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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
愛おしいメイドに。
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陽菜√エピローグ 陽菜と見つめる世界。

 「しかし、暑いな、本当に」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫。飛行機の中はどうせ涼しい」


 フード付きのマントを外しながら、数時間振りに吸った濁りの少ない空気。陽菜も、体に付いた砂を落として、一息ついている。


「どうだった? 今回の旅は」

「逞しい人たちでした。生きる意志をを感じることができました」

「そうだね。まさか、日本人という理由で襲われるとは思わなかったけど」

「はい、相馬君とはぐれた時は流石に焦りましたけど」

「そこら辺は流石陽菜だよね。すぐに見つけてくれるとは」

「私にかかれば造作も無い事です。相馬君こそ、五人相手にしての立ち回りは見事でした」


 そうやってお互いを褒めながら、空港内の免税店を巡って、お土産に良さそうなものを探す。

 何が喜ばれるかな。あっ、コーラだ。久々に飲みたいな。


「桐野さん、帰って来ますし、今なら乃安さんと莉々さんいらっしゃいますし。楽しみですね」

「そうだね」

「それよりも、今回の旅を最後に、しばらく休むって、本気ですか?」

「まぁ、これは、資金がね。大学時代に頑張って貯めた分がそろそろ底が見えてきたから。入鹿さんが荒事もこなせる人が欲しいってぼやいていてさ。尾行していた相手がかなりヤバくて、バレたら最悪殺されるとかあるらしいし」

「やるのですか?」

「日暮氏でしたら是非とも欲しい人材です。だってさ」


 メイド長から連絡が来て、金に困ってるなら頼っても良いと連絡は来たけど、でも、それに頼るのは何か違う気がして、結局自分で仕事を探そうと思っていた。


「だからさ、五年くらい休もうかなって」

「随分ゆっくりですね」

「諦めたわけじゃない。ただ、実感しただけ。自分が幸せにならなきゃって。だから、なんだろう……僕らの幸せの新しい答えを探しても良い頃合いかなって。だから、少し休憩。一緒に井戸掘ったり、紛争地帯に飛び込んで子ども助けたり、色々したけど。一旦戻ってまた来るよ。どれだけ助けられるかはわからないけど」


 飛行機に乗ってすぐ。僕は背もたれに深く体を預けて、そのまま眠った。頭を撫でてくれる手を感じた。





 「帰って、来たー!」


 日本の空を見上げ、僕はそう叫ぶ。


「テンション高いですね、珍しく」

「なんだかんだ、この空、この空気が落ち着くよ」

「せんぱーい、お迎えに来ましたー!」


 懐かしい声。乃安がぴょんぴょんと跳ねて手を振っていた。 


「日暮相馬……あんた、よく生きているね。流石に今回は死んだんじゃねって思った」

「陽菜がいたら死ぬ要素は無い」


 殺されても生き返らせそうだ。陽菜なら。

 君島さんが助手席でパソコンをカタカタと打ちながら、眠そうに目を擦る。


「莉々、あなた、昨日から寝てないじゃないですか。ほら、先輩達無事に帰って来ましたよ。安心して寝ても大丈夫です」

「別に、心配で起きていたわけじゃない。仕事が溜まっていただけ」

「おかしいですね。仕事でしたら、一昨日依頼分はこなして、今やっているのはゲーム制作ですよね? 徹夜が必要なほどの急ぎでは無い筈です」

「んがー! 乃安ちゃん、運転に集中してー!」


 相変わらずな二人に、思わず笑みが零れている自分に気づいた。

 その日は一日眠った。家に着いてシャワーを浴びて、ベッドに転がり込んで眠ってしまったのだ。

 目が覚めた時、冴えた頭にひらめきが、靄が掛かった景色が晴れるように訪れた。


「陽菜!」

「はい。うっ、きゃあ」


 廊下に出ると陽菜がいて、問答無用に抱きしめた。


「やっぱり、一人じゃ無理だ!」

「は、はぁ?」

「でもさ、僕なら先導者になれるよね?」

「えっ、と……落ち着いて説明してもらっても、良いですか?」

「あ、ごめん、つい……要するに、僕がこうやって活動を続けていれば、いつか、賛同してくれる人が、同じような活動してくれるよねって。そうやって人を増やし続ければ、って」

