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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 夏
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第十六話 メイドとマラソン大会に挑みます2

 「すまねぇ、二人とも。迷惑かけた」

「そうですね。確かに迷惑ですが、見捨てるような薄情はできないような関係になってしまいましたから」

「全くだ」


 坂を上り切り、後は長い下り坂を下るだけだが、桐野の足はまだ痛むようで二人で支えながら歩いていた。


「しかし二人とも早かったな」

「そうか?二、三年の先頭集団見えないぞもう」

「まぁな、けど結構追い抜いてここまで来たんじゃねぇか?」

「そうだな、あまり覚えてないけど」


 坂を下る。ゆっくりと下る。時々休みながら進む。次の給水ポイントどこだったかな。


「追いついた~はぁはぁ。もう、二人とも早いよ~」

「布良さん!?」

「夏樹さん、追いつけたのですか?」

「う~ん?どうにかね。明日確実に筋肉痛だね。それで三人はどうしたのかな?」


 布良さんにこれまでのいきさつを話す。


「なるほどね、青春だね」


 何とも布良さんらしい回答である。


「よし、私も一緒に行こうではないか。だってもう走るの疲れたから」


 布良さんも加わり四人で歩き出す。


「あれ、夏樹の姉御。珍しくハイペースで行くなぁ、と思っていたら休憩でございますか?」

「入鹿ちゃん、今ね、私、青春しているの」

「何と、青春でございますか。私も参加します」


 交代で桐野を支えながら歩く。


「なぁ、相馬。俺幸せ者だな。故郷飛び出してここまで来てよかったぜ」


 最後の給水ポイントで先生に止められるも、桐野は歩くことを選択した。ここまで来て諦めたくないという強い意志でだ。

 そして、そこを過ぎてから桐野は自分の足で歩き始めた。


「悪いなみんな、迷惑かけた」

「それはゴールしてから言って欲しいな。入鹿としてはそこにジュースの一本でも付け足してくれたらい言う事は無い」

「そうだねぇ。私はオレンジジュースが良いかな」

「私はカ〇ピスで」

「んじゃ僕はコーラ」

「了解了解、わかった」


 もうすぐゴールだ。結構長かったし、日差しがきつすぎた。陽菜の勧めで日焼け止め塗っておいて良かったと思う。

 学校の正門を抜けてゴール。あっさりしたもので、ゴールした人からすでに日陰で休んでいた。


「終わったな」

「そうですね。ところで相馬君、賭けはどうしますか?」

「あっ、どうしようか?」

「私としては両者勝ちでどちらの要望も叶うというのが良いと思いますが」

「そうだね、そうしようか」


 僕も膝枕されたいし。


「えっ、何?お前ら賭けしてたの?ますますマジすまん。邪魔しちまったな」

「気にするな、ゴールできたのだから良いじゃねぇか」

「今度飯おごるからな。あまり高いのは無理だけど」


 そこまで気にすることでもないのに。



「ではご主人様、どうぞ」


 家に帰り、陽菜はメイド服に着替えてリビングで正座していた。


「シャワー浴びたので汗臭くは無いと思います」

「おう、では失礼します」


 ゆっくりとその膝に頭を乗せる。


「その、どうですか?」

「寝心地良い」

「そうですか。良かったです」


 ちょっとだけ恥ずかしそうにしているように見えるのは気のせいだろうか?

 時刻はそろそろ昼下がりといった時間帯、マラソン大会を終えてそのまま解散とのこと。部活も生徒会も普通にあるとのことで僕らは帰ってきたのだ。

 眠くなってきたな。


「相馬君?」

「うーん?」


 駄目だこれ、眠いや。




「相馬君?」


 寝てしまったようです。困りました。これでは仕事ができません。

 このまま膝を抜いてソファーのクッションと取り換えてしまっても良いのですが、それだと約束と違うみたいな話に……なりませんね、ご主人様なら。でもそれだと私の気が収まらないのも事実、私もご主人様に手料理を食べさせてもらうのですから。

 ご主人様の寝顔を楽しむことにしましょう。

 走ると眠くなるのもわからないでもないのですが、だいぶ深く寝入ってますね。

 思わず私もあくびをしてしまう。気が抜けていますね、良くないです。


「最近、感情を隠すのが下手になってきた気がします」


 癖だった事が抜けていくのってどういう時なのでしょう。ご主人様の頭を優しくなでる。安心しきった顔は普段私に見せる優しい顔とはまた違う形で私を戸惑わせた。

 優しくされるのはまだ慣れていない。ご主人様は私を怒らないし命令もしない。私が居眠りした時も怒られると思っていたのに何も言わずにちゃんと休めたのかを聞いてきた。メイドとしての研修時代、怒られることは良くあった、けど優しくされたことは無かった。

 怒られた方が気楽なのにと思ったし、何か無茶苦茶な命令でもしてくれた方が仕事をしている実感が得られるのにと思うことがあった。でもこの人がくれたのは感謝の言葉と嬉しそうな表情だ。文句は言わないし殴りもしない。たまに髪の毛と足に視線を感じるくらいだし、言われた命令といえば頭を撫でる権利と膝枕をお願いする権利だけだ。あとは弁当に卵焼きを絶対入れてくれ、くらいですかね?

