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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 夏休み
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第三十二話 メイドと肝試しに行きます。

 その日は訪れた。


「では、肝試し大会を開会します」


 布良さんの宣言とともにそれは始まる。うちの高校は任意参加で毎年の夏休み肝試しをするのだ。

 二人一組で校内のどこかにある六つのスタンプを押して、屋上に出て来ればクリアとのこと。


「大丈夫、お化けなんかいない、存在しない、非科学的な妄想の産物、心霊映像や心霊写真は所詮合成やCG、怖い話は作り話、呪いは偶然の一致、論理的根拠は何もない、だからお化けはいない」


 隣で陽菜が延々と何かを唱えているのだが……。心配になったので声をかける。


「陽菜?」


 振り向いた陽菜の顔は真っ青だった。がたがた震えているようにも見える。


「大丈夫か?」

「大丈夫です、何も怖くありません。私はいつも通りです。ちょっと行ってきます。そろそろ参加を申請しましょう」


 そう強く言い切るも、ふらふらと受付に行き整理券を貰ってくる様子は不安しか煽らない。


「私たちは五番目だそうです。なるべく前のペアに追いつけるように頑張りましょう」

「それは駄目だと思うぞ」

「いえいえ、二人より四人の方が安全ですよ」

「知らない人と組むのとか嫌なのだが」

「やぁやぁ二人とも、受け付けは済んだかな?私は今日運営側だから、参加できないのが残念だよ」

「楽しそうですね、夏樹さん」

「そりゃあね、びっくりさせるのは好きだから。桐野君とか入鹿ちゃんとか来ればよかったのに」


 参加して、お願い。と電話で泣きつかれたときは何事かと思ったらそういう事だったのか。


「それじゃあ二人とも、楽しんできてね」

「は、はい。夏樹さんも運営頑張ってください」


 陽菜、大丈夫か……。





 「それでは、いってらっしゃい」


 校舎の玄関の扉が開かれる。妙に寒いのは雰囲気のせいだろう。さて、行くか。


「行くぞ、陽菜」

「はい」


 足を踏み入れる。懐中電灯の明かりをつけて進む。さっさと進みたいけど、置いて行くわけにはいかないようなぁ。


「お化けなんかいないお化けなんかいないお化けなんかいないお化けなんかいないお化けなんかいないお化けなんかいないお化けなんかいないお化けなんかいないお化けなんかいないお化けなんかいない」

「陽菜の方が怖いのだが」

「すいません」


 陽菜が腕にしがみついてぶるぶる震えている。頼られるのは嬉しいけど、なんか心配だ。


「別にお化けが怖いわけではありません。違いますよ、勘違いはしないでください」

「説得力が無いのだが」


 廊下の途中に不自然な掃除用具入れがある。あんなところにあったけ?


「相馬君、どこですか?視界の中にいてください。お願いします。危険ですよ、目の届く範囲にいてください」

「目を瞑ってちゃその視界に入れないよ」


というか、腕にしがみついているじゃん。その時、勢いよく掃除用具入れの扉が開く。


「ばぁーーーー!!!」

「キャー―――――!!!」


 掃除用具入れの中からミイラ男に扮装した人が出てきた。陽菜が悲鳴上げる事ってあるんだ。

 陽菜が怖がっているせいか、冷静でいられる不思議。



 「さっきの悲鳴はあれです、演技です」

「結構真に迫っていたな」

「そうでしょう、訓練されているので」

「そう言うなら前を歩いてほしいな」

「それは無理な相談です。相馬君、背中は任せてください」 


 ミイラ男との遭遇を経て、体にしがみついて僕の後ろにいる陽菜、歩きにくい。

 その時、突然生首が降ってきた。


「マネキンか。ん?陽菜?」

「大丈夫。作り物、作り物だから」


 こりゃ駄目だ。

 どうにか一階の隅に行きスタンプを一つ押す。さらに戻りがてら教室の中も探索し、もう一個押す。


「次行くぞ」

「はい」


 腰から引きはがし、手を繋ぐことで妥協させたが、それでもピタリと身を寄せているので、歩きにくさは変わらない。

 階段に差し掛かる。一段一段、やたら足音が響いている気がする。


「相馬君、後ろから何かが近づいてきているのですが、私の代わりに確かめてもらいますか」

「どれ」


 懐中電灯で照らす。

 陽菜の足元、白い服を着た女が四つん這いになって階段をのぼってきていた。どこに隠れていたんだ?!


