間話メイドとキスの日。
朝、いつも通り運動しようと玄関に向かう。その途中、見慣れたメイド服の少女が反対側から歩いて来た。
「おはよう、陽菜」
「おはようございます。相馬君。ん……」
陽菜が、背伸びをして、唇が合わさる。
「はい、今日はキスの日ですから。朝からいただきました」
人差し指を立てて、唇に当てて、くるりと、踊るように廊下を歩き去る。思わず抱きしめようとして伸ばした手は空を切る事になった。
朝からドキドキさせてくれる女の子だった。
昼、授業の合間の長い休み時間。この時間は人が来ない部室棟の奥、そこに乃安がいた。こちらに気づくと手を振ってくれる。
「相馬先輩!」
「ごめん、待った?」
「待ちましたよ。だから、えいっ!」
壁に押し付けられ、そのまま唇を奪われた。最初は触れるだけ、けれど舌がねじ込まれ、激しいものに変わっていく。
脳が溶けていくような、そんな感覚。ぼんやりとした気分になる。顔が離れて、それでも名残惜しさを示すように、透明な糸が結ばれた。
「ふぅ、ご馳走様です。先輩」
「夏樹」
「んー。どうかしたのかな?……!」
軽く触れるだけ。今日、どこか上の空で、話しかけても反応が薄かったから、寂しくなったのだ。
「ふふっ、大胆。じゃあ、お返し」
夕焼けの下、温かい時間。一日の終わりが、静かに告げられる。
触れては離れ、触れては離れ、でも、深くはならない。ただ、お互いを求めあう時間だった。
「はっ!」
目を開けて、反射的に時計を確認する。
「夢……」
そりゃそうだ。なんで一日に三人の女の子とキスするんだ。
「節操無さ過ぎる……」
何を考えているんだ、僕は……。
「さて、とりあえず、運動しますか」
短めで。
まぁ、これ、誰とも結ばれないバッドエンドルートなんだけどね。次回、本編。