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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 秋

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第四十話 メイドと文化祭の準備をします。2

 さて、今日から準備に取り掛かるわけだが。


「型紙用意したのでこれの通りに作ってください」

「りょ、了解」


 正直陽菜がぶっ倒れないか心配だ。昨日調べてみたらメイド服一着作るだけでも結構大変らしい。作業時間を縮めるためか夜中に何か作業していたようだが、様子は見ておこう。


「相馬、何ボーっとしているんだ。料理指導任されているのお前だろ」

「あっ、すまん。それじゃあ見ていてくれ」

 

 見ておこうと思うのだが、陽菜から任されている手前、こっちに集中しなければならない。まぁ、今日教えたら後は各自の練習に任せれば良い。今日一回の説明でわかってもらえるように頑張ろう。

 布良さんは材料を仕入れるために陽菜から指定された店に電話で交渉をしている。様子を見る分に大丈夫そうだ。

 陽菜の方をちらりと見る。集中しているのか視線には気づいていない。


「相馬、お前大丈夫か?」

「あっ、ごめん。それじゃあ、ここからがポイントだから、よく見ていて」


 駄目だ、集中できない。どうしてこんなに不安なんだ。手元のボウルと陽菜の姿を交互に見ながらも説明の手を抜かない、そんな時間が続いた。

 


 家に帰り、夕飯を食べ、寝る前の一時。


「陽菜、何着作るの?」

「十四着ですね。私は自分のものを使うので、とりあえず他の二人に四着ずつ任せてあります。私は六着作れば良いだけです」


 陽菜の横には既に三着分並べられている。


「疲れてないか?」

「問題ないです」


 陽菜は手を止めない。陽菜が寝るまで見ていようと思ったが、さすがに根負けして部屋に戻る。眠気だけはとても正直だった。

 そして次の日、衣装担当の他の二人が陽菜に頭を下げている。作りかけのものがいくつか並んでいる。確かに昨日だけでやるには無茶な作業量だろう。今からでも五人体制に戻した方が良いかもしれない。


「わかりました。ではそれは私がやっておきます。お二人はヘッドドレスを作ってください、デザイン画はこの前お渡ししましたよね?」

「ごめんね。お願いします。朝野さん」


 陽菜が二人分の作業を引き継ぐと言う。心配だ。


「相馬君、そんな心配そうな目で見なくても大丈夫ですよ」

「でもさ……」

「私、メイド服を作るプロですよ」


 誇らしげな陽菜、しかし不安は尽きない。


「だからってさすがに多すぎるって」

「派出所のメイド服、今は引き継ぎましたがほとんど私が作ったものですよ。デザインは可愛さを追求しました」

「え?」


 派出所にいたメイドを思い出す。陽菜の来ている物とデザインは同じだったが、それは統一している制服とだけ思ったが。


「あれはメイド長の注文を取り入れつつ、私の趣味でデザインしたものです。今ではサイズさえ指定してくれればすぐに作れるほど手が覚えました。なので十四着程度ならすぐに作れます。料理と裁縫は私の得意な分野なのですよ」


