第三十話 メイドが休暇を過ごします。(陽菜)
「それでは相馬君、いってきます」
「うん、いってらっしゃい」
今日は相馬君にお願いして休暇を貰いました。夏樹さんの提案で一週間で全員宿題を終わらせてから遊びまくりましょうとのことで、バーベキュー以来三日間、相馬君とのんびり過ごしていました。
のんびり過ごしていました、文字通り。そこで私はとんでもないことをに気づきました。その事で今日、夏樹さんをお呼びして相談してみることにしました。頼れる学級委員長様、どうか私にアドバイスをください。
電車に乗って一駅、駅前の喫茶店。夏樹さんが現れるのを待つ。窓際の席でオレンジジュースを味わう。
「いや~暑いね~。わぉ、陽菜ちゃんその格好可愛い~」
やけにテンションの高い夏樹さんが現れました。
「白いワンピースに麦わら帽子、オレンジジュース。萌えるね」
「テンション高いですね」
「だって陽菜ちゃんが私を頼ってくれるだなんて、嬉しいね~。さぁ、何でも言って。いつでも来いやー」
「とりあえず何か注文してください。今日は私の奢りにしますので」
夏樹さんの目が飢えた野獣の目に見えたので、とりあえず落ち着いてもらおうとメニュー表を差し出す。貰うばかりで使う機会があまりなかった給料ですし。
「それじゃあ、チーズケーキとアイスコーヒーで」
「チーズケーキ、好きなのですか?」
「うん!」
「そうなのですか。相馬君も好きで私もよく作るのですよ。あっ、こちらこの前作ると言ったクッキーです。今度チーズケーキ作るので食べてみてください」
「ありがとう、家に帰ったらいただくね」
夏樹さんは私をニコニコと見つめる。
「……どうかされましたか?」
「えっとね、陽菜ちゃん、相馬君の話をしているときの顔がいつもがゼロだとしたら、少しだけほんわかした感じになったから。良いな~って」
どんな感じなのでしょうか。
注文した品が届き、夏樹さんがおいしそうにチーズケーキを食べる。見ててお腹が空いてきました。
「すいません。ティラミスお願いします」
店員さんに注文する。予想より早く持ってこられてびっくりしました。
「夏樹さん、一口ずつ交換しませんか?」
「良いよ~」
夏樹さんがフォークに乗せたチーズケーキを差し出す。
「いただきます」
なるほど、確かに美味しいですね。
「ではこちらからも」
夏樹さんにティラミスを差し出す。すごい、食べ方が可愛いです。
「美味しい~。さて、そろそろ本題に入りましょうか」
頭の中で相談の内容をまとめる。相談を受ける人が困るのは相談内容がとっ散らかっているパターンだ。うん、大丈夫。
「実はですね。相馬君との関係が進展しないのです」
「と、おっしゃいますのは?」
「相馬君に告白はしたのですよ。でもその後、私の家出のことでその事がうやむやになっちゃって、それからも特に関係が進展するわけでもなく。いつも通りの関係で過ごしているみたいな感じですね」
「ふむふむ。つまり、日暮君、返事言ってないんだ」
「そうですね」
「陽菜ちゃん、日暮君が好きなんだね」
「はい」
ニヤニヤと私を見つめている。夏樹さん、恋愛相談向いているのか怪しいです。それでも今の私にはこの人くらいしか頼れる人はいない。
「関係、進展させたいんだ」
「……はい」
何だか恥ずかしくなってきました。顔が熱いです。
「私に任せて。頼れる学級委員長なので」
「何か策があるのですか?」
すごいです。夏樹さんが輝いて見えます。
「日常と離れる時というのはね、人と人との関係が変わるきっかけが眠っているの」
「なるほど」
夏樹さんが策士の顔をしている。
「まずは夏休み、そして私の企画書を見て。花火大会と縁日も追加しておいたから行こうね。他にもプールにキャンプに海に山登り。これだけ非日常に行く機会があるのだから、どこかで距離を詰めるの。いっぱいあるからと手を抜いちゃだめ。全部に全力で取り組んでね」
