間話 メイドとラジオの真似事をします。第五回
「はいどうもー、あまり出番が無かった夏樹だよ」
「はいどうもー、今回のヒロイン、そして今回の司会の乃安だよ」
「乃安ちゃんルート終わっちゃったね」
「ですね~。最後は我らが陽菜先輩ですよ」
「でも、こういうのって隠しルートとか必要じゃない?」
「誰のルートですか?」
「莉々ちゃん」
「残念ながら、私のルートにあった以上の可能性はありません。莉々と相馬先輩は、あれ以上の関係にはなれないのですよ」
「残念」
この組み合わせ、安定感が凄いな……。
「でもでも、私がヒロインになるなんて誰が予想していたのかな?」
「先輩よりも私ですよ。むしろ、かなりヘイトを集めたと思います」
「人気キャラ投票したいね」
「したいけど、入れてくれますかね、票」
「いやいや、よく考えてみてよ、乃安ちゃん。ルート一つだけに絞れっていうなら、入れていた人、結構いたと思うよ。だって、入れてないのに決まった後に文句言うなんて、クズの所業じゃん。それを正当に行使する権限があるのは、政治に対する投票権の無い子どもだけだよ。でもどうせ三人分全部やると言うならどれからでも変わらない、つまり入れる必要が無いと考えた人、結構いると思うんだ、つまり、ルート分岐投票の結果は、参考にならない」
「でも、人気キャラランキングに興味ない人が大多数だと思うので、入らないと思いますよ、やはり」
「そ、それは……やってみないとわからなくない?」
「そう思いたいですね。さて、そろそろ本題に移りましょう。今回は私がヒロインのルート、乃安√についての総括を行います」
「いえーい。それでさ、ぶっちゃけて聞きたいんだけど、しちゃったの?」
「しちゃったとは?」
「相馬くんと。あれ……なんて言おう……」
「あぁ、なるほど。はい。しちゃいましたね。ルートの中なら二回ほど」
「へ、へぇ。具体的な感想聞いて良い?」
「教えません。ただ、先輩、本当に私の事好きなんだなぁって思いました」
「良いねぇ。はぁ、乃安ちゃん、理想の体型だよねぇ」
「えー、夏樹先輩だって……うわぁ!」
バン! と派手な音が鳴る。僕の隣で静かに佇んでいた陽菜が突然、ガラスをぶん殴る。手加減はしてあったから割れることは無かったけど……ラジオでやっちゃ駄目だって。
「ひ、陽菜先輩だって、良いじゃないですか、可愛いのですから」
陽菜がメモ帳にさらさらと、綺麗な字で書いて、二人に見せる。
「えっ、えっと、陽菜ちゃん、何々? 『可愛い上にスタイルが良いあなた方に言われたくないです』ま、まぁ。それは一旦置いておいて、乃安ちゃん、味を感じない時、相馬君から甘さを貰っていたでしょ」
「はい」
「あれ何で感じたの?」
「なんでですかね。うーん、こればかりは、気持ちの味とかそんな風に考えていますけど」
「ふーん」
「相馬先輩は優しく受け入れてくれて、莉々は切なく求めてきて、そのイメージが反映されたと考えています」
「おぉ、何か良いね、それ。しかし……乃安ちゃんハーレムか。私も入ろうかなぁ」
「入るのは良いですけど、私の愛は結構重いですよ」
「愛の重さなら負けないよ」
「まぁ、当初は後輩とイチャイチャしまくる話を書こうと思っていたら、いつの間にか重いルートに変わっていた私に比べて、最初からわりと予定通りに進んで、愛の重い女性になった夏樹先輩、勝てる気がしませんね、はい」
「あはは」
「そもそも、莉々はあそこまで物語に関わる予定は無かったのですよ」
「ふむふむ」
「莉々が私の事を好きになるという設定、没になる予定でしたので。だって、嫌いな人は嫌いじゃないですか、そういうの」
「だね」
「でも、時代はそれらを受け入れて行かなければならない時代。莉々が私の事を好きならば、それに応えなければと乃安が思ったせいで、狂いました。というか、ストーリーの中でも言いましたけど、私、陽菜先輩の事好きでしたので。まぁ、陽菜先輩に私の奥底の部分指摘されたので、本気と思い込んでいるだけで本気では無かったのが露見してしまいましたけど」
「そんなの、誰だって抱えていることだよ。それに、その年頃なら自分がおかしいのではとか考えちゃうだろうし」
