メイドとラジオの真似事をします。第六回
「あの、陽菜先輩」
「はい」
「私たちの組み合わせ、二回目ですよね」
「そうですね。良いじゃないですか? 私たちの仲ですよ。大丈夫です。私の控えめでお淑やかなサイズを公表したことは既に許しましたから」
「絶対引きずっていますよね、それ」
陽菜と乃安、陽菜は今回のヒロインで、乃安は前回のヒロイン。順当ではないか。だからまぁ、良いのである。この組み合わせは当然の帰結である。
「さて、今回はリクエストが届いているので、それをやりましょうか」
「リクエストですか?」
「キャラの見た目設定をまとめて欲しいという物ですよ。あと、入鹿さんが何者なのかというものです」
「あぁ、前者は確かにやっておかなきゃだめですよね。後者は……まぁ、多分、この先使う事は無いでしょうからというか、入鹿さんはメインとサブを行き来する謎キャラクターですからね」
「えぇ、本当に謎ですね。世の中、謎にしておいたままの方が良いものもあると言いますけど。あの情報収集能力は普通の仕事では無いですよね、入鹿さんの家。将来的に継ぐそうですけど」
「ふむ……」
「ふぅ……」
「「探偵!」」
陽菜と乃安が同時に出した答えはそれだった。
「よし、これで納得ですね」
「ですね」
「では、とりあえず、人物の見た目、メインキャラからまとめて行きましょう。乃安さん、私の見た目に付いて述べなさい」
「はい、とても可愛いです。アイタっ!」
「ちゃんと具体的に、ですよ」
「はーい。髪は、肩くらいまでですね。作中で伸びたり切ったりしますけど。背は、私の肩くらいで、私が相馬先輩の肩くらいですから、あと、むnふみゅぅ! 陽菜先輩……あの、まとめさせる気はあるのですかぁ……」
「もちろんです、続けてください」
「はい、あとですね。相馬先輩が言っていたのですが、陽菜先輩の目は、吸い込まれそうになるような黒い目で、思わず見入っちゃうんですよね。私もわかりますよ、その気持ち」
「なるほど。では次は私の番ですね。乃安さんの見た目」
「はい、お願いします」
「ふむ……羨ましい体型です。足はスラっと伸びて」
「陽菜先輩の足も綺麗じゃないですか」
「細すぎず、しかしふくよか過ぎず。思わず抱きしめたくなってしまいます」
「えぇ、私も陽菜先輩抱きしめたいです」
「じゃあ、どうぞ」
「わーい。ありがとうございます、ギューです」
微笑ましい光景、しかし、それはラジオでは伝わらない。
「可愛いと言うより、美人ですね、乃安さんは」
「先輩も美人ですよ」
「ポニーテールがとても良いですね。目を見てると、何だかドキドキします」
「同じこと、言いましたよ」
「私たち、やっぱり血は繋がっていなくても、姉妹なんですね」
「ですね」
おーい、見た目をまとめてくれー。そうカンペに書いて見せる。
「あっ、はい。じゃあ、次は夏樹さんを」
「可愛いですね」
「可愛いですね」
「髪がふわふわしていますね、茶色がかっていて。確か、水泳をやっていたからだとか」
「背は、陽菜先輩より高くて、私より低いくらいですね」
「夏樹さんの唇、私綺麗だと思いますけど」
「先輩もそう思いますか?」
「はい。何か触りたくなるというか……相馬君、羨ましいです」
そこまで意識したことは無かったけど、へぇ。今度よく見てみよう。
「あと、大きいですね」
「大きいですねぇ」
「そういえば、作者さんはあまり具体的に見た目言うの好きじゃないのですよねぇ。特徴だけは言うけどって感じらしいですけど」
「ふぅむ。よくわからない拘りですね」
「じゃあ、莉々さんの特徴でも」
「前回言った気がします」
「そうでしたね。でもまぁ、一応」
「相馬君が言うに、細いけど、柔らかいそうですよ」
「へぇ、莉々が聞いたら怒り出しそうです」
「目つきは悪いですけど、あれ、わざとそうしているだけで、寝顔可愛いですよ」
「あぁ、なるほど、あれわざとですか」
「というか、時々気が抜けたように普通の顔になりますよ」
「見てみたいですね」
「相馬先輩の前では絶対見られません、と言いたいところですが、むしろそっちの方が見られますよ」
「なるほど、今度よく観察してみます」
「えぇ、そうしてみてください。一見の価値ありです」
「乃安さんルートでは結構でれてましたもんね」
「むむっ、もしや、相馬先輩が綺麗な髪が好きな理由って……ふっ、Q.E.D.証明完了です!」
「なるほど、莉々さん、髪、綺麗な黒髪ですからね」
絶対に反応しないぞ。頑張れ、僕。
「じゃあ、あとは主人公である相馬先輩ですか?」
「やりましょう」
「最近は、陽菜先輩に整えられて落ち着いた髪型してますよね」
「はい。毎日楽しく整えていますよ」
「顔立ちは優しいですよね」
「はい。目がとても」
「それくらいですか?」
「主人公にあるまじき、特徴の少なさですね」
「うーん。もっと頑張って欲しいなぁ、先輩」
「明日からアホ毛でもつけますか」
勘弁してくれ……。
「次、結城先輩」
「金髪! ちなみに地毛」
「引き締まった肉体、まさに脳筋」
「しかし胸は結構ある。私より大きくて、夏樹先輩よりは小さいです」
「実はハーフなんじゃないですかね、真城」
「実はというより、確定じゃないですか? 家庭の事情を聞くのは、あまりよろしくないという暗黙の了解が派出所にはありますけど」
「では次は、東雲先輩で」
「お姉さんって感じですよね」
「清楚をそのまま体現している感じです」
確かに。
「相馬先輩、絶対好みですよね」
「確実にそうだと思います」
「こんなものでしょうか?」
「あの人も特徴は少ないですから。それでは、桐野君を」
「頬に傷跡ありますよね。だから最初は怖い人だと思いました」
「乃安さん。見た目は重要な情報ですけど、捉われ過ぎてはいけませんよ」
「はい。あとは、坊主で、あっ、最近伸びてきましたね」
「また切るんじゃないですか? 暖かくなってきたら」
「そんな、羊みたいな……」
「あとは、入鹿さんですか」
「はい、入鹿先輩です」
「入鹿ですよーです」
「入鹿さん!? 何でここにいるのですか?」
「何となくです!」
「は、はぁ。今日もツインテールですか」
「これはトレードマークですからです。デコ丸出しツインテールです。とても記号としてわかりやすいです。こういうのは大事です。お二人もやられてみてはです」
「私は少々長さが足りませんね。乃安さん。こちらに背を向けてください」
「待ってください。私、似合いませんからー」
「陽菜の姉御! ここは抑えるです! 今です!」
「了解です」
あー、放送が無茶苦茶になってしまった。本日はここまでかな。
次の日、教室にて。
「ねぇ、相馬くん」
「うん?」
「どうして私の唇をそんなに眺めているのかな?」
「さぁ」
「相馬君、どう思いますか?」
「きれいだね、確かに」