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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
大切な親友と。
129/186

夏樹√第七話 親友と銭湯へ。

 「うわぁぁ。広い」

「ですね。これがスーパー銭湯というものですか」

「温泉とはまた風情が違いますね」


 サウナにジェットバス、普通のお風呂にとても暑いお風呂、そして水風呂。選り取り見取りだ。


「卓球もありましたね。後でやりますか」

「良いですね!」


 陽菜ちゃんと乃安ちゃん、そして私。並んで体を洗って、そして湯船に浸かる。じんわりと広がる温かみ、寒い所で冷えた体に芯から熱を与えてくれる。

 そこそこ人はいるけれど、別に狭いというわけでも無い。お風呂の種類の多さから良い感じにばらけている印象だ。


「夏樹さん、サウナとジェットバスならどちらに興味を持ちますか?」

「うーん。ジェットバスかな。あまり見ないし」

「わかりました。では行きましょう」

「うん」


 おっ、これは。水に体が。凝った部分、特に肩が、あー、これは。マッサージチェアとまた違う趣が。


「ふぅ」

「先輩、夏樹先輩がとても良い顔していますよ」

「ですね。何と言うか、いじめたくなる、そんな顔ですね」


 男性陣は何をしているのかなぁ。陽菜ちゃんが嗜虐的な笑みでこちらを見ているのは気にしない気にしない。陽菜ちゃんは力加減わかっているタイプだし、後々に禍根残さないようにしてくれるし。


「サウナとか入りたいかも」

「入りますか? 夏樹さん。何なら我慢比べをしますか」

「うん、良いよ。倒れない程度で」

「それは我慢比べとは言いませんよ。死屍累々の光景を生み出すのが我慢比べです。そして屍を超えて出て来るのが勝者!」

「待って、そんなバトルロワイヤルやりたくない!」

「冗談です」


 そう言う陽菜ちゃん、けれど、私の横にいる乃安ちゃんがぼそりと「やったことあるじゃないですか、実際」と、ぼそりと呟いた。





 あー。これはこれで。なんだろう、毒が抜けていくというべきなのかそんな感覚。

 横の陽菜ちゃんは何でか座禅を組んでいて、乃安ちゃんもそれに付き合っている。ピクリとも動かないのが凄い。

 私はサウナ備え付けのテレビを眺めている。夕方のテレビ番組、あまり見た事無いけど、意外と面白いかも。

 どれくらい時間が経っただろうか。


「陽菜ちゃん、全然動かないなぁ。乃安ちゃんも」


 ちらりと、サウナの正しい入り方を見る。長く入るのは意味が無いらしくて、十分くらいで上がるのが適切らしい。水風呂もいきなり入らずゆっくり入る。そして、高血圧や、心臓が弱い人は水風呂は入ってはいけないとか。


