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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
大切な親友と。
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夏樹√第十二話 親友が心配です。

 「荷物良し、笑顔良し、私良し、いってきます」


 そう言って私は家を出る。マンションの上の方の階から見える朝の景色、思い切り息を吸って、そして気持ちを新鮮なものにする。

 朝は苦手だけど、好きだ。一人で歩きながら色んな事を考える。でもな、最近相馬くんの事ばかりだ。寂しいと思う。段々と、一人で歩けるようになっていくその様子が。誰かが横で支えないと駄目だった彼が、どんどん強くなっていく。

 駄目な女だな、私は。依存して欲しい、なんて思いながらそれを心配して、今度は自立を喜びながら、それを寂しく思う。クズだな、私。

 私はどうしたいのだろう、支えてあげたいと思っていたのは確かなのに。私の恋は偽物だから、せめてそうしたいと思っていたのに。

 あぁ、駄目だ。せっかく新鮮な気持ちにしたのにどうしてまたどんよりさせちゃうのかな。

 切り替えよう。私は、頼れる委員長なんだから。大丈夫。

 歩く足を速める。今日から新学期にして、二年生最後の日々。三年生になったら私はどうなるのだろう。どんな道を選ぶのだろう。

 どんどん歩いて行く、電車に乗って、そして降りて、それから学校までの道を、何も考える暇が起きないように歩いて行く。


「夏樹さん?」


 あっ……。

 聞き慣れた声。それが聞こえるという事は決まっている。でも、私の心情とは関わらず、脳みそは切り替えが早くて、すぐに顔は微笑み、声は明るく、いつもの元気な布良夏樹が出来上がる。