「……もしかして、そのつもりでは今まで無かったのですか?」

「ま、まぁ、今思いついた」


 陽菜が、隠そうとしない呆れと共にため息をつく。


「まぁ、その考えに辿り着くだけ、まだましですよ。何事も一人でどうにかしようとするあの頃よりは」

「僕も、成長するという事で」

「はい。良い成長です」


 ポンポンと頭を撫でられ、手を引かれ、陽菜の部屋まで連れていかれる。


「ですが、今は人類よりも、目の前にいる私を愛することに専念してください」




 「おひさ、相馬くん」


 リビングで、どこかまだ決めてないけど、とりあえず出かけようとなり、夏樹を家に呼んで、着替えている陽菜を待つ。

 夏樹は、随分と大人っぽくなったと思う。意外なことに、まだ就職活動中というか、毎日を悠々自適に暮らしているというか、高等遊民やっているというか。

 だから、平日の真昼間にこうして会えるのだが。


「向いてる向いてないは重要だと思うよ。向いてる向いてないじゃないんだよ! とか、根性論振りかざしている人には是非とも、じゃあ、早速ですが、工事現場で鉄骨の上で仕事でもしてください、重ねて言いますが、今すぐに! と言いたいね」

「なるほど」


 夏樹はぼんやりと笑いながら、ポテトを齧る。


「まぁ、やりたいことはあるんだよね。相馬くんの考え方、私好きだよ。幸せのおすそ分け理論」


 ポテトをまた一口齧る。


「だからね、私、奨学金を作りたくなってね。返済無しの」

「奨学金?」

「うん。困っている人に配るの。だから、この間、メイド長さんに会いに行ったんだ。そしたら、とりあえず雇って、私にそれだけの能力があるか見極めてくれるって」

「意外だな。メイド長さんがそこにまだ手を出していなかったって」

「むやみやたらに手を伸ばさない人だからね」

「相馬君。お待たせしました。夏樹さんもお久しぶりです。早速、行きますか?」

「うん。行こう」

 




