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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
大切な親友と。
133/186

夏樹√第十話 親友とのお出かけ。

 それはまぁ、ただ単純なことで、駅に夏樹が現れた瞬間、僕は驚いた。


「お待たせ」

「待ったというほど待ってないよ」

「それはまた、随分と新しい今来たところだよだね」


 そう言ってニコッと笑う夏樹があまりに魅力的だった。長いスカートがふわりと舞う、その様子が素直に美しいと感じた。

 僕が驚いたこと、それは、夏樹がいつも以上に服装がおしゃれで、魅力的に仕上がっている事だった。


「どうかした? 早く行こっ」

「うん」


 ちらりと時計を見る。よし、大丈夫だ。まだ時間はある。


「朝食は何が良いかなー」

「お任せするよ」

「うん、昼食は任せた」

「了解」


 二人で歩く朝の町は何だか広く感じた。道行く人はみんな眠そうで、それでも足取りはしっかりしていて、見上げた空は鮮やかで、澄んでいて。


「相馬くん」

「うん?」

「手、またはぐれちゃうよ」


 そんな中で異質な僕らは、笑い合った。



 しばらくすれば、町はようやく目覚め始める。そんな様子を、僕たちは窓越しに眺めていた。


「おしゃれだね」

「うん」


 穴の開いたトースト。その穴から目玉焼きの黄身が覗いていた。


「朝食限定メニューでさ、ずっと来てみたかったんだよね」


 くりぬいたトーストに卵を落として焼いたといった所か。

 しかし、良い顔で食べるな。サラダにウインナー、ホットコーヒー。こうして夏樹と二人で何か食べるのは、あの旅館以来か。


「どうかした?」

「いや」


 フルーツの盛り合わせにフォークを突きたてて一口で頬張る。


「美味い」

「でしょ、来て良かった」


 フォーク片手に笑う様子は、食べるのが余程好きなんだろうなぁと思わせる。だからまぁ、指摘するのは野暮なんだろうけど、一応言っておかなければなるまい。


「口の周り。黄身がついてるよ」

「えっ、わっ? 良いよ、自分で拭ける」

「動かない」 


 夏樹の顔を拭う。柔らかい頬が指に触れた。


「ぷはっ。もう……ありがと」

「どいたま」

「なにそれ?」

「どういたしましてって言うのも長いからね」

「へぇ。ふぅん……はい」

「なにそれ?」


 ニヤリと笑って、フォークに突きたてた林檎をこちらに差し出している。


「陽菜ちゃんにしてもらっていたじゃん? ほら」

「いや、大丈夫ですよ」

「あーん」


 夏樹はフォークを差し出したまま動く気は無いらしい。


「……あーん」

「はい、よくできました」

「なんじゃそりゃ」

「あはは、ふっ」


 夏樹は不敵に笑う。僕は林檎噛むが、それを夏樹はというと、うん? 耳栓?


「夏樹、片耳、耳栓いれっぱなしだよ」

「うーん? 何の事かなー?」


 何故誤魔化す。夏樹の行動の意図がわからない。林檎を差し出して耳栓か、どういうことだ。

 いや、しかし、あれは都市伝説じゃなかったのか? でも、そうとしか考えられない。


「……聞いたことあるんだ、林檎を噛む音が苦手な人がいるって、そのタイプ?」

「正解。よくわかったね」

「状況から考えただけだよ」


 夏樹がスポッと耳栓を取る。


「そうなんだよねぇ、林檎貰ってもアップルパイにしちゃう。本当、あの音だけが苦手なんだよー」


 そうして夏樹は手を合わせる。


「ごちそうさま」


 だから僕も合わせる。


「ごちそうさま」

「さぁ、どこに行く?」

「そうだね……じゃあ」


 夏樹が期待の目をこちらに向けて来る。そうだね、とりあえず。


「よし、ボーリングでもしようか」

「うん、行こう!」

 



 「先輩、何でこんなことしているのですか? 私たち」


 トランシーバーから返答が届く。


「こちら、ターゲットを視認。その疑問は野暮ですよ、乃安さん。私たちは相馬君を守るのです、学校に通わない場合、我々はこうして安全を守るのです。何のための隠密行動教習だったのですか?」

「はぁ」


 双眼鏡を覗く、相馬先輩と夏樹先輩の姿を見つける。

「ボーリング場に入って行きました。追いますか?」


「もちろんです」


 パルクールの要領で建物を飛び移り、ボーリング場の前に着地。陽菜先輩もすぐ隣に現れる。雪が積もっているから少し気をつけないとな。


「さて、行きましょう」

「はい」


 陽菜先輩のイヤホンには二人の会話が流れている。そして私のイヤホンにも。そしてスマホには位置が表示されている。


「正直、ストーカっぽくて苦手なんですけど、こういうの」

「私たちには、メイドとしての義務がありますから」


 ギラリと目が光る。そんな目で見られると断れるものも断れない。


「そ、そうですか。わかりました」

 




