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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
一年 夏
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第十三話 メイドとカラオケに行きます。

 それはお昼休みの時間、唐突に布良さんは何かを思いついたかのように立ち上がり、僕らに向けてこう言った。


「三人とも、私の高校デビュー第二弾に付き合って!」

「高校デビュー第二弾?」

「そう、今日の放課後、カラオケ!」


 六月も中旬、見事に我が校の野球部は地区予選一回戦で敗退。一年生でまだ試合にも出ていないのに抜け殻のようになっている桐野もこの話には反応する。


「カラオケ?俺も行く行く」

「うん、桐野君も行こう。陽菜ちゃんも来るなら相馬君も来るよね?」

「うん。行こう」


 カラオケも苦手だけど。雰囲気がなぁ。


「ちなみに第一弾って何やったんだ?」

「ゲームセンターだよぉ」

「へー、相馬と朝野さんと?」

「陽菜ちゃんと日暮君と」

「両手に花ってか?爆発しろ!」

「ちなみに夏樹さんの高校デビューって他には何があるのですか?」

「そうだねぇ、思いついたらやっていく感じだから特には決まってないかな。ゲームセンターは入ったことなかったからずっと行きたいとは思っていたけど」


 布良さんの家って厳しいのだろうか。


「カラオケ行くのかな?この入間入鹿ちゃんも連れて行って欲しいぞ」

「入鹿ちゃんも行く?ならば行こう」

「行きましょ行きましょ、夏樹の姉御。と言いたいところだけどごめーん。今来たメールが私を邪魔したのだ」


 夏樹の姉御?


「入鹿さんは夏樹さんのことを姉のような存在として慕っているそうです」

「なるほど」

「相馬君、次はこちらをどうぞ」


 箸でつまんだ煮豆を器用に差し出す。


「陽菜、この食べ方はいつまで続けるつもりだ?」

「そうですね、相馬君が嫌でなければしばらくは続けようかと。何というか、楽しいです」


 陽菜が楽しいというのであれば断る理由は無い。陽菜にも学校生活を楽しんでほしいという願望があった。それが叶っているのだから。


「楽しいなら楽しそうな顔すれば良いのに」


そう言うと、少しだけ顔を伏せる陽菜。


「そうですね」


 それだけ言ってわざわざ朝から手作りで作っていたハンバーグを差し出した。

 だんだん距離は近くなっている気がする。それでも僕はまだ陽菜が今どう思っているのかを把握することはできていない。ちゃんと感情が備わっている、心があるのに僕にはまだそれを読み取ることはできない。


 放課後になり、みんなで連れ立って移動する。よくよく考えれば四人でどこかに移動するのは初めてだ。


「陽菜は歌えるの?」

「はい、ある程度は」

「ある程度といと?」

「そうですね、80点後半から90点前半程度を安定して取れる程度ですね」

「へぇ、朝野さんってスゲーな、布良さんは?」

「うーん、採点したこと無いからわからないや」


 カラオケか、最後に行ったのはいつだったかな、思い出せない。


「相馬君、不安でしたら私に回していただいても構いませんよ」

「困ったらそうする」

「デュエットも行けますのでご要望ください」

「頼りにしています」


 カラオケにて、とりあえずフリータイムにしようという話になった。平日が安いことに布良さんは驚いていた。

 そして歌った、布良さんは歌った、それはもう楽しそうに歌った。しかしここで問題が発生した。

 まぁ、仕方ないと思うよ、自分の歌を客観的に分析する機会なんてカラオケで点数化するくらいしか無いし。それをやったこと無いというのもカラオケの楽しみ方としては普通の部類だろう。