「まぁ、確かに、こういうのに風当たりが強いのは何処でも同じですけど。それよりも、私のルートのアフターの話をしましょうよ」
「だね。夏樹ルートアフターは三年生になった私たちの話になる予定だけど、乃安ちゃんルートだと……どうなるんだろう」
「案一、私の修行時代。エピローグに出てきた私の弟子が主人公になる。相馬先輩はちょくちょく登場。案二、三年生になった相馬先輩と莉々と私がイチャイチャする話。相馬先輩主人公。案三、相馬先輩大学生編、乃安はちょくちょく登場。です」
「まず、案三はアウトだよね。ヒロインが少ししかでてこないなんて」
「その代わり陽菜先輩がいっぱい出ますよ」
「それ、実質陽菜ちゃんアフターじゃん。乃安ちゃんルートバージョンの」
「私は優しい後輩なので、受け入れますよ、それくらい」
「駄目でしょ。乃安ちゃんがメインなんだから、こういうのは」
「はーい」
「でも、こうなってくると、相馬先輩の感想聞きたくなりますね」
「あー、わかるかも」
「私と夏樹先輩、これから始まる陽菜先輩ルート。どれが一番きつかったか、誰が一番愛おしくなったのか」
「というか、相馬先輩もなかなかですよね。弱みを見て、頼られる相手が自分となると全力で助けに行って、その結果、助けた相手がものすごく愛おしくなるって」
「相馬くん、まともな恋ができなさそう」
随分な言いようだな、おい。
「中学時代の相馬先輩、莉々の事好きだったのですかね?」
「あっ、それ気になるかも」
この二人、安定感は凄いけど、内容完全にガールズトーク的な奴にずれて行っていないか?
「もしかして莉々も……」
「ありえるかも」
陽菜から受け取ったスケッチブックに話題を変えるよう指示を書く。心臓に悪い話題はそこまでだ。見せると、乃安がしょうがないなぁと言う顔で頷いた。
「そういえば、乃安ちゃんゲーム得意なんだ」
「はい、銃を使うゲームとかかなり」
「へぇ」
「結城先輩に勧められて始めたのですけど。これが楽しいのですよ」
「と、言いますのは?」
「気づいていない相手の横からショットガンで頭吹っ飛ばしたりとか、敵を倒した瞬間になんか、ぶわっと気持ちよくなるんですよね」
「ふむふむ」
「それが癖になってしまいまして。まぁ、言ってしまえば、アパート引き払わなかった理由ってそこにあるのですよね。相馬先輩の家でというか、陽菜先輩の目の前ではやりづらいのですよ」
「なるほどねぇ。一応仕事をする場所でもあるからねぇ」
「はい。それに、もし、いえ、相馬先輩はやったことあったみたいですけど、陽菜先輩がはまってしまったら、負けず嫌いな人なので、多分徹夜で勝つまでやると思います」
「目に浮かぶかも、それ」
「それじゃあ、最後に莉々ちゃんについて紹介していこうか」
「ですね。君島莉々。コンピューター関係はものすごく強くて、小学生の頃にはゲームを作れてしまうくらいにはスキルが上達していた。ちなみに、中学生の頃は学校のパソコンやいじめっ子のスマホにウイルスを送り込んでいたらしいです。ムカついたら」
「うわー。ん? 相馬君のスマホには?」
「相馬先輩は高校生になってから持ったので」
「あー、はい」
「流石に、高校生になった今はやっていないそうですけど。平和だからと」
「それはよかったよ」
「見た目は、痩せてはいるけど、別にがりがりと言うほどでもない、しかし本人は気にしているので、あまり言わないであげてください。黒くて長い髪を結ぶ事無く下ろしていて、休日でも基本制服。洗濯に出している時は中学のを着る。冬でもコートは着ない。雨でも傘はささないという特徴ですかね」
「へぇ」
「特技は女子のカップ数を見抜く」
「いらん特技だ」
「私と夏樹先輩はもう被害を受けましたよ」
「だったね。よし、ここは陽菜ちゃんのを当てるしか……」
「A寄りのBです」
「ほう……あっ、やば」
暴れ出しそうな陽菜を慌てて抑え込んだ。
「では、終わります」
「乃安ちゃん?」
「せめてルートの最後くらいは、陽菜先輩をからかってみたかったので」
「からかいになってないよ。では、布良夏樹と」
「朝比奈乃安でした」