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第三話 メイドと休日を過ごしてみます。

 「えっと、やっぱりそれで行くの?」

「はい、ご主人様と出かけるのであればこれかと。メイドの着装、立ち居振る舞いはご主人様の評価にもつながるので」

 

 高校入学して最初の休日、約束していた陽菜の服を買いに出かけることになった。

 陽菜の服装はいつものメイド服、陽菜にとっては正装であり普段着だが世間的に見ればただのコスプレだ。まぁ、コスプレに見えるから雇用関係がバレるということも考えにくいから特に不都合はない。でもコスプレに見えてしまうということを陽菜はどう思うのだろう。


「ジャージで良いよ、服買ったらそれに着替えてもらうし」

「仕事において手抜きはしたくないので、これで行かせていただきます」

「変なところで強情だな」


 これ以上の説得は意味をなさないと判断、諦めることにする。

 家を出てしばらく歩けば大きなショッピングセンターがある。学校以外で陽菜と一緒に外を歩くのは初めてだ。

 うららかな日差しが眠気を誘う。はぁ、良い天気。ベッドで眠りたい。春休みのだらけきった生活はまだ抜けていないようだ。早朝の習慣だけは途切れさせず、それが終わったらソファでひたすらだらける、我ながらよくわからない生活だ。

 


「ご主人様、少し止まっていただけますか?」

「ん?」


 突然陽菜が、目の前に立ち僕の方に手を伸ばす。


「蝶々ですね」


 陽菜の手には白い蝶が捕まえられていた。


「僕の服についてたの?」

「はい……ご主人様の一人称って安定しませんね」

「そう?」

「はい、自己紹介の時は俺と名乗っていたのに今は僕と言いました」

「意識して俺って言っていたのだけど。どっちが良いと思う?」


 そういうと陽菜は首をかしげる。


「指摘しておいてあれですが、一人称に大した意味はないと感じます」

「俺と僕じゃだいぶ違うと思うけど」

「そうですか?ご主人様はご主人様だと思います。私が仕える対象であることは変わりません。ついでに口調が安定しないのも、そうですね……変だと思います」


「男らしい口調にしようと思ったのだけど」

「いえ、たまにその努力をしているのは見受けられるのですが、残念ですが今は素が出ているように思われます」

「陽菜も実はおしゃべりさんで今が素なの?」

「あっ」


 そう言って口に手を当て固まってしまう。


「少し気が抜けていたようです。行きましょう」


 顔には出さないけど雰囲気がせかしているような気がして思わず足が早まる。

 最近陽菜の鉄仮面がはがれてきているような気がする。



 服屋に着き店を見回し僕は途方に暮れてしまった。女の子にどんな服が喜ばれるのかがわからない。


「陽菜ってどんな服が好み?」

「そうですね、動きやすい服で」


 参考にならない。


「ご主人様の趣味に合わせるとのことでしたので、お任せしますよ」


 僕の趣味か……。

 どれにしよう。

 今のメイド服もかなり僕にはどストライクなのだが、陽菜に合いそうな服を探しにだんだん店の奥に進んでいく。


「あれ、日暮君と朝野さん。私のこと覚えてくれてる?クラスメイトの布良夏樹だよ」


 後ろを振り向くと布良さんがそれはそれは不思議そうな目で陽菜の事を眺めていた。


「コスプレ?」


 わずかに陽菜の表情が凍り付いたのを僕は見逃さなかった。





 「ふむふむ、なるほど、素材が良いから何着ても似合っちゃうね」


 試着室の前、布良さんが次々と色々な服を着せては楽しそうに眺めている。

 陽菜はというとされるがままだ。コスプレが趣味な陽菜のために普通の服を何着か用意したいという話をあっさりと信じてしまった布良さんの着せ替え人形と化している。

 ちなみに俺が趣味で選んだのは黒のワンピースだ。それはもうよく似合った。これからの季節にはちょうど良いとも思うし陽菜の動きやすいという要望にもピッタリだと思う。それに僕の趣味にどストライクだ。