 「そぉれ!」

「おぉ、良いじゃん」


 夏樹の転がしたボールが九本のピンを倒した。


「でもそろそろ腕が限界かも」


 スコアは負けている。夏樹の妙な器用さは、残り一本も綺麗に当てて倒した。ストライクは無いものの、またスコアを重ねる。

 二つ向こうのレーンが妙に盛り上がっている。


「すごい、またストライクだ」

「あの二人、お互い譲らないぞ」


 そんな声が聞こえた、凄い人もいるものだ。


「よし、いけっ!」


 しかしボールは左に逸れて中途半端な数しか倒れない。二回目も三本ほど残る。


「うーん?」

「丁寧に投げてみよう。私より力あるんだから、きっとストライク獲れるよ」

「よし」




 「どうですか? 陽菜先輩」

「やりますね、乃安さん」


 ストライクが続く。普段はこんなに続きませんが、これは先輩の意地、腕の限界を無視して、神経を研ぎ澄ましてストライクを獲りに行く。

 乃安さんも、顔には出していないけれど大分キツイだろう。体格差を超えて、私は勝つ!


「はぁ!」


 よし、ストライク。

 投げる順番がハイペースで周って来る。乃安さんもストライク。腕の感覚がおかしい。ある程度の勢いでストライクが取れる角度に当てなければならない。そのプレッシャー。


「あっ……」


 逸れた、この角度は取れない。半分ほど倒して終わり。ここで無駄にまた投げることになるのか。

 意識を切り替えて落ち着いて投げる。けれど残り方が悪い、一本残して終わる。


「さぁ、乃安さん、止めを刺しなさい。この第十フレームストライク三回でパーフェクトゲームですよ」

「はい」


 そう言って乃安さんはにっこりと笑う。そして本当に三本ストライクを獲って来た。


「ふっ」

「乃安さん、今鼻で笑いましたね」

「そんな事ないです」

「えぇ、わかっていますよ。体格による埋めようのない体力差があることくらい」

「陽菜先輩……?」

「さて、乃安さん。そろそろ移動ですよ。相馬君たちも行くようですし」

「はい、わかりました」


 そうして、いつの間にか、どうしてか集まっていた人たちの間をすり抜けて私たちは会計に向かった。

 相馬君と夏樹さんはとても仲睦まじい、そう表現するのが妥当な気がした。

 楽しそうに手を繋いで歩く様子はとても絵になった。いつの間にか、あの二人が結婚して、私が雇われる、そんな未来を想像した。


「悪くない、ですかね」


 そしてお二人の間にお子様ができて、それを私がお世話して、きっとお二人に似てとても聡明で心優しい方になるでしょう。英才教育を施すのも……いえ、それは二人にお任せして。


「先輩先輩、どうしたのですか? ぼーっとして」

「はっ、いえ、何でもありません」

「そうは見えませんよ。何だか顔が赤いです」

「いえ、相馬君に、メイドに手を出すのもご主人様の甲斐性ですよと教えなければと思っただけです」

「何を言っているのですか? 先輩は」


 乃安さんの怪訝な顔は摘まみ上げることでやり過ごして、私は会計を手早く済ませて相馬君たちを追いかけた。







 「お昼ご飯はどうするの?」

「今から案内するよ」


 夏樹の手を引いて歩く。素直に着いてくるその目は期待で彩られていた。

 川沿いを歩いて行く、見えてきたのは一つの大きめな舟だ。


「夏樹は船酔いするタイプ?」

「全然」

「良かった。今日の昼食会場そこだから」

「おぉ、良いね!」


 船の上での昼食に夏樹は目を輝かせた。案内され、意外としっかりした和室に腰を下ろす。


「相馬くん、考えたね。さすがの私も船の上は初めてだよ」

「予約したかいがあったよ」

「うん!」


 ここでの食事は全部奢り、朝食は夏樹の奢り。それが今日の僕たちだ。

 船が動き出して、景色が流れる。その中で、穏やかな表情を浮かべて刺身の盛り合わせに箸を伸ばす。

 いつしか僕は、味よりも夏樹との時間を楽しむようになっていた。多分どこでも良かったのだろう、一緒にいる事の方が重要だったのだ。それは今までの投げやりなものとはきっと違う感情である。


「ここでもする?」

「何を?」

「お口アーン」


 僕はきっとおかしくなっていたんだ。だから僕は恥ずかしげもなくうなずいて、夏樹の差し出す鮪を一口で食べたんだ。


「にひひ」


 そんな僕を見て満足気に笑う夏樹にやり返すようにサーモンを差し出す。


「ありがと」


 それを平然と食べられ、完全にペースを握られたことを確信した。


「次、どこ行こうか」

「次は夏樹の行きたいところでしょ」

「そうだったね。じゃあね、うーんと、よし、じゃあ、今日の記念になるもの買いに行こう!」

「了解」


 船はゆっくりと進む。食べ終わった僕たちはゆったりとその景色を楽しむ。

 それはとても静かで、安らかだった。









  


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