「へぇ」


 別にそこまできつくは無いけどなぁ。

 陽菜ちゃんも乃安ちゃんも凄い汗。そう言う私も結構だけど。


「陽菜ちゃん、乃安ちゃん」

「はい。どうかされましたか」

「長く入れば良いってものじゃないし」

「まぁ、そうですね」

「上がりましょうか」


 何となく、男子陣が外で待っている気がしたんだ。




 うぐっ、まだふらふらする。


「ほれ、飲め。とりあえず」

「あぁ、悪い」


 僕は、なぜ、サウナ我慢比べなどしてしまったのだろう。京介が強過ぎた。限界が来たことを察知して、僕は立ち上がるも力が入らず、結局京介に肩を貸してもらい出てきた。

 スポーツドリンクが美味い。あぁ、とても美味い。


「全く、自分の限界くらい把握しておけよ」

「あー、良くなってきた。冷えピタなんてよく持ってたなぁ」

「結構便利だぜ。これ。部活でよく使うんだよ」

「へぇ」


 その時、僕の丁度隣に座り込む二人。


「す、すいません。夏樹さん」

「すいません……」

「はいはい。まずは水分補給ねぇ。って、あれ、相馬くんも?」

「あ、あぁ」

「うぅ、卓球」


 陽菜が苦し気に呟くが、そんなにやりたかったのか。乃安も大分ぐったりしている。僕はそろそろマシになっては来たけど。


「ほれ、二人も冷えピタを貼れ」

「ありがとうございます……夏樹さんが意外と音を上げないのでびっくりしましたよ」

「二人とも意地になってたんだ。そんなに時間が経った気がしなかったんだけどなぁ」

「体感三十分くらいかな」


 男女ともに同じことをしていたとは。

 そうしてしばらく、陽菜と乃安も復活。卓球の道具を借りて、卓球台へ。


「じゃあ、どうする?」

「では、私は審判で」


 陽菜がそう言って椅子に座る。まだ復活しきれてないのだろう。


「じゃあ、私と相馬くんで」

「では私と桐野先輩ですね」

「おけ、それじゃ僕からサーブで……んっ!」

「良いサーブです、先輩。それ!」

「おわっ!」

「そりゃ!」


 夏樹が意外とコントロールが良い。京介の利き手と逆の方に打たれた球、どうにか返された浮き球が帰って来る。


「せいっ!」

「甘いです!」


 いつの間にか後ろに走っていた乃安が強烈なドライブ回転と共に返す。


「ん!」

「おぉ」


 夏樹、上手い。意外と。

 バックスピンが掛かった球を京介は打ち返すもそれはネットにかかる。


「いえい!」


 ハイタッチ。


「夏樹さんが、あの夏樹さんが、スポーツで活躍している……」


 陽菜が慄いていた。


「本物でしょうか。夏樹さんの皮を被った偽物……」

「違いますー、安心安全頼れる委員長夏樹ですー」


 ぷくぅと膨れながらもきっちりサーブを返す。

 ラリーが続く。


「しまった!」


 帰って来た浮き球、夏樹が振りかぶる。


「えーい!」


 綺麗にからぶる。スカッ! という音が聞こえるようなそんな空振り。


「本当ですね。本物の夏樹さんです」

「そこで判断しないでよー」


 まぁ、それでも夏樹は器用なプレイを見せて僕たちが勝った。

 京介OUT陽菜IN


「相馬先輩、頑張りましょう」

「乃安さん、良い度胸ですね。良いでしょう、かかって来なさい」


 そう意気込む陽菜の真横をボールが通り過ぎた。


「もう始まっていますよ、先輩」

「……」


 あっ……。隣の夏樹も焦っている。乃安の煽りに、陽菜の中の何かに火がついた。


「ちょっ、陽菜ちゃん、ダブルスは交互に返すんだよ」


 二対一。スピードが緩まる気配の無いラリー。しかし呼吸を乱せばすぐにアウトしそうな、そんな綱渡りのような感覚。


「あーもう! それ」

「「「あっ」」」


 夏樹のラケットに当たったはずのボールが消える。きょろきょろ辺りを見回す。無い。


「秘儀……」


 動揺しない、落ち着いた様子の声、それ共にカーンとボールが突然上からネット際に降って来る。


「飛竜落とし」

「ダサいです」

「ダサいですね」

「ダサいな」

「えっと、先輩、申し訳ありません。ダサいです」

「そんなー!」


 大方、ボールの勢いを上にそのまま逃がしたとかそんなところだろう。

 しかしこれ、ラケットの角度とかそこら辺をうまい具合に調整しないと難しいぞ。


「夏樹さん、器用ですね」

「まぁね」


 見事などや顔。

 貸与の制限時間の三十分が経ち、僕らは銭湯をあとにした。

 すっかり暗くなった帰り道。一日思いっきり遊んだな。一日座って勉強するのも有意義だけど、こういう時間も大事だろう。受験だからと根を詰めて勉強しても、それは精神に良くない、父さんもそんな事を言って、高校受験の時、僕が焦るようなことをせず、ちょくちょく遊びに連れて行ってくれた。


「父さんは焦らないの?」

「ははっ、周りが焦ってどうする。それともあれか? プレッシャーかけて欲しいか? こら相馬、そんなことしている余裕がよくあるな、勉強しなくても良いのか? 偏差値足りてないだろ」

「足りてるから。全然足りてるから、成績状況把握していないの丸わかりだぞ」

「だろ、所詮、親も外野なんだよ、受験に関しちゃ。そんな外野にごちゃごちゃ言われてもイラつくだけだろ。だから父さんはこうして、根を詰めそうな息子を焼肉に連れていくのです。お前の状況はお前がよく把握している。プレッシャーをかけるのは先生だけで十分だっての」


 なるべく普段の生活から外れないように、受験だからと特別なことをせず、それでも気晴らしに連れて行ってくれて。

 今ならそのありがたみがわかる。たまに勉強も見てくれた。英語とか理科とか社会とか。数学はさっぱりわからんとか言っていたけど、それは僕の得意科目だから全然問題ない。


「相馬くん、ぼんやりしてどうしたの?」

「あぁ、昔の事思い出してた」

「そう。そういえばさ、今度はどこ行く?」

「うーん。そういえば今日イブなんだね」

「あは、忘れてたけどそうだね」

「はい、プレゼント」

「えっ?」

「あと、渡してなかったの夏樹だから」

「あ、ありがと」


 ブレスレット。普段付けられるようになるべく地味だけど、それでも可愛い奴を選んだつもりだ。


「えへへ」


 そんなに喜ぶものかな。緩み切っている夏樹を眺めながら、僕らは家路を歩いた。


 








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