 暴力沙汰に巻き込んでしまったのに頭を撫でる権利だけで済まされたのも、今ではご主人様の性格と性癖なら妥当なのかもしれないとは思えるようにはなってきた。

 自分の髪の毛を触ってみる。派出所にいたときよりも念入りに丁寧に手入れをしているから前よりもサラサラだ。


「ご主人様はまだ私が足を見られていることを気づいていないと思っているのでしょうか」


 ニーハイと生足、どっちがお好みなのでしょうか。今度聞いてみるかそれとも交互に変えてどちらの方がよく見ていたのか検証してみるか悩む。

 検証する方にしましょう。

 そろそろ起きるみたいですね。



「陽菜、おはよう。足しびれてない?」


 目が覚めて、目の前に陽菜の顔がある。無表情に眺める顔はいつも通りで安心する。


「おはようございます。大丈夫です、訓練されていますから」


 もう夕方か、約束通り料理するか。


「陽菜、何食べたい?」

「いえ、ご主人様が作るのは弁当でお願いしようかと思いますので、メイドは同じ食卓には着きません」


 そこはこだわるのか。


「明日、楽しみにしていますね」

「一度聞いてみたかったのだが、メイドの禁足事項って何があるの?」

「ご主人様と同じ食卓には着く、ご主人様の命令に逆らう、仕事をサボる手を抜く、ご主人様の日常の邪魔をする、ご主人様に恋をする。やってはいけないことの代表はこれくらいですかね」

「何か厳しいな」

「そうですか?人の言うことをただ聞くだけならとても楽なことです」


 陽菜について行って陽菜の料理する姿を眺める。


「ご主人様、私が料理する姿を眺めていてもつまらないだけかと思いますが?」

「今日はさすがに疲れたからこうしているよ」

「確かに、今日は休まれるのが賢明ですね」

「ちなみに今日は何を作られるつもりで?」

「親子丼です」

「それは楽しみだ」


 無駄のない動きで仕上げていく。


「予約炊飯て便利ですね。ご飯の炊きあがる時間に合わせれば良いのですから」

「そうなのか?てことは僕がさっき起きなかったら?」

「いえ、保温機能もあるので特に影響は無いです。そろそろできるのでテーブルの方でお待ちください」

「了解」




 「それじゃあ、作りますか」

「はい、お願いします」


 料理するのは久しぶりだ。前お腹が空いたからおやつを作ろうとしたとき、あっさり私が作りますと陽菜に阻止されて以来包丁も握っていない。

 まずは卵焼き、ウインナーを焼いてご飯を詰めてごま塩をかける。これ手料理と言えるレベルなのだろうか。もう少し何かしたいな。

 アスパラにベーコンを巻いて焼く。それも詰めると少しは彩りが出てきた気がする。陽菜ほど手の込んだものは作れないな。うん、これが俺の手料理のレベルだ。


 そして昼休み。


「では相馬君、お願いします」


 まずは何から食べてもらおうかな。


「わくわく」


 布良さん、あまりこっちを見ないで欲しいな。

 とりあえず卵焼きを差し出す。陽菜が控えめに口を開いて食べる。


「美味しいです」

「それは良かった」

「えっ、今日は日暮君が作ったの?」

「おう、今日はな」

「へぇ、相馬が。興味無いな」


 桐野の陽菜が作ったと聞いた時の食いつき方との差が激しい。


「では失礼して。卵焼きを」


 布良さんがさらりと卵焼きを持っていく。


「日暮君、グッジョブです。とてもおいしいです」


 意外と高評価で嬉しい。


「相馬君、早く次の物が欲しいです」

「はいはい」


 なるほど、確かにこれは楽しい。陽菜がはまるのもわかる気がする。お世話している気分になれる。にやけているのが自分でもわかる。仕方ないではないか、陽菜の食べ方が母性をくすぐるのだから。

 気がついたら弁当の中身は無くなっていた。


「ごちそうさまでした。なるほど、これはちょっと恥ずかしいですね」

「そうは見えないな」

「明日からは辞めておきましょう、お互い」


 唐突にそう言いだす陽菜。それは本気だったようで、次の日から陽菜は僕に食べさせようとすることは無く、かといって僕に食べさせてと頼むことは無かった。




 

  

 

  


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