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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
大切な親友と。
125/186

間話 メイドとひな祭り。

 その日、僕と陽菜は夏樹の家の前にいた、


「本当にお呼ばれしても良かったのでしょうか」

「良いんじゃない? それよりも僕が呼ばれていることに驚いているよ」

「まぁ、それは良いじゃないですか」

 手に持ったちらし寿司。呼ばれたのだからと陽菜が頑張って準備していた。

「すいません。持たせてしまい」

「それは気にしなくてもよろしい。それよりも、呼び鈴ならそう」

「はい」


 ピンポーンと鳴らす。


「はーい」

「宅急便でーす。女の子お届けに参りました」

「はい、どうぞー」

「悪ノリは辞めてください」


 ドアがガチャリと開き、夏樹が出て来る。


「いらっしゃい。料理は色々で来ているけど。早速食べる?」

「いえ、とりあえず、ご両親は?」

「いないよ。あっ、じゃあ、雛人形見ようよ」


 夏樹に手を引かれ、陽菜は家に入っていく。僕もその後に続く。そして、案内された部屋は、夏樹のお兄さんの仏壇があった部屋だった。


「じゃじゃん! 雛人形だよ!」

「あれ、この部屋って……」


 陽菜もそれに気づいたようで、戸惑うように周りを見渡す。


「無いなら無いで広いけど、それでも何だか寂しくてね。出しちゃった」


 夏樹はにっこりと笑う。その笑顔には寂しさや哀しさ無い。ただ、吹っ切れたような笑顔だった。




 しばらくして、京介と入間さんも到着した。


「すまんな。披露できるような料理の腕前が無くてな。スーパーで買ったローストビーフで勘弁してくれ」

「入鹿も、どうかコンビニで買った揚げ鳥のセットで勘弁して欲しです」

「あはは、気にしなくても良いよ。来てくれるだけでも嬉しいから。……さて、陽菜祭り開催です!」

「待ってください、変換がおかしいです」

「ん? そうかな?」


 夏樹の狙いは何となくわかっていたけど、やっぱりか。

 昼休み、夏樹がウキウキした顔で提案してきたこと。


「今夜、私の家に来てパーティーしようよ。今日はひな祭りだし」

「どうしますか? 相馬君」

「僕は良いよ」

「良かった。昨日思いついたことだったから。じゃあ、準備しておくね」


 急な決定だったけど、集まった面子。


「陽菜祭りって。ギャグですか……」

「まぁ、良いじゃん。ほら、衣装も用意したんだよ」

「……なんですか。それ」

「和風メイド服」

「……(ゴクリ)」


 メイド服にこだわりがある陽菜、着たそうにしているけど、でも着るとは言いずらい、そんな雰囲気だ。


「よし、陽菜。着てみて」

「はい、わかりました」


 夏樹から服を受け取ると、夏樹の案内で着替えに行く。


「なんだか、凄いですね。入鹿たちも演劇で使う衣装も手に入れるのに苦労するというのに」

「まぁ、結構値が張る奴もあるからね」


 三分ほど経っただろうか。何故か着ていたのは夏樹だった。


「ふぅ。こんなものでしょうか」

「うぅ、陽菜ちゃん。ごめんね」

「謝らないでください。逆に怒りますよ」

「はい、すいません」


 何があったのだろうか。


「今度、陽菜ちゃんのサイズに合う物、ちゃんと買うから」

「ありがとうございます。これ、一応私のスリーサイズです」

「わーいありがとう」


 さらさらとメモ帳に書いて渡しているのだが、気にしている割にそこら辺はあっさり教えるのか。


「しかし、最初は真面目に喧嘩を売っているのかと思いましたよ」


 陽菜の視線を感じて夏樹の肩がビクッと上がる。


「まさか、あんなゆるゆるの物を着させられるとは。夏樹さんのサイズですよ、あれ」

「だって、そこまで見ていなくて、特に確認もせず注文しちゃったんだもん。クリスマスプレゼントに渡そうと思ったけど、色々あって渡しそびれて、やっと渡せると思ったのに……」

「はい、よしよし。まあ。夏樹さんのうっかりは今に始まった事じゃありませんから。はい、もう良いです。それよりも料理を頂きましょう。給仕の方、飲み物はこれでよろしいのですか?」