「やっほー、陽菜ちゃん。おはよう」

「おはようございます」


 ほら、完璧。


「相馬くんも、おはよう」

「うん、おはよう」


 私はにっこりと笑う。夏樹印の明るい笑顔。相馬くん公認の太陽のような笑顔。


「乃安ちゃんにはむぎゅーってしてあげる」


 こうやって明るく振舞っていれば、私は良いんだ。みんなが仲良くしている、それが私の望みなんだから。

 しかし、乃安ちゃん良い匂いだなぁ、陽菜ちゃんと違う趣がある。陽菜ちゃんは爽やかな甘さだけど、乃安ちゃんは女の子の甘さというのかな? そんな感じ。


「夏樹さん、目の下、隈が酷いですよ」

「えっ? あっ、あはは、昨日夜更かししちゃってね」


 嘘だ。寝ていない。あのお出かけの日を境に、寝ていない。かれこれ三日になる。眠れなくなってしまった。眠気は無い、ただ、頭がだるいだけ。

 昨日はどうにか寝ようとしたのに、どうしてもダメだった。

 ずっと眼が冴えていた。

 私はどうしてしまったのだろう。

 あの日、相馬くんを見送って、家に帰ってそして眠ろうと思ったのに、どうしてかそのまま朝を迎えてしまったんだ。





 「相馬君。昼休みですよ」

「あぁ、うん。了解、陽菜」

「先輩、お邪魔しています」


 最近、乃安と君島さんも昼休み、教室に来るようになった。女性率が上がるが、賑やかなのは悪いことでは無いと思うから、良いと思う。


「顔色、大丈夫?」


 夏樹を一目ちらりと見た君島さんの最初の一言はそれだった。


「えっ? あはは、大丈夫だよ」

「ふぅん」


 興味を失ったように、そのまま君島さんは弁当を食べ始めた。


「あんた、慣れてるんだね、嘘に」


 そう、ぼそりと呟いたのが聞こえた。

 そして何故か、僕は図書室に拉致された。


「あんた、大丈夫なの? あの胸がデカい先輩」

「それだけで誰指しているかわかるから良いけど、どうなの? それ」

「莉々の目測ではFはあるのでは、ってそれは置いておいて、あれはね、病んでると思うけど」


 そうして、君島さんは僕の胸倉を掴み壁に押し付ける。ぐっと顔を近づけてくる、その眼光は鋭く僕を射抜いた。その細い腕から想像がつかないほどの強い力。


「どうにかしなさいよ、気づいていないにしても、気づかないふりにしても、今あんたは知った。もう逃げらんないでしょ」

「夏樹に対して、どうしてそこまで……」

「そんなの、あんたが困りながら奮闘するところを遠くから眺めて笑うために決まっているじゃん」


 と言うが、君島さんの根は優しい事を僕は知っている。放っておけないが自分の手には負えない、そう言いたいのだろう。

 さて……。


「ちなみに乃安は?」

「莉々の目測ではD、って、真面目な話していたと思うのだけど」

「了解了解。ん、頑張ってみる」

「あのさぁ、せっかくシリアスな雰囲気作ったのに」

「僕らが深刻になってどうするよ」


 そう言うと、思いっきり顔をしかめられる。


「……なにさ」

「いや、言うのも野暮だね、これは。喜ばしい? いや、なんで莉々があんたの事で喜ばないといけないのさ」


 胸倉を掴んでいた腕を下ろして僕を解放する。


「ふん」


 行けという意味だろう。だから僕は立ち去る。とはいえど、どうしたものかなぁ。





 生徒会は入学式や新入生歓迎会に何をするか、そんな話し合いをしている。


「相馬、お前はどう思う」

「会長のしたいようにすれば良いさ」

「ではそうさせてもらおう」


 会長はニヤリと笑うとノートパソコンに思いつくままに何かを書き始める。


「ご意見番は?」

「特に言う事は無いかなぁ。私としては文化部に少し頑張って欲しいなぁってところ。毎年運動部が強すぎるんだよねぇ」

「ふん、うちの学校が運動部を甘やかしすぎる。知っているか? 地方大会に行った運動部は学年だよりで紹介されているにも関わらず、文芸部、新聞部は全く名前も出てこない。一応学年主任に問い合わせたところ、把握すらしていなかった、そうか、この部分も俺は変えなければならないのか、全く、一年は短いな」


 どこまでも生き急いでいるようにも見える我らが会長。


「いっそ生徒会広報誌でやってしまおうか。うむ、それが良いな。先生方には盛大に恥をかいてもらおう」


 必要とあらばあっさり敵も作るのか。


「ふははははは。新年から素晴らしいひらめきじゃないか」


 そうして今日はお開きになった。新学期最初の生徒会がこれで良いのだろうか。いや、必要な話し合いは冬休み最後の方に大分やったから良いけど。




 駅で、僕は電車の前で固まる。夏樹は向こう側で電車で待っている、このまま帰って良いのだろうか。


「相馬君?」


 陽菜が訝し気に僕を見る。


「ごめん、陽菜。乃安にも謝っておいて。ちょっと行ってくる」

「……はい。お弁当、明日ちゃんと持って行きますから、替えの下着はいつも通り、鞄の奥に入っていますよ。あとは、相馬君にお任せします」


 ぺこりと頭を下げる陽菜に見送られて僕は、家とは逆方向の電車、夏樹が乗る電車を、夏樹の隣で待つ。


「えっ? えぇ! 相馬くん、何しているの? 電車行っちゃうよ」

「夏樹に会いたくなってさ」

「嬉しいけど、さっき別れたばかりじゃん」

「そんなのどうでも良いよ。それよりもさ、夏樹、正直な話を聞かせてよ。どうしてそんなに顔色が悪いのか、寝れてないの?」


 隣に立つ夏樹は下を向いて沈黙する。


「……三日間、寝ていません、眠れていません」


 三日、僕と出かけた日からか。


「どうしてって言っても、自分じゃわからないよな、そんなの」

「うん。全然わからない」


 やがて、電車が僕らの前に止まって、扉が開いて、人を吐き出す。すっからかんになった電車にまた新しく人が乗り込む。しばらくして動き出す。

 ボックス席に向かい合わせに座る夏樹の顔色は相変わらず悪い。不眠症、と言うのだろうか。医者に行けというのは簡単だけど、でも。

 らしくもなく、こんな考えなしに動き出してしまった自分に呆れる。慣れないことはするもんじゃないなとは思うけど、でも。


「夏樹、今日は一緒にいるよ。眠れない夜なんて暇でしょうがないでしょ」

「あはは、そうだね。嬉しい提案だね。動画見るのも飽きちゃうし」


 精々できる事なんてそれくらいなのかもしれない。間違っているのか、今の僕にはわからないのだから。






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