「もちろんです」
思わず唇を触れる。思い出すのはあの夜。決着をつけようと思ったあの夜、あれが始まりだったんだ。
「そうと決まれば、早速行きましょう」
「どこに行くのですか?」
「えっとね。水着でしょ、浴衣でしょ、いつもと違う自分を見せるのは重要だよ!」
なるほど、おしゃれとギャップで攻めるのですね。
「了解です。行きましょう」
持ち合わせ、それなりに用意しておいて良かったです。
お店での支払いを済ませて電車で一駅、私と相馬君が住む町に戻る。夏樹さんと初めて面識をもったデパートに向かう。
「そういえば、二人でお出かけするの初めてだね」
「そうですね。確かに初めてです」
デパートに着き、まずは水着から見ることにする。
「相馬君の好みはとりあえず、清楚で純粋な少女的な雰囲気が好きなのだと思うのですよ」
「なるほど確かに、そんな感じがする」
相馬君の選んでくる服を頭の中で描くと答えはそこに行きつく。という事は。
「これですね」
「これだね」
私と夏樹さんは一つの水着を手に取った。過度な露出の少ないこの水着は、私としてもありがたいですし。
浴衣コーナーにて。
「おそらく、相馬君は浴衣好きだと思うのですよ」
「というのは?」
「直感ですね」
相馬君は私の髪を見ると同時にうなじも見ている感じがします。浴衣を着るとき、髪をアップでまとめるのでおそらく好きかと。というのは相馬君の名誉のために伏せておきましょう。
「ふむふむ。これとかどうかな?」
「なるほど、相馬君が好きそうです」
「試着しよう。ほら、着てみて。私にその姿を見せて!」
夏樹さん、目が怖いです。
夏樹さんの大絶賛を受け、その浴衣は購入となった。
「ありがとうございました」
「いえいえ、私の目の保養になりましたから」
夏樹さんとともに駅へと向かう。相馬君は気に入ってくれるだろうか、楽しみと同時に不安でもある。
「それでは、また」
「うん、またね」
夏樹さんが改札の向こうに行くのを見送り足を家へと向ける。
今日の晩御飯はそうですね、キャンプの予行演習という事で夏野菜カレーにしましょう。材料も丁度ありますし。
家に帰ると相馬君がリビングに転がっていた。
「おかえり、陽菜」
「相馬君、何があったのですか?」
「うん?稽古してきた」
どんな無茶な稽古をしてきたのでしょう。
「しばらく動けないからまぁ、気にしないでくれ」
そんな訳にもいかないです。
「相馬君、うつ伏せになってください」
「おう」
よし!
マッサージを始める。訓練生の頃に教えられた通りにやる。
「うまいな」
「訓練されているので。それで、どんな無茶な稽古してきたのですか?」
「結城さんが来て、それでまぁ稽古の相手をしてくれと」
あの脳筋が……。大方負けそうになったのが悔しくて、派出所の人といつも以上に徹底的にやろうと思ったけど誰も付き合ってくれなかったのでしょう。旦那様が来た後もそんな感じでしたから。
丁寧に、相馬君の疲れが癒されるように。
「ありがとう。何か血が通った感じがするよ」
「そうですか。それは良かったです」
相馬君が頭を撫でてくれる。相馬君の撫で方はいつも丁寧だ、適当に撫でることは無い、撫でるのが本当に好きなのだろう。
「それでは、今日はキャンプの予行演習という事でカレーを作ろうと思います」
「了解、キャンプの予行演習なら僕も参加して良い?」
「そうですね。お願いします」
キャンプはみんなで役割分担して作業するもの。そんなことを本で読んだことがあります。
とても楽しい時間でした。二人で作ったカレーは、とても美味しかったです。
次は相馬視点の方です。