 頭をポンポンと撫でて、陽菜は話を逸らすようにコップを手に取る。


「あっ、はい。よろしいです」


 夏樹は安心したように笑って、そして、ひな祭りが始まった。


「胸囲格差社会に血の粛清を」


 ぼそりと呟かれた陽菜の言葉は聞こえないことにした。




 「はぁ、酢の香りが食欲をそそる」

「大袈裟ですよ。夏樹さんの作った唐揚げも良い味です。パーティー料理の鉄則である冷めても美味しいがしっかりと守られています」

「わーい、褒められた―」


 五人もいれば料理はどんどん減っていく。ちらし寿司も既に半分は無くなっていた。 


「部活終わりの体には嬉しいぜ。今日は早く終わる日で助かったというのもあるが」


 そして、テーブルの料理にも底が見えてきた。

 すると夏樹が台所に入っていく。冷蔵庫を開くとデザート料理が出てきた。


「ではではお客様方、少し失礼」

「いつもはする側ですけど、される側というのも変な気分ですね」

「たまには良いんじゃない」


 冷蔵庫から出したトレイを夏樹は不安気に眺めている。


「張り切って作り過ぎたのは良いけど、ちゃんと固まっているかな。まぁ、朝に作ったから固まっているとは思うけど」

「もしかして早起きして?」

「うん。思いついたら居ても立っても居られなくて。えへへ。どうかな、ひな祭りゼリーとひな祭りケーキ。美味しくできたと思うよ」


 切り分けられたデザートが行き渡る。甘さはそこまで強くないケーキ。丁度良い。ゼリーもしっかりと固まっていて、そして彩りもあって見るのも楽しい。


「姉御は料理もできるのですね」

「えへへ、練習の成果だよぉ」



 夏樹主催のパーティーは、そのデザートで終了となった。平日の夜に明日も平日、そこまで長くはできまい。あっさりしたものだが、それで良い。

 親御さんが心配しているであろう入間さんと、明日朝練がある京介を先に返し、僕と陽菜は片付けに取りかかる。


「ごめんね、お客様に」

「こういう時はありがとうですよ、夏樹さん。それに、余程早起きしたのでしょう、眠そうですよ」

「そうかなぁ、えへへ」 


 確かに眠そうだ。


「いっぱい迷惑かけたから、いっぱいお返ししなきゃって思ってね。楽しかった?」

「はい、もちろん」

「そう、良かったぁ」


 安心したように笑うと、眠そうに目を擦る。


「夏樹さん、そこのソファで休んでいてください。後はやっておきます。帰る時にまた起こしますから」

「あっ、うん。ごめんね」


 慌てて準備する時間、その結果生み出された楽しい時間が終わり、気が抜けたとかそんな感じなのだろう。パーティー衣装そのままに、夏樹はソファで眠りに落ちた。





 そして、そんなパーティーからしばらくたったある日。


「じゃじゃん! 陽菜ちゃん。これをプレゼンントフォー・ユー」

「これは……」


 和風メイド服……!


「ちゃんと陽菜ちゃんのサイズに合ったものだよ、今回は」

「あっ、じゃあお金払いますね」

「ノンノンノン。これはプレゼント。はい、どうぞ」

「あっ、ありがとうございます」

「それを着てくれたら私はオッケーだよ」

「今度着てみますね」

「うん。それでおっけ」


 楽しそうに笑う夏樹は、太陽のよう、そんな事を思った。

 きっと彼女は、今の僕らの関係に無くてはならない存在だろう。そう思う。関係が冷えることなく、暖かな気持ちになれるのは、彼女がいるから、そう思う。 

 僕と陽菜の今の関係も、彼女が色々気を回してくれたからだと思う。


「うーん、相馬君は何を着せたら面白いのかな」

「面白いという観点が既におかしいよ」

「でしたら、これとかどうでしょう」


 陽菜が何やら思いついたような顔で夏樹にスマホの画面を向ける。


「おぉ、カッコいい」

「わかりますか? この片目だけ覆っている仮面がポイントなんですよ」

「待て。色々待て」

「じゃあ、次は仮装パーティーとか良さそうだね」

「ですね」

 陽菜と夏樹の謎の意気投合。カッコいい衣装に少し興味をそそられた、それは否定できないけど、でもなんだろう、これで気を許したら駄目な、そんな本能からの警告が聞こえた、そんな気がした。





 

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