いても仕方ないけど。

 さて、今日の夕飯は何かな。

 

 




 

 

 





 





 

 


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