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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
大切な親友と。
132/186

夏樹√第九話 メイドによる、親友とのお出かけのための魔改造。

 「今のままでは駄目です」


 三が日が過ぎた朝食の席。やたら本格的なおせちが出て来る期間も終わり、普通の朝食。陽菜もそれなりに行事を大事にするが、乃安は結構真面目で、クリスマスの夜にはブッシュドノエルやターキーを。さらにそのかなり前からシュトーレンなるものが出てきた。

 それはひとまず置いておいて、陽菜が今のままでは駄目ですと、朝食の席で僕を見ながら言う。


「急にどうしたのさ? 今のままでは駄目というか、僕が駄目じゃなくなる日なんて来るのかという疑問が先立つけど」

「相馬君が素敵なのは間違いありませんが、それでもいくらなんでも、髪型やら服装やらに気を使わな過ぎです。エステに行けとまでは言いませんが、このままでは女の子と二人でお出かけするにはちょっと……」

「陽菜とも乃安とも二人で出かけたと思うけど」


 乃安の方をちらりと見やる。しかし、乃安は助け舟を出す気は無いらしい。むしろ陽菜の言葉に頷いているように見えた。


「陽菜先輩、どこから手を付けます?」

「既に準備してありますよ」

 



 最後に髪を切ったのは春ごろだろうか。大分伸びた。前髪で片目を隠せる。

 今までは寝て起きてそのまま放置でいたが、乃安が来てからというもの、陽菜が櫛とドライヤーを持って、僕の髪を整えている、しかし今日、その手にはハサミが握られている。


「さて、ふむ。シャンプーからにしますか。洗面台へどうぞ」

「また本格的な……」


 さすがに美容院にあるような設備は無いが、まぁ、それでも陽菜は僕の髪を洗った。そういえばなぜ美容院では最初に髪を洗う事があるのだろう。

 しかし、気持ち良いなこれ。人に洗ってもらうのって、やべぇ、はまりそう。 


「はまったのでしたら、毎日しましょっか?」

「それは、多分ダメなやつ」

「そうですかね?」


 お願いしたら本当に毎日やるだろうなぁ、陽菜だし。

 髪を洗い、椅子に座る。髪を洗っている間に乃安が準備を整えていた。姿見に写る自分、後ろに陽菜が立つ。


「そういえば、美容院とかで最初に髪を洗うのって何だろうね?」

「癖とか、そういうのをリセットするのと、あと、少し伸びるので、落ち着いて長さを調整できるのですよ。水素結合が切れて簡単に切れるようになりますし」


 ちゃんと理由があるのか。ただのサービスだと思っていたぜ。


「相馬君のように、寝癖をシャワーで適当に直して、それでも直しきれていない人は真っ先にシャンプー行きですね。櫛で整えてドライヤーでちゃんと乾かしましょうよ。いえ、やっぱり私がやるのでしなくて良いです」

「ん?」


 唐突な陽菜の言葉を、乃安が耳元で補足してくれる。


「髪を触らせてくれるというのは信頼の証ですので。陽菜先輩は嬉しいのですよ。信用の無い人には一番触られたくない、デリケートな場所というのが髪ですので」

「へぇ」


 そうしてしばらく、鏡の中には小奇麗な僕が写っていた。


「誰だこいつ」


 それが僕の最初の感想だった。


「さて、髪も整った所で次です。乃安さん、お出かけの準備は?」

「はい、陽菜先輩の着替えも相馬先輩の着替えも準備万端、予算もあります」

「では、行きますよ」

「ちょっと待て、次は何をする気だ?」

「決まっているじゃないですか。ねぇ、乃安さん」

「はい。散々私たちの服を選んでおきながら、自分の服を選ばせない、なんてことはありませんよね?」

「あの~。というか、乃安の服をそこまで選んだ覚えはない」

「まぁ、従順なメイドのたまの反抗期に付き合っていただければと思います」


 そうして両脇から手を引かれ玄関を出て、デパートまで連行された。道行く人の目が痛かった。そりゃそうだ、地味な高校生男子が二人の可愛い女の子に手を引かれる様は、誤解を受けてもしょうがない。

 でも悪い気はしなかった。というのが正直なところだ。家族以外の誰かに服を選んでもらった経験は多くない。というか、大体父さんに選んでもらっていたし、女子目線から選んでもらうのも良いかもしれない。

