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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 夏
16/186

第十五話 メイドとマラソン大会に挑みます。

 その日は訪れた。全校対抗マラソン大会。学校をスタート地点とし、住宅街を走り抜け、アップダウンの激しい道を行き、長い下り坂から最後の平坦な道をラストスパートというコースだ。五キロあるらしい。


「陽菜ちゃん、その、ね、置いていかないでくれるとありがたいなぁと思うんだ。うん、そう思う」

「申し訳ありません。練習を見る限りそれはあまりにも非効率かと」

「そこは友達という事で」

「勝負事に情けは持ち込みません」

「そんなぁ~」


 スタート地点、今か今かと待ち望んでいる者たちとの間ではすでに戦いは始まっている。一緒に走ろうというもの、賭けを申し込むもの、精神を統一するもの様々だ。

 布良さんの誘いをあっさりと断り、こちらへときた陽菜は僕を見上げる。


「相馬君は賭けとか申し込まないのですか?」

「興味ないかな」

「そういうものですか」

「そういうものだね」

「相馬君らしいですね」

「そうか?」

「はい、賭けごとに手を染めないのは良いことだと思いますよ」

「やらないじゃなくてできないのだけどな、勝てないから。ことごとく運に見放される人間だからな」


 二分の一の運ゲーはまず確実に外れを引く。


「そうですか。残念です」

「何か賭けたかったのか?」

「はい。少しだけやってみたいと思っただけですけど」


 陽菜は最近積極的だ。それに意地の悪い賭けは申し込んでこないだろう。


「良いよ。やってみるか」


 そういうと陽菜はこちらを見上げて思案顔、と言いたいところだが、特になにも浮かんでいなかった。


「ではそうですね。私の言う事を一つだけ聞いてもらっても良いですか?」

「了解、それなら僕も同じ条件で」


 陽菜のお願いというのがものすごく気になる。僕は何をお願いしようかな。

ふと、布良さんがこちらを見てニヤニヤしているのが見えた。全くあの人は……。

僕らをどうしたいのだろうか。


さて、そろそろか。体は温まっている。 一年生は後ろの方からスタートというルールだが桐野などの運動部は先輩たちに連れていかれて前の方にいる。

しかしこの距離でピストルの音とか聞こえるのか?そんなことを考えていたら突然前の方の集団が動き出した。


「相馬君、わかっていますね?」

「あいよ」


 どうやらスタートのようだ。少し出遅れたが慌てずにスタートする。五キロの距離だ、最初から飛ばすわけにはいかない。とりあえず陽菜の横に並んで走る、途中で桐野に追いつければ良い。布良さんは頑張れ。

 スタート直後の団子状態、かなり走りづらい。しかしそれも長くは続かず、だんだんばらけてくる。いつの間にか僕と陽菜は一年生の先頭、二年生の少し後ろの位置にいた。


「相馬君、今更ですけど賭け申し込んで不愉快ではありませんでした?」

「全然。布良さんの入れ知恵?」

「まぁ、そうですね。一緒に走らない条件として」

「ちなみに何で断ったの?」

「本当は相馬君と勝負しようかと思ってたのですよ、賭けとか無しで。そこに賭けの要素が布良さんとの取引で生まれてしまっただけです。さて、そろそろペース上げますね」


 そう言って陽菜はペースを上げる。

 全く、このくそ暑い季節にこんな企画考えたの誰だよ、走るのがとてもだるい。陽菜のお願いというのもどんな事お願いされるのかもとても興味がある。それに僕も陽菜に何をお願いしようか全く決まってない。けどだ、それでもなんでだろう。負けたくないというか負けたらかっこ悪いというか、さっきまでの僕はだるいし布良さんの差し金だしなぁ、とか思っていたけど純粋に陽菜からの挑戦の言葉を聞いてしまった。


「やるしかないよな」


 ペースを上げる。すでに歩き始めている二年生を次々と追い抜く。

 陽菜はすでに結構先に行っているが、まだ追いつける範囲だ。毎朝無駄にダッシュしておいて良かった。コースのまだ半分も行ってはいないから慌てるような時間でもない。息を吸う事より吐くことを意識する。何お願いしてやろうかな。髪を触る権利は手に入れたからな。どうしよう、悩む。

 それよりも陽菜のお願いが気になる。あ~気になる。けど負けるのは何かが違う。

 そうこうしているうちに陽菜との距離が近づいてきた。


「よう、陽菜」

「相馬君ですか、まだ喋れるとは大したものですね」

「お互い様だろ」

「そうですね、それで。追い抜こうとせずに話しかけてきたのは何か目的でも?」


 さすが陽菜、慧眼である。


「陽菜が何お願いするか気になってな。お互い教え合った方が本気出しやすいだろうと」

「なるほど、確かに私も相馬君に何をお願いされるか気になって仕方ありませんでした。ペースも上げきれなかったです」

「だろ、というわけでだ。僕が勝ったら陽菜に膝枕をお願いする権利を所望する」

「そんなの別に、お願いされたらいつでもしますのに」

「いや、それは何か違う。そんな安売りして欲しくない」

「わかりました。では私が勝ったら、相馬君の手料理を食べさせてください。文字通り食べさせてください」

「文字通りというのは?」

「私が昼休みにやっていることです」

「あれか」


 料理か、できるから問題は無い。味に関しては陽菜のには及ばないが。


「お願いしてくれれば作るのに」

「普段の私の立場では頼みにくいので」


 立場を重視するのは変わらないなぁ。

 会話は途切れお互い走るのに集中する。

 横に並び、ペースを落とさず走り続ける。どれくらい走ったのだろう。今僕らはどこの集団を走っているのだろう。

 疲れ果ててよろよろと走る人が目立ち始めてきた。


「どうした、陽菜?表情が、乱れてきているぞ」

「そういう、相馬君、も、息が、乱れてきていますよ」


 陽菜もしぶとい、まだ僕の言葉に応じる体力があるのか。

 体育着も汗を吸い込んでべたついてくる、話す余裕も無くなってきた。

 陽菜はぴたりと横について下がらないし前にも出ない。僕を風よけにでもすれば楽になるだろうに。僕がやっても大して意味のない作戦だが陽菜にとっては効果的な作戦だ。

 そこまで考えていないのかそれがフェアではないという考えなのか。多分後者だろう、純粋に体力勝負がしたいのかもしれない。

 汗で視界がにじんできた、そろそろ歩きたくなってきたぞ。それでも足を前に出す。途中の給水ポイントは逃さない。

 そろそろ中盤を超えて多分もうすぐ長い下り坂が見えてくるころだろう。誰だよこのコースにしようとか言ったやつ。この上り坂とか殺意がわいてくるぞ。

 その時、陽菜が立ち止まった。


「陽菜?」

「相馬君、あれ」


 陽菜が指さす方、そこには桐野が座っている。


「よう、御両人。俺はもうだめだ、先に行け」

「足か?」

「あぁ、足つった」


 何だ、たいしたことは無い。


「桐野君、ちゃんと伸ばしましたか?」

「おう、だからまぁ、走れば痛いけど少し休んでまた歩くよ。ペース乱して悪かったな。ほら行け」


 僕は桐野に手を差し出した。


「馬鹿なこと言ってんな、行くぞ」

「おいおい、お前らを巻き込む気はねぇぞ」

「良いから立て、陽菜は先行っていいぞ」

「先生呼んできましょうか?」

「それだけは勘弁してくれ、俺のわがままを許して置いて行ってくれた先輩たちの思いを踏みにじることになってしまう」


 青春してるなぁ。


「仕方ありません。私は右を支えます。相馬君は左を」

「了解した」

 












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