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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 夏休み

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第三十四話 メイドと海へ出かけます。

 「相馬君、そろそろ着きますよ」

「おう」


 始発電車に乗って三時間ほどで着く家から一番近い海水浴場、あまり有名なところでは無いがこの時期は賑わっている。

 降り立てば漂ってくる潮のにおいが僕らを出迎える。

 既に波打ち際で遊んでいる子どもたちもいる。レジャーシートを敷き、パラソルを立てる。レジャーシートの上に腰を下ろして体を伸ばす。ポケットに入れていたスマホを確認する。そろそろ着くころだろうか。


「いやー、やっと着いたよ~」

「夏樹さん、追いつきましたか」

「うん、結城ちゃんには感謝だね」


 布良さんの後ろにいる結城さんはあきれ顔だ。

 集合時間になっても現れなかった布良さん、陽菜が電話をすると先に行っててとのこと。布良さんとの電話を終えた陽菜は結城さんに電話、何か取引をしていたようで結城さんが布良さんを乗せてきたというわけだ。


「それで、陽菜。私と決着をつけるのでしょ。立ちなよ」

「私は決着をつけるとは言いましたが、私ととも言ってませんし、今日とは言っていませんよ」

「あぁ!?てめぇ……」


 結城さんの顔が紅潮して、今にも噛み付いてきそうだ。


「こんなところで殴り合うわけにはいかないでしょう。子どもたちの教育に悪いです。それに、私は相馬君に戦ってもらうことをまだ頼んでいないので」


 結城さんは周りを見回す。


「確かにそうだな。じゃっ、あたしは帰るよ」


 結城さんが立ち去る。それと入れ替わるようにバイクの音。


「よう、お前ら。俺の登場だ」


 京介が砂浜まで降りて来る。


「いや~、結構かかったな」


 何となしに海を眺める。海は広い。そんな当たり前のことを目の前の海はやたら強調してくる。先が見えるのに見えないことを教えてくれる。



 「元気だな~」


 パラソルの下、海を眺める。日差しも段々と強くなってきている。スマホを見るとそろそろお昼時といった所だ。


「どれ」


 パラソルの下から出る。海の水はどうにもべたついて好きでは無いから見ているつもりだったが、僕も遊びたくなってきた。

「陽菜!こっちにもカモン」

「了解です」


 ビーチバレーと言ってもプールでやったみたいな勝負ではなく、ただボールをつなぐだけの遊びだ。

 陽菜から受け取ったボールを布良さんにトスする。布良さんがボールを陽菜に回すが少しだけ離れた所に飛ぶ。


「ごめん!」

「大丈夫です」


 陽菜がダッシュ、砂浜の上って走りにくいけど追いつけるものなんだな。というかそこに飛ぶのかわかっていたかのような動きだ。


「相馬君!」

「よし!」

「相馬!こっちに回せ!」

「行くぞ京介」


 さっきまで釣りしていたはずの京介も加わる。


「落とした人は罰ゲームで、しかしスパイクや遠くに飛ばすのは無しで」


 陽菜がそんなことを言う。


「それ!」

「えい!」

「オーライ!」

「そりゃ!」


 みんな真剣になる。

 波打ち際での戦いはしばらく続いた。



 「不覚です。まさか風で軌道が変わるとは」


 陽菜が砂に埋まっている。


「相馬君、麦わら帽子取っていただけませんか。日焼けしそうです」

「はいよ」


 頭だけ出ている陽菜、罰ゲームとして昼食の間だけ埋められた。


「パシャリ」


 そう言いながら布良さんは写真を撮る。


「何をしているのですか?」

「思い出。陽菜ちゃんが地面から生えている図。私の家にも生えてきて良いよ」


 ジトっとした目で布良さんを見つめる陽菜。


「買ってきたぞ、焼きそばでよかったか?」

「おう、サンキュ。陽菜も食べる?」

「食べさせてください。ついでに喉も乾きました」

「はいはい」 


 陽菜の口元にペットボトルを近づける。


「おぉ」 


 布良さん、どうしてそんなに目を輝かせているのですか?