 黒いズボンかジーンズ。ネルシャツかパーカー。そればかりの僕の服に少しの彩りを、とも思ったりはしたのは嘘ではない。




 「相馬君はそうですね、細身でそこまでがっしりとした印象は無いのですが、まぁ、大体の服は着こなせるのではないのでしょうか?」

「となると、こんな感じの爽やかな色合いはどうですか?」

「その色のTシャツの上にジージャンとかですか?」

「それはどちらかというと春物という印象ですね」


 陽菜と乃安が僕を眺めたり服を眺めたり、忙しそうに動いている。暇だ……。やっぱり二人とも女の子なんだな。服を選ぶの好きなのだろう、きっと。


「先輩、これはデートの予行演習とも考えてくださいね。服を選んでいる女子を退屈さを隠して、楽しそうに眺めるのも、男の甲斐性ですよ」

「顔に出てた?」

「はい、まぁ、女子が男子に気を使わないのも問題ですけどね。なので、相馬先輩にこれを試着してもらいますね」

「お、おう」


 白いTシャツにジャケット。薄めの茶色のズボン。それにマフラー。


「はい、似合いますね」

「ですね」

「僕っぽくない。何かもっと世の中に対するアンチテーゼを表明できるような服は無いの?」

「なんですかそれ?」

「背中に悪とでも書きますか?」 


 想像してみる。……なんか違うな。というか、似合わねぇ。


「これで良いです? いや、これが良いです」


 女の子と出かけるのに相応しい服は、多分これ以上の物を僕は思いつかない。どうしても無難な服とか、雑誌に載っているような服は避けちゃうから、うん。父さんが選んだものをずっと着ている。それもそろそろ古くなってきたし、今度まとめて色々選んでもらうのも良いかもしれない。

 さて、帰るか。


「お待ちください、相馬君。どちらへ行かれるつもりですか?」

「えっ、もう服も選んだし」

「何をおっしゃっているのですか? 次は下見ですよ」

「でも、夏樹の美味しいもの巡りって……」

「相馬君が一日中色々食べられるフードファイターとかでしたら構いませんけど、夏樹さんも相馬君も一般的な人ですので、何かしら遊べたりする所を把握するべきかと」


 女の子とのお出かけをここまで面倒見てくれるとは、まったく気がつかなかったぜ、そこの所。


「そうだな、確かにそうだ、そこまで考えておくべきだよな」

「はい。なので行きますよ。ちなみに、服選びもその一環ですので」


 夏樹も服選ぶのかな、って、一緒に選んだことあるじゃないか。 


「服屋の他にも、ゲームセンターやおしゃれな喫茶店、落ち着いた雰囲気の本屋さん。色々ありますよ」

「ふぅん」


 陽菜とデートした時は、水族館に行って昼飯を公園で食べてゲーセンに行って。乃安とは山に行ってアイス食って帰って来たといった所。冬はキツイし、どちらかというと二人に先導してもらった形だ。


「う、うぅ」

「先輩?」

「あぁ、乃安よ。自分の情けなさに恥じ入っているところだよ」

「は、はぁ」


 うん、学ぼう、女性をリードできる男性を目指して。

 そのためにも今は、二人に教えてもらわなければ。うん? あれ? 何で女子から習っているんだ僕は。まぁ良い。なりふりなんぞ構っていられるか。


「うん?」


 それは、ショッピングセンターに置かれている観光案内の看板だった。


「へぇ」


 なるほど、良いかもしれない。


「陽菜」

「はい?」

「これとかどうかな?」

「……良いじゃないですか? ……二人で楽しんできてください」

「でも……」

「私たちはちゃんといただきましたから」


 というわけで、早速、準備に入った。まずはそうだね、予約だ。

 しかしドキドキするな。喜んでもらえるか。それに関しては陽菜も乃安も、「大丈夫です」とやけに強く言われた。

 こういうのってわりとどこに行くか大事だと思うのだけど、そこの所どうなのだろうか、経験が少ないというのは、本当に大変だと思うけど、だからこそ手探りで頑張るのが重要なのだろうな。

 そうして、夏樹とも連絡を取り合い、日程も決まり、その日を迎えた。





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