 陽菜がすっ、と僕の後ろに回る。


「あれは人間あれは人間あれは人間……」


 呪文のごとく唱える陽菜。

 そんな陽菜の呪文も意に介さずのぼって来る。陽菜は後ずさり二階に到達、しかし後ろを見て立ち止まる。

 同じような恰好をした人が廊下を這って来る。


「陽菜、ほらこっち」


 完全に放心状態の陽菜を引っ張って逃げる。逃げる途中でスタンプを教室の中に一個、廊下の奥に一個見つけたので押していく。さっきの白い服のゾンビ?は教室に入らず、二階をずっと往復しているらしい。三階に向かう階段までは追って来なかったので、踊り場で休むことにする。


「陽菜、しっかりしろ」

「はい、相馬君。大丈夫です。少し驚いただけです」

「少しには見えなかったぞ」

「気のせいです。私はお化け何てものは信じていないので怖くないです」


 無表情できっぱり言い切る。


「嘘だな」

「嘘ではないです」

「嘘ではというのは?」


 そう言うと気まずそうに目をそらす。


「お化けを信じていないというのは本当です。ただし怖くないというのはただの強がりです」

「なるほどな」


 頭を撫でる。というよりポンポンと叩く。


「ものすごく馬鹿にされている気がします」

「そんなことないさ」


 むしろ陽菜の事を一つ知れたことが嬉しい。

 というわけで三階。あと二個だ。西校舎は会場では無いからここを一往復すれば見つかるはずだ。そのはずなのだが。


「無いですね、あと一個なのですが」

「そうだな。見落としがあったのか?」


 教室の中まで探したなのにスタンプどころかお化け役の人が一人もいないのだ。

 腕にしがみつく陽菜の手に力がこもる。


「もしかして本当にお化けが……。私たち、幻覚を見せられているのでしょうか」

「勘弁してくれ」


 ん?待てよ。


「よし、陽菜。ゴールに向かうか」

「えっ?」

「ゴール直前に置いてあるかもしれない。というかそれしか考えられないし、なぜそこに気づかなかったのかが疑問だ」

「それもそうですね」


 というわけで、階段まで戻り、のぼるとすぐそこ置いてあった。


「延々と探索させるつもりだったのだろうか。これ考えた人性格悪いぞ」

「仕掛けのない空間にするのもいやらしいですね」


 何かがあるかもしれないというのが一番怖いのだ。さらに一階二階と二つずつ置いて三階にも二つあるだろうと先入観を持たせる。

 屋上の扉を開きゴール。係の人にスタンプカードを渡し、ジュースとお菓子を受け取る。


「お疲れ、二人とも」

「夏樹さん。お疲れ様です」


 にこにこと布良さんが陽菜を抱きしめた。


「怖かったでしょ、私が考えたんだよ」

「布良さんが?」

「うん」


 布良さんがあの性格の悪い配置を考えたというのか……。


「夏樹さんはお化け、怖くないのですか?」

「うん、むしろ会ってみたいかな」


 布良さんが遠くを見るような目になる。


「会って、聞いてみたいことがあるから」


 布良さんは儚げに笑う、その目はこれ以上聞かないでね。と言っているようであった。


「さ、乾杯しよっ」

「はい」

「「「乾杯」」」


 缶のぶつかる子気味良い音。一気にあおる。ちゃんと冷やしてあったようで、蒸し暑い夜には嬉しい。

 屋上の入口を見ると続々とペアが現れる。泣いているペアが結構いる。


「夏樹さん」


 陽菜の冷え切った声が響く。


「あはは、やりすぎちゃったかな」

「というかどうして一年生の布良さんが任されたの?」

「伝統的にこの会は一年生が運営するの」


 なるほど。経験は宝田。この学校の指揮の進行がグダグダにならないでハプニングも少ないのはそういう事があるからだろう。


「それじゃ、閉会のあいさつしてくるからまた後で」





 解散し、三人で駅まで歩く。


「そういえばね、陽菜ちゃんと相馬君がゴールする直前にね、このコースを考えた人が性格悪いとかいやらしいとか聞こえたんだ」

「何のことですかね」

「僕もわからないな」


 そう言うと布良さんは涙目になる。


「楽しんでもらおうとしただけなのにー」

「よしよし」


 陽菜が布良さんを撫でるという珍しい光景が見られた。


 家に帰り、風呂から上がり今日は眠ることにする。電気を消して眠ろうと思った所で扉がノックされる。


「どうぞー」

「失礼します。相馬君お願いがあります今日は一緒に寝てくださいとても怖いですお化けに寝首を掻かれそうです」


 一息でそう言い切る陽菜、そんなに怖かったのか。


「お風呂も、本当は一緒に入ってもらおうかと思いましたがそこは堪えました。けどさすがに寝るのは一緒にしてほしいです」


 表情は無表情、でも言っている内容は本当だろうし本気だろう。なら、仕方、無いよな?

「ほら、おいで」


 掛け布団を捲り陽菜が入れるようスペースを開ける。


「失礼します」

「それじゃ、お休み」

「お休みです」


 もちろん、手は出していない。

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