「では、焼きそばをお願いします」


 海の家の焼きそばって美味しいのかな?そう思いながら陽菜の口へ運ぶ。


「食べにくいです」


 そりゃそうだ。


「なでなで」


 布良さんに好き放題遊ばれている、微笑ましい。


「ほれ、もう一口」


 見ていて面白い。


「……次は負けません」


 陽菜の強い決意がにじみ出ていた。



 


 昼食を終えて陽菜を掘り出し、次は何をしたものかと考える。

 海での遊びって色々あるようであまり思いつかない。


「城を作りましょう」


 陽菜の提案、なるほど楽しそうだ。


「作ろう作ろう」


 というわけで、四人がそれぞれ砂の城を作り始める。しばらく黙々と作業していたが。


「だめだ」


 どうにもイメージ通りにできない。

 海水浴客でにぎわう砂浜、四人の高校生が並んで砂の城を作る光景、想像したらかなりシュールなものだ。さっきからチラチラと見られている気がする。


「相馬君、できました」

「おう、見せて見せて」


 そこに築かれていたのは西洋風の城、しかし少し禍々しい気もする。


「魔王の城です」

「ん?」

「魔王城です」


 陽菜の口から魔王という単語が出てきた気がする。


「魔王の城というのは?」

「RPGに出てきそうな城と言われたら魔王城かと。最初に少しの金と貧相な装備しかよこさない頭の弱い王様の城なんかより、本気で勇者を潰しに来る魔王の方が好感持てますし」


 わかるような、わからないような。


「次は和風の城で行ってみようと思います」

「がんばれ」


 さて、僕も作ろうか。と思ったが攻め込まれたらすぐに陥落しそうな城しかできない。強そうな城というのはどういうものかな。


「布良さん、それは何?」


 ふと、布良さんの城が目に入った。


「こんなところに住みたいなと」


 シン〇レラ城ではないか。ほぼ完ぺきに再現されている。となると、京介もかなりすごいものを作っている可能性がある。

 見てみたい。見よう。


「京介はどんなの作っているのや?」

「おう、見るか?」


 京介の肩越しに覗き込んだもの、それはただの山だった。


「へぇ」

「ただの山だと思っているだろてめぇ」

「山じゃん」

「よく見ろ」


 よく見てみると穴が開いている。


「この中は迷路になっている」

「は?」


 わかりにくいがすごいのだろう。


「もう少し素人目にもわかりやすい作品を作ってください。貴殿の今後の栄達に期待します」

「どの目線だよ、それ」


 改めて自分の砂の城と向き合う。もう少しかっこよく仕上げたいな。そう思ったとき、僕はあることに気がついた。


「あっ」


 最初に声を上げたのは布良さんだった。


「えっ」


 陽菜も続いて声を上げる。


「うぎゃあ」


 京介もだ。

 三人の作った城は見事に波に蹂躙されていた。


「満潮ですね。そろそろ帰りましょうか」

 水平線は夕焼け色に染まっていた。周りを見渡せば家族連れの姿もまばらになっている。

 荷物をまとめ、備え付けのシャワーを浴びて着替える。

「んじゃ、俺はバイクだから。気をつけて帰れよ」

「お前もな」


 京介の乗るバイクを見送り、僕と陽菜と布良さんは電車を待つ。

 電車に乗り、車窓から見える景色を楽しんでいる、ふと正面に目を向けると、布良さんと陽菜がお互いにもたれかかって寝ていた。


「パシャリっと」


 その二人の光景を僕のスマホで切り取る。これもまた思い出として残しておこう。

 車窓の景色が流れる。僕らの夏休みも終わりの足音が聞こえる。

 

 電車が僕らの住む町の駅に近づいてきたタイミングで二人を起こす。

 目が覚めた陽菜は鞄を漁り、四つの小包を取り出した。


「夏樹さん、誕生日おめでとうございます。メールアドレスから推測しただけですけど今日ですよね?八月一日」

「えっ、うん」

「相馬君と桐野君と入鹿さんと私、代表して私がお渡しさせていただきます」


 布良さんはまだ戸惑っているようだ。それでも受け取ると飛び切りの笑顔を見せる。


「ありがとう!」


 僕らの夏休みはもうすぐ終わる。だから僕らは最後まで楽しみつくす。


 

 





 

 

布良さんのお誕生日会はまたいずれ。

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