 「よう、久しぶりだな」

「本当、久しぶりってここ数日で何回言ったのかな」

「まぁ、飲もうぜ」

「あぁ」


 京介お勧めの店があるとかで行ってみれば、先に京介は飲んでいた。

 わりと強いのではと思っていたが、本当に強いようだ。既に何杯か飲んでいる形跡があった。


「朝野さんは?」

「家で夏樹と飲んでる」

「そっか……お前ら、いつ結婚する気なんだ?」

「指輪はあるんだ。ただ、渡せてないだけ」

「いや、渡せよ」


 いつでも渡せるように、今は僕のジャケットの内ポケットに入っているし、持ち歩かないときは、部屋の鍵付きの引き出しに入れている。

 渡すタイミングがわからない。


「あのな、そこそこ長い事お前ら見ているけど。相馬、変にかっこつけるな。お前らはその方が良い。確信を持って言える」

「身も蓋も無いな」

「違うか?」


 京介は、真っ直ぐにこちらを射抜くように見る。京介の真面目に話す時の癖だ。

 ここ数年で伸びた髪、頬の傷跡は薄くなっている。筋肉は少し落ちたが、その代わり、雰囲気からどこか知性を感じる。


「違わないな。かっこつけずに、普通に渡すよ」

「それが良い」





 その後、京介を連れて家に帰り、陽菜達と合流した。乃安がおつまみを用意してくれた。初めて知った。砂肝って美味いんだ。


「先輩、会うたび目が奥深いものになりますね」

「どういうこと?」


 乃安がグラスを傾けて、唇を湿らせるように飲む。


「色々なものを見ていると感じます。残酷な光景とか」

「そりゃ、そうさ。目の前で人が爆炎に飲み込まれるのも見た。あと数秒早く行けば助かった命も見た。僕らに良くしてくれた人が、ハチの巣にされるのも見た」

「でも、それだけじゃないですよね?」

「うん。どうしようもないくらい人類は駄目なのかと思っていたけど、案外そうじゃくてさ。食べ物、てっきり独り占めするかと思えば、ちゃんと分配する、日常的にしているかのように手際よく。そんな人もいたし。もう助からない人を泣きながら苦しまないようにしてくれる人もいた。僕にはできなかったよ」


「優しい世界と、残酷な世界、どちらも見たのですね」

「うん」

「くぅ」

「ん?」

「あー、乃安ちゃん、寝ちゃったか」


 君島さんが、後ろから毛布を掛ける。


「酔いが回ると寝ちゃうんだよね、乃安ちゃん」

「へぇ。慣れてるね、介抱」

「うるさいな。毎日やっているんだよ。それとさ、あんた。無理しないでよ」

「無理?」


 君島さん……莉々は、ぶっきらぼうな顔で、こちらを見ようとせず話す。


「あんた、苦手じゃん、こういうの」

「そうでもないさ、今は、陽菜がいるから。平気なんだ」

「……はいはい、ごちそうさま。そうですか。それなら頑張ってください」


 プイっとそっぽ向いた顔が、笑っていることに、気づいた。




 「ようこそ、日暮氏。次期所長権限で、大分労働条件緩いですが、その分、危険な相手ばかり相手にしてもらいますですが、よろしいですね?」

「うん」

「場合によっては非合法な潜入もしてもらいますですよ」

「それも良い」

「なんか、申し訳なくなるんで、少しは抵抗してもらっても良いです?」

「文句は特にない」


 久しぶりに来た所長室にて、入鹿さんに迎えられ、僕は差し出された契約書に押印した。


「それでは、これからよろしくお願いしますです」

「ん、よろしく」


 入鹿さんが差し出した手をグッと握る。

 変わらないツインテールでにっと笑う。


「しばらくは私のパートナーとして動いてもらうので」

「了解した。先輩」

 




 事務所を出ると、駐車場から一台の車が出てきた。窓から陽菜が顔を覗かせた。


「お疲れ様です、お迎えに上がりました」

「ありがとう」


 陽菜が運転する車の助手席に乗って、窓の外の景色を眺める。


「留守は任せてください」

「うん。ありがとう……結局、僕も暴力に頼らなきゃ生きて行けなかったし、これからも使うんだね」

「仕方ないです。それは。これから、相馬君が模索していく道です」


 銃も撃った。殴りもしたし、剣も振るった。それで今、こうして生きている。でも、それでは結局、やっていることは一緒なんだ。僕は、誰かに不幸を押し付ける力を使わずに、幸せになりたいのに。


「道は遠いな」

「遠いですね」

「ついてきてくれる?」


 信号待ち、僕はそれに合わせて、陽菜に小さな小箱を差し出した。


「ふぅ、相馬君。それを今渡しますか?」

「駄目かな?」

「一応、答えは当然です。とだけ言っておきます。受け取るのは後でということで」


 呆れたようにため息をついて、軽く唇だけ合わせて。陽菜は車を走らせる。


「うん、後でちゃんと渡すよ」


 僕らの関係にわざわざ証明する指輪も、書類も必要無かったなと、思わず苦笑い。


「陽菜、愛している。僕は今、幸せだよ」

「はい。私も、愛しています。とても幸せです」

 





ありがとうございました。ここまで読んでいただき。感想欄にて、是非とも好きなキャラとか、好きなルートとか教えてもらえると嬉しいです。評価、レビューも是非お願いします。

本当に、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。アフターストーリーもありますので、是非読んでください。

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