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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
大切な親友と。
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夏樹√第八話 親友と迎える新年。 

 「これ、合流無理じゃね?」

「……だね」


 寒いはずの境内が、人の熱気で蒸し風呂と化していた。これ、どうしようか。

 少し遡ろう。今の状況を頭でまとめるために。






 「やほー」

「夏樹先輩、こっちでーす」


 初詣に僕らはやって来た。京介は地元に帰り、入間さんは「親戚の相手してくるです」とのことだ。

 つまり、家で特に用事の無い人たちの集まりという事だ。せっかくだから大きい神社に行こうと、こうして駅で待ち合わせしているのだが。


「なんでこんなに混んでいるのですかね」

「そりゃあ、私たちがこれから行く神社と、最近できた大型ショッピングモールが同じ駅なんだもん。それに向かう人たちでしょ」


 若い人の割合が妙に高い。家族連れは車で行くだろう。福袋爆買いするなら車の方が良いのは当然だ。


「……帰りに見てみる?」

「あら、珍しい。相馬くんが」

「一応、女性陣が興味あるならという話だけど」

「あはは、私は良いよ。なんだろう、恥も外聞も捨て去り、福袋の奪い合いに参戦する人に勝てる気しないし、うん」


 そんなに凄まじいものだろうか、福袋争奪戦とやらは。


「お得というワードは人を狂わせるのですよ、相馬君」


 陽菜の言葉に女子二人はうんうんと頷いた。




 奇跡的に座れた。奇跡的に。

 たまたま目の前のボックス席の人がこの駅で降りたのである。四人で座って丁度埋まる。電車が動き出す。

 これが鮨詰めという奴だろうか? ここから見る入り口前とか、うん。きついだろうなぁ。こう、端から見ているから気楽でいられるんだろうけど。


「……ん? ……陽菜」

「はい? ……あぁ、わかりました。どうぞ、お兄さん方」

「えっ? あ、あぁ、良いよ。君たち。先に座ったのだから」

「無理しないでください。足、怪我でもしているのでしょう」

「……すまないね」


 ついでにもうこのボックス席はその人の友達方にに譲ってしまう。立っていた方が降りやすいし、この方が良いだろう。


「相馬君も酷い人ですね」

「ごめん、知らない人に声かけるの苦手なもので」

「別に良いですけど」


 電車を降りて神社まで歩く。大名行列のように、ずらずらと歩く人の集団の中で僕らも同じように歩く。


「相馬くん、さっきはどうしてわかったの?」

「何が?」

「怪我しているって」

「あぁ、あれ。重心のかけ方がおかしかったからさ。多分左足。怪我の内容までわからないけど」

「へぇ、凄いね、二人とも」

「相馬君に言われるまで私も気がつきませんでしたから」

「陽菜ちゃんが凄いのは、呼ばれただけで相馬君がして欲しい事に気がついたこと。往年の夫婦みたい」

「まぁ、幼馴染ですし」


 にっこりと笑って言われた夏樹の言葉に陽菜は頬を掻く。

 出店が並び盛り上がりを見せる参道。お祭り特有の匂いが漂う。授与所には人だかりができている。それでもある程度秩序があるのは神社特有の神聖な雰囲気からだろう。

 本殿が見えてきた。五円玉は既に準備してあるけど、夏樹が言うに。


「値段なんて神様に関係ないよ。気持ちだよ、気持ち」


 夏樹らしさに溢れて説得力があった。まぁ、それでも何となく五円玉を手に取ってしまったのだけど。

 二礼二拍一礼。その作法に従い、僕は手を合わせ目を閉じる。

 手短に、僕らの後ろにはまだまだ人がいる。でもそれで良い。願ったことは簡単で難しい事。

 人が途切れ静かなスペースに陽菜と乃安はいた。一旦ここで休憩することには賛成だ。


「そうだ。陽菜、乃安。これどうぞ」


 渡された封筒に二人はきょとんと首を傾げた。


「これは?」

「お年玉」


 二人はしばし固まり、そして顔を見合わせて、僕の方を向き直る。


「どうかした?」

「う、受け取れませんよ。そんな、お気遣いなく」

「わ、私たち、給料もらっている身ですよ。陽菜先輩に至っては相馬先輩のお父様から」

「あはは、気にしなくて良いよ。僕があげたいだけだから」


 慌てる二人が面白い。たまにこうして困らせるのもありなのかもしれない。