「相馬君、三つ程度組み合わせがあれば十分と判断しましたので会計をしてきます」

「了解」


 そう言って財布を取り出すと、陽菜が手で制する。


「いえ、相馬君が私の普段の格好がどういった目で見られるのかを危惧してくださっていたのがよくわかったので。コスプレですか……」


 そんなにショックだったのか。顔には出さないがなんとなくそうなのだろうと思う。そりゃまぁ仕事に対する思い入れが強いだろうからショックを受けるのもなんとなくだがわかる。だからやめた方が言いと言ったのだけれど……。

 会計に向かう陽菜を眺めていると、隣に布良さんがやって来る。


「さすが幼馴染、仲良しさんだね。休日も一緒なんだ」

「まぁ、そうだね」

「相馬君の服のチョイス良いね、私もあれが一番似合うと思ったよ」


 陽菜が戻ってきて、そのまま一緒に昼食を取ることにする。

 近くにあったハンバーガーショップは昼時が過ぎた時間だからだろう、席が簡単に確保できた。


「布良さんっておしゃれですね。スタイルも良いですし」


 陽菜が珍しく話題を振る。

 あまりじっくり見る余裕が無かったが確かに布良さんの格好は派手すぎず地味すぎず、丁度よくよくまとまっている印象だ。


「そんなことないよ。朝野さん、メイド服もその服もとても似合っているね」

「ありがとございます。しかしこの服、何かスースーして慣れませんね」


 陽菜は今、メイド服から俺が選んだ黒のワンピースに着替えている。陽菜が自分で選んだようで、勧めた僕としては嬉しい。


「朝野さん、あまりそういう服は着ないの?」

「はい、基本的には」

「いつもメイド服?」

「いえ、ジャージの方が多かったです」

「そうなんだ」


 さらりと普段もよくメイド服を着ているという発言を流しているのか気づいていないのか。


「そういえば二人とも、来週テストあるって覚えている?」

「えぇ、存じております」

「えっ、そうなの?」


 まだ授業始まってもいないのにテストするのか。


「春休みの宿題から出るそうですので問題ないでしょう」


 陽菜はそう言うが、早めに終わらせてしまったために内容なんて覚えていない。


「大丈夫だよ、まだ一日あるし。どうにかなるよ。赤点回避して補修(補習)から逃れるぞ、がんばろー」


 あぁ、やっぱり赤点取ったら補修(補習)なのですね……。

 うんそれはまずい、やるしかない。


「陽菜、僕は帰って勉強する」

「そうですか、わかりました。私も一緒に帰ります」

「二人とも頑張ろうね」



 家に帰り春休みの宿題を引っ張り出す。さて、やるか。


「ご主人様、その前に夕飯にしませんか?」

「……はい」


 夕飯を食べ改めて。さて、やるか。

 テキストを開きとりあえず自分がやった問題を見る。


 何だこれ、中学の頃にやったやつじゃん。


「ご主人様、コーヒーをお持ちしました」

「うんありがとう」


 よくよく考えればわかることで別に慌てる必要なんて無かった。僕は何を慌てていたのだろうか。

 この範囲の勉強とか受験の時に徹底的にやったとこじゃねぇか。


「ご主人様、お休みになられるのですか」

「おう、中学の頃にやった範囲だったからもういいかなと」


 そう言うと、陽菜はテーブルの上に置かれていたテキストの後半の方を開く。


「ここら辺の範囲、かなりの間違いがあるようですが一応名目は高校の予習です」

「そうなの?」


「はい、おそらく来週の授業でやる範囲かと。ただ先日の入学式の時テストに出すとおっしゃっていました」


「まじで?」

「はい」


 全教科その範囲あるのだが。いや、でもほとんどが中学の範囲から出るだろうしそこを着実に取れば赤点は逃れられるはず。


「私も至らずながら解説の方はさせていただくので、やりますか?」


 陽菜の言葉。悩む、楽はしたいけど陽菜の提案を無下にするのも申し訳ない。


「やります」


 陽菜との徹夜の勉強のおかげでどうにか赤点は逃れられた。













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