 確かに動かしている手に迷いは無い。


「我ながらあのデザインは会心の出来だと思いますよ。可愛いと思いませんか?」

「そう思うよ。陽菜がデザインしたというのは驚いたけど」


 話しながらも手は止めていない。陽菜の手の中でまた一つが出来上がる。


「おはよう陽菜ちゃん、上手だね。私のサイズはあるの?」


 登校してきた布良さんが鞄を置いてこちらに来る。


「おはようございます。それですよ。夏樹さんのサイズに合わせたものは」

「これ?あっ、駄目だよ日暮君、見ちゃダメ。女の子の服のサイズは機密事項なんだから」

「えっ、あっ、はい」


 その勢いに圧倒されて目を逸らす。


「あとはそれにポケットもつけようと思うので、もう少し待っていてくださいね」

「楽しみにしてるよ」


 そろそろ先生が来るだろうと自分の席に戻る。


「陽菜ちゃんが心配?」


 布良さんが僕の顔を覗き込む。誤魔化せない圧力がそこにはあった。


「そりゃ、心配だよ」

「陽菜ちゃん、楽しんでいるように私は見えたよ」


 窓際に座り手を動かし続ける陽菜を見る。表情こそいつもと同じだが、確かに楽しそうには見える。


「それに、日暮君がいるし。陽菜ちゃんのこと、お願いね」

「うん。任せて」


 守らなきゃ。無茶しないように見守らなきゃ。



 順調に文化祭の準備は進み、衣装製作無事に終わる。特にここまでアクシデントは起きていない。


「陽菜ちゃん、笑おう。ほら笑って」

「無理ですね。私の作り笑いの悲惨さはちゃんと教えたはずですよ」


 接客練習、接客担当の女子全員がメイド服を試着している。


「夏樹の姉御の言う通りですよ。無表情で接客されたら怖いですよ」

「では、私を調理班に回してください」

「だーめ。さぁ、まずは口角を上げよう」


 クラスメイトに囲まれて笑顔の練習をしている、微笑ましいな。


「どうしても目が笑わないね」

「目だけ無感情ってとっても不気味。顔は可愛いのに」


 散々な言われようである。

 その日の夜。余程気にしたのか洗面台の鏡の前で陽菜が作り笑いの練習を始める。


「私、相馬君に笑顔が可愛いと言われた覚えがあるのですが」

「その不気味な笑みじゃなくて、自然な笑顔だよ」

「なるほど、では相馬君、私が笑顔になりそうなこと言ってみてください」

「えっ……」


 どうしよう、突然言われても思いつかない。そんな期待の目で見られても困る。


「えっと……陽菜」

「はい」

「うーん」

「相馬君?」

「ごめん、思いつかない」


 陽菜の視線に耐えきれず目を逸らす。謎の罪悪感が僕を襲った。


「そんな、いえ、私も結構無茶なこと言ったなと思いますし、謝るようなことでは無いですよ」


 逆に慰められてしまった。結局今日の練習は断念してしまった。


 そして、文化祭準備最終日を迎える。


「明日食材が搬入されるから、調理班の人は時間確認しておいてね。接客係の人はメイド服を忘れないように、あとは、寝坊せずちゃんと来てください。ここまでアクシデントが起きることなくここまでできたのはみんなの頑張りです。明日から頑張りましょう!以上、解散!」


 布良さんの号令とともに明日に備えみんな帰路につく。陽菜の作り笑いの技術は結局向上することは無かった。


「相馬君、私はどうして笑えないのでしょう」


 空は赤い、陽菜が遠い目をしながら聞く。


「うーん、あれだよ。きっと陽菜は素直なんだよ。偽物が作れないくらい」

「それは良い意味でとらえて良いのですか?」

「良いと思うよ」


 正直言ってわからない。けど、陽菜の笑顔は安売りして欲しくないな、変かもしれないがそう思う。


「おーい、朝野さん!相馬!ちょっと来てくれ」


 校門から出ようとすると、文化祭で僕らに割り振られた教室の窓から京介が呼びかける。


「どうしたー!」

「緊急事態だー!」


 その言葉に僕と陽菜は顔を見合わせる。スマホで時間を確認する。よし、予定通りだな。

 教室に戻り扉を開けると、出迎えたのはクラッカーの音。


「これはどういうことですか?」


 呆然と周りを見回す陽菜。クラッカーを鳴らしたのは布良さんと入間さんと京介。


「えっ、だって今日って陽菜ちゃんの誕生日でしょ。相馬君が教えてくれたの」

「そうですけど……さすがにびっくりしました」


 九月十日、陽菜の誕生日。サプライズをやりたくて一度陽菜を教室から連れ出した。


「ほら、これ、受け取って。今日はこれだけだけどちゃんと別の日にちゃんと祝うから楽しみにしていてね」

「そんな、気にしなくても」

「だめだめ、ダチの誕生日は盛大に祝うもんだろ」


 僕らからのプレゼントを受け取り、戸惑っている陽菜。布良さんの誕生日の時は率先して祝おうとしていたのに。

 胸に抱いたプレゼント、それをしっかりとと抱きしめる。


「もう。皆様、ありがとうございます」 

「陽菜ちゃん、今の顔もう一回」

「えっ?何のことですか?」 

「今の笑顔ですよ。接客の時もそれでお願いししたいですね」

「えっ?」


 女子二人に詰め寄られ後ずさる。


「相馬、お前ってやつはうらやましいぜ。俺より先にあんな可愛い彼女手に入れやがって、畜生」

「えっ、付き合い始めたって言ったけ?」

「えっ、本当に付き合っていたの?」


 京介がこの世の終わりのような顔をする。結局伝えるタイミング見失っていたから、良い機会だったと思う。


「お前、お前だけは信じていたのに!」


 崩れ落ち床を殴り始める。そこまで衝撃を与えるような事だったのだろうか。


「私何でカメラ置いとかなかったのかな。私の馬鹿~」

「姉御、どうします?くすぐります?」

「そうだね、よし、私が取り押さえるから」

「いえ、私くすぐり効きませんよ。効かないからやめてくだ……」


 入間さんにくすぐられ笑い転げる陽菜。効いてるじゃん。


「駄目だ、さっきの笑顔と全然違う」

「違うと、わかった なら 手 を止めて」

「京介、そろそろ床を殴るのやめたら?」


 返事が無い。無言で床を殴り続ける。

 くすぐりから解放されて肩で息している陽菜、顔は無表情に戻っている。


「はぁはぁ。全く、勘弁してくださいよ」 

「ごめんごめん。とにかく十六歳おめでとう」

「ありがとう、ございます」


 それでも嬉しそうなのは変わらない。


「十六歳といえば、陽菜ちゃん、結婚できますね」

「結婚ですか?」

「そうだよ陽菜ちゃん、結婚だよ結婚」

「それを言ったら夏樹さんもできるじゃないですか」

「私は良いよ~。相手いないし」


 布良さん、ニヤニヤとこちらを見ないでください。京介も睨むな。


「駄目ですよ姉御、男は十八歳にならないと結婚はできないですよ」

「そうだった~」


 クラッカーで散らかしたごみを片付け、みんなと別れ家に帰る。メイド服に着替えた陽菜が台所で夕飯の支度を始める。僕もついて行く。


「ところで相馬君」

「どうした?」

「相馬君の好きなものをなるべく作るようにしているのですけど、嫌いな食べ物とかありますか?」


 考える。特にこれと言って思いつかない。


「陽菜の作ったのなら食べられると思うよ、全部」

「そうですか。私はどうやら相馬君の胃を掴んでしまったようですね。男はまず胃を掴めと言いますし」


 それって今でも言われていることなのか?


「というわけで、今日は唐揚げです。相馬君大好きですよね?」

「おう」

「デザートは林檎でよろしいですか?」

「最高だね」


 今のこの日々を無くしたくない、そう思った。


 

 



 

 

 

 




 

 

陽菜の誕生日会はまたいずれ。

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