「夏樹さん、そうではありません。音をよく聞いてください」


 問題なのは陽菜が鬼教官になってしまったのだ。


「はい、陽菜先生」

「相馬君、相馬君は先ほどの曲をもう一度歌ってください。布良さん、正しい音程を聞いて覚えましょう、リズムは体で覚えてください」


 布良さんが一曲目を歌い終わった途端、陽菜は突然訓練すると言い出した。

 酷かったのは確かにそうだが、まぁ、音痴は治るというしこれで良いのかな。


「良いですね、相馬君。桐野君も是非とも先ほどの歌をもう一度」

「オッケー、任せろ」

「布良さん、これが終わったら一緒に歌ってみましょう、私がリードします」

意外なのは桐野が上手いという事だ。

「正しい音程を聞いたら正しい音程に合わせて歌う事です。よく聞いてください」

「うん、頑張るよ陽菜先生」


 布良さん、熱心だなぁ。

 曲が始まる。陽菜に合わせて布良さんもゆっくりと歌い始める。とりあえず簡単そうという事で僕がさっきまで歌っていた曲を布良さんは選んだ。最初に歌った時とは全く違う。別人のようだ。

 えっ、こんなに劇的に変わるものなの。歌い終わり、布良さんは一息つく。


「こんなに変わるものなのか?朝野さん途中から歌ってなかったよな」


 桐野も驚いている。


「はい、予想以上に物覚えが良くて。途中からリードはいらないだろうと判断しました」

「というか陽菜、本当に歌上手なんだ」

「疑っていたのですか?」

「いやだって、僕と桐野ばかりに歌わせるからさ」

「それはですね。実はお二人が歌う曲、私知りませんでしたので。布良さんと一緒に覚えていました」

「なぁ、相馬。俺らの好きな曲って古いのだとよ」

「いや、古くても有名な曲もあるだろ」

「相馬、それはフォローになっていないぞ、つまり俺らの歌う曲は古くてマイナーという事じゃねぇか」


 確かに。


「ふぅ、私もちょっと全力で歌いたい気分になってきました。一曲失礼します」


 そう言って陽菜が入れた曲。えっ、なにこれ。

 シューベルト作曲 魔王。

 見事な発音ですらすらと歌い上げるその様子、全く言葉の意味がわからないが楽しいのだろうなというのがわかる。


「ふぅ、結構行きましたね」


 点数は95点。


「朝野さんってこういう曲好きなのか?」

「僕に聞かずに陽菜に聞けばいいじゃねぇか」

「いや、何となく聞きづらくて」

「夏樹さんも覚えます?この曲」

「う~ん、私は良いかな」

「相馬君は?」

「そもそも何語かわからない曲だからなぁ」

「ドイツ語ですよ」

「へぇ」

「おかしいですね、これをかっこよく歌い上げるとカラオケは盛り上がると本で読んだことがあるのですが」


 どんな本だよそれ。でもまぁ、


「もう少し研究が必要なようです」


 また来ようと思っているようだし、そうだな。僕も最近の曲、少しは聞いてみよう。


 家に帰ると陽菜はすぐにメイド服に着替えて夕飯の準備を始める。

 何となく陽菜と話したくなり僕もついていく。今日はもう遅い、夕方の運動はお休みにしよう。


「陽菜ってゲームが上手かったり歌も上手かったり勉強ができたり、掃除や料理ができたり。いったい今までどういう事してきたの?」


 ずっと気になっていたこと。様々なことができる陽菜、どれも人並みより一段階上程度にはできている。

 気になるのも当然のことだろう。


「そうですね……。メイド長の方針です。何でもできるようにしろ、人並み以上にできるようにしろと。人並みでは駄目だと。人に奉仕する立場なら人並みにしかできないのはできないのと一緒だと。だから私たちは訓練されました、炊事洗濯掃除から高等学校教育、さらに大学で教えられるような専門科目の基礎程度のもの。さらに何故かゲームや歌などの遊びの技能、そして護身術。その他諸々訓練しました」


 会話をしながらも次々と野菜やら肉やらを切っていく。


「メイド長は恐ろしい人です。しかし私はそんなメイド長に育てられました」


 切った材料を火にかけてあった鍋に入れていく。


「育てられた恩はあります、私はメイド長に言われた通りに生きてきました。幸い容姿も良く、言われたことを言われた通りにできる能力もありました。メイド長の期待には応えられたでしょう」


 鍋に水を入れ蓋をする。そして陽菜は僕と向き合う。


「今日はカレーにします。ご主人様は先にお風呂に入ってきてください」

「うん、分かった」


 陽菜の過去を垣間見た、それでも僕は陽菜を知ったと言えない。そんなことを言うのは、あまりに傲慢なことだから








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