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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
親愛なる後輩へ
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間話 先輩メイド達の一日。

 「ふわ~、あれ、先輩方は大学ですか?」

「おう、乃安。って、お前今起きたのか……」

「はい、今日は何も無い、珍しい全休の日なので」

「そうかそうか。それでこの時間までパジャマなのか」


 時刻は朝の八時。お寝坊さんしちゃったなとは思うけど。休日だし、良いよね?


「よし、リラ。乃安の着替えを用意してやれ」

「……なるほど、了解です」

「それじゃ、乃安。悪く思うなよ」


 そう言うと、結城先輩は私を担ぎ上げ走り出す。東雲先輩は私の部屋から適当な服を持ってくるとその後ろから付いてきた。


「乃安、車の中で着替えろ。行くぞリラ」

「はい、今日もお願いしますね」

「えっ、あの、先輩方、私はどうなるのですか?」

「あぁ? 決まっているだろ、大学に行くんだよ、だ、い、が、く」

「えっ、えぇー!」

「安心しろ、案外出席確認は適当だから、バレない」

「ばれたら?」

「摘まみ出されて終わり」


 走る車の中、もう私に逃げ場は無い。あっという間の展開に、私の頭はついて行かなかった。


「先輩方って、学部は」

「あたしは教育学部。リラは文学部だ。学年は違うけど、まぁ、興味のある方に付いてきな」 

「うぅ、せめてヘアゴムくらい持ってこさせてくださいよ~ お下げなんて私には似合いません」 


 顔洗って寝癖を整えて、それしかしていない私。着替えはしたものの……。


「あっ、先輩、私の下着!」

「えっ? あ~ もしかして乃安さん、つけないで寝る派ですか?」

「はい」

「それはすいません。真城先輩、どこかありますかね?」

「お前、その大きさでキツイとか思いながら寝てるのか」

「なんか、最近合わなくて」


 しかしながらこの時間に開いている店があるはずもなく、車は走り続ける。


「コンビニとかで売ってたっけ?」

「残念ながら」

「今から戻ると間に合わないしなー。仕方ない。乃安、えっと……トランクに、さらしあるだろ、それを巻け。それで今日は我慢しろ」

「……はい」


 というわけで、人生初の体験。なんだかな~ と思いながら言われた通りにする。

 そうこうしている間に、車はものすごく大きくて歴史のありそうな建物の中に入って行った。


「よし、着いたな。行くぞ。どっちについて行く?」

「えっと、じゃあ、とりあえず、東雲先輩で」

「はい、わかりました。こちらへどうぞ、乃安さん」


 東雲先輩が柔らかい微笑みを浮かべ、ニヤリと笑った結城先輩が手を上げて去って行く。


「まぁ、今日は私は午前中に終わるので。真城先輩は午後に一つ入ってますね。今日はゼミも無いらしいですから、暇はあまりしなくて済みますよ」

「はぁ」


 大学の仕組みがいまいちわからない私にとって、あちこちを歩く学生たちは興味の対象であり、将来の可能性の一つと考えると、他人事で無い。


「先輩はどうして文学部に?」

「興味本位ですかね? 私は将来を真面目に考える事はしないので」

「と言いますのは?」

「筏で川を下るように、目の前の波だけを精一杯超えていく。それが私の生き方です。さぁ、始まりますよ。教授が来ました」


 そうして、本当に名前を呼びあげるだけの適当な点呼。同じ人が二回くらい返事しているのも見た。教授にとってはどうでも良いのかもしれない。


「それじゃあ、来週までにレポートまとめて来てください。提出方法はメールで指示します」


 そんな一言共に教授の人はさっさと荷物を纏めて出て行った。


「はい、乃安さん。私は二コマ空いているので、食堂行きませんか?」

「あっ、はい」


 本当に気づかれていないようで、私は東雲さんに付いて食堂で食券を、とりあえずカレーを選んだ。


「私はハヤシライスが好きですけど、カレーも良いですよ」

「はぁ」

「ちなみに真城先輩は辛みそラーメンを選んでいます」

「辛いのですか?」

「うふふ、どうでしょう」


 からかい上手な先輩だ。そんな思わせぶりな態度は、どちらの可能性も思わせた。

 ふわりとした雰囲気のこの先輩に、確かに本はよく似合う。文学を勉強していると言われても、違和感は全くない。


「おう、食ってるか?」

「真城先輩。お疲れ様です。随分早いですね」

「教授の野郎が三十分来なかったから休講だ」

「そんなルールがあるのですか?」

「ある」


 適当だ。適当過ぎる。いや、でも、これで良いのだろうか。


「勉強したい奴だけがすれば良い。この歳になればそうなるのさ。まぁ、金の無い奴に勉強する資格はないとも言われる環境でもある」


 そうして、私たちよりも遅く食べ始めたはずの結城先輩は、私たちと同時に食べ終え。


「行くぞ」


 そうして午後は結城先輩について行く。


「真城先輩、教育実習とか行くのですか?」

「あぁ。メイド長が出資している学校あるだろ。将来的にそこで働くことになるはずだ」

「あぁ、あの学校ですか」


 私も、陽菜先輩も卒業したあの学校。


「恩返しはしなきゃな」

「恩返しですか?」

「親に死なれたあたしを拾ったんだよ。荒れ狂っていた馬鹿だったあたしを」


 授業が始まり、私たちの会話は途切れる。

 将来をそれなりに考えている先輩方。そう、先輩達もいずれ、派出所を離れる。私は、離れるのだろうか。それとも。





 


 「どうして私を連れて行ってくれたのですか?」

「ぐうたらしていたから、ちょっとした遊びだ」

「はぁ」

「何か始めてみたらどうだ、乃安」


 結城先輩はそう言って、ちらりとこちらを振り向いてニヤリと笑う。東雲先輩はそんな結城先輩を見てクスクスと笑った。


「何だよ、リラ」

「いえいえ。そんな遠回しに言わずとも、採用試験、申し込めと言えば良いじゃないですか」

「んな! わかってるよ、そんな事」


 先輩方はやっぱり優しい。陽菜先輩が去っても寂しく無いのは、この二人のおかげだ。でも、やっぱり少し無気力だったかもしれない。


「わかりました、先輩。頑張ってみます」

 


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