「そういえば、夏樹は?」

「いませんね、そういえば」


 近くにいたはずの人がいない。


「夏樹に限って、そんな、ドジはしても……」

「人の流れに流されてあーれーというのは?」


 陽菜のその言葉に乃安をちらりと見る。


「先輩、あり得ると思いませんか?」


 僕は黙ってスマホを取り出す。


「どうですか?」

「反応なし」


 さて、どうするか。


「全員で捜索。見つけた時点で連絡、再びここに合流。捜索開始!」

「「かしこまりました、ご主人様」」


 声もお辞儀も一糸乱れず、僕の声に二人はそう応じた。


「……二人して何しているの?」

「職業病ですね」

「あ、あはは」


 乃安も困ったような笑顔を見せて、僕らはそれぞれの方向を向かった。




 そして今に至る。夏樹自体は拍子抜けするくらいあっさり見つかり、陽菜と乃安にも連絡はした。けれどまぁ。


「はぅ、ごめんね、相馬くん」


 夏樹が予想以上にはぐれるのだ。後ろ見るといつの間にかいなくなり、どこかに流されている。


「お兄ちゃんにもよく怒られたなぁ。だからね、みんなでお出かけする時はなるべく先導するようにしているの。そしたらはぐれるも何も無いじゃない?」

「確かに、そうだね」


 そして夏樹の荷物は、はぐれる度に増えている。今も美味しそうにソフトクリームをぺろぺろ舐めているのだ。寒くないのだろうか。


「相馬くんも食べる?」

「……食べる」


 そして手に持っていたソフトクリームを一気に、上の渦巻きを全て平らげた。


「あー、えぇぇー! 食べすぎ!」

「誰かにぶつかって難癖付けられる前に、食べてしまった方が良いだろ」

「それはそうだけどさ」


 たまにドジだけど、しっかりしていて、頼りになる時は本当に頼りになる、そんな子が、今は困ったお子様なのだ。

 だから僕は、あの時のスキーの時のように手を差し出す。


「今度ははぐれるなよ」

「……うん」


 夏樹がそこにいるのをしっかりと感じながら歩く。

 けれどまぁ、夏樹を探すためにあちこち歩き回ったために、集合場所の位置がわからなくなっている。境内のどこかである事は間違いないから、歩いていれば着くだろうとは思うけど。問題はその境内が広い事である。


「気楽に行こうか」

「? 相馬くんがそう言うなら、気楽に行こうか」


 足に籠っていた力を抜く。すると夏樹が疲れたように息を吐いた。


「相馬くん、力入れ過ぎだよ」

「えっ?」

「ほら、赤くなっている」


 手袋を外して見せられた手には、確かに痕が残っていた。


「ごめん」

「良いよ。全然。やっぱり男の子だ。それに、心配してくれているのもわかったよ」

「……そうかい」


 あまりにまっすぐに言われて、思わず顔を逸らした。

 ちらりと見れば、そんな僕を夏樹は楽しそうに眺めていた。





 「随分かかりましたね」

「ごめん」


 陽菜も乃安もちゃんと待っていた。


「いえ、それは良いのですが」


 陽菜は夏樹の手にあるたこ焼きを見やる。


「陽菜ちゃんも食べる?」

「いただきます」


 夏樹から竹串を受け取り、ポンポンポンと三個一気に食べた。


「熱いですね」


 呆然とし、空になった容器を手にプルプルと震える。


「お腹空いていたんだね、陽菜ちゃん」

「はい、とっても。私の財布ではとても足りないかと」

「わかったよー、許してー、奢るからー」

「冗談です。自分の分は自分で払います」


 半べそ気味に抱き着いてくる夏樹を、陽菜は呆れたように、それでも楽しそうに眺めていた。




 友達のお年玉というのもなんか違う気がする。かと言って、クリスマスにあげて、そこから正月にもまたというのは何と言うか、遠慮されそう、それはメイド二人に滅茶苦茶遠慮されたことでそれは証明されたし。

 その事を本人に伝えてみたら、珍しくあきれ顔をされた。


「そういうこと、人に言っちゃうんだもんなぁ、相馬くんは」

「まぁ、はい」

「何かしたいという気持ちは伝わったけどさ」

「うん」

「じゃあ、今度二人でどこか行こうよ」

「どこかって?」

「私の美味しいもの巡り、付き合ってね」

「……わかった」


 後ろをちらりと見やると、陽菜と乃安は力強くうなずいた。


   



 



 






  

 


次回、相馬魔改造。メイドスタンバイ!

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