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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
大切な親友と。
124/186

夏樹√第五話 親友と始める冬休み。

 生徒会は冬休みにもいくらか活動はある。とはいってもそれは年が明けてから。

 だからこの時期は、いつも通り、早々に宿題を終わらせ、のんべんだらりとソファでぼんやりと過ごす。そんな休日になる。

 いやいや、そんな訳がない。


「外れですよ、先輩」

「くっ」


 乃安のやんわりとした指摘に頭を抱える。


「男の人って漢文が得意というイメージがあったのですが」

「好きに笑え」


 陽菜と乃安、一時間交代で僕の受験勉強を見ている。

 陽菜はわかりやすいくらいに厳しく、乃安は、何だろう、毒? でも盛られている気分だ。年下から教えられているという状況も相まって、良い所を見せようと張り切らされる。

 乃安手製の問題集は、陽菜と違い、苦手部分を直接突くというより、基礎ができていれば絶対できる問題集だ。

 つまり間違えれば基礎が駄目という証明になる。


「読む順番はともかく、訳せと言われても」

「再読文字を覚えていないと自分で言っているようなものですよ、それ。読む順番以前の問題です」

「うっ」


 その時、テーブルの上のスマホが震えた。


「先輩のですね。夏樹先輩からです」

「どれ……もしもし」

『やほー。私は、暇、です』

「うん」

『今から家行って良い?』

「陽菜と乃安来ているけど」

『むしろ行きます』


 電話が切れる。着くとしたら一時間後くらいかな。


「というわけで、夏樹が来ます」

「着替えておやつ用に作っておいたチーズケーキでも出しますか」

「頼みます」


 乃安がリビングを出て行き、僕はテーブルの上を簡単に片づける。

 陽菜と乃安のおかげで、家は常に誰を呼ぼうと恥ずかしくない状態だ。だからまぁ、慌てるようなことは無い。

 しかし、昨日は自分でも大胆なことをしたなと思っている。まさか壁ドンをすることになるとは。ただしイケメンに限るの代表例の一つじゃないか。

 あの後普通に軽くおやつ食べに行ったけど、あの時は平静を保てた。家帰って寝る前、その事を思い出し、そしてその行為の重大性に気づき、のたうち回った。 


「なんで相馬君が顔を真っ赤にして頭を抱えているのでしょう」

「それよりも私は、二年間陽菜先輩の教育を受けたはずなのに、漢文が苦手な理由の方が気になります」

「なんであちこちぴょんぴょん飛ばなきゃならないんだぁ! とか言っていましたけど」

「あぁ、納得です」


 聞こえているぞ、二人とも。




 「やはー」


 本当に来た!?


「散歩するにも寒い季節になったねぇ」


 夏樹の謎、その一。散歩の範囲広すぎない? そしてそれだけ散歩しているのに何故体育が苦手なのだろう。

 家に上がってもらい、紅茶とチーズケーキで三時のおやつタイムだ。


「ふーん、えらいね。勉強していたんだ。多分国語系統の何か」

「なんでわかるの?」

「手が黒くなっていて、右手が黒くなるとしたら縦書きの勉強かなって。ちなみに左利きの人は横書きの何かを勉強してたら黒くなるよ」

「へぇ」

「私も勉強しなきゃなー」


 夏樹はそうぼやく。


「夏樹先輩も苦手教科とかあるのですか? やっぱり」

「うん。全部苦手。結局のところ全部できるけど、それが得意な人には敵わない」

「それ、苦手って言うのですか?」

「どうだろうね。テストで点数取るのは得意だよ。でもさ、結局のところ勉強がすべてじゃないんだなって。相馬くん私より勉強は苦手じゃん」

「まぁ、そりゃ」

「でも、凄いよね。ほらこないだのパーティーとか。……それに答える言葉は持ち合わせていませんって顔してる。褒められ慣れていなさすぎ」


 恥ずかしくなって顔を逸らす。


「私が、昨日、トラブルに対処できたの、全部相馬くんが対策しておいてくれたおかげだもん。衣装のトラブルなんてよく予測できたよね」

「別に、自己責任です。で対処しても良かったけど、それで暴れられても困るなぁって思っただけだし。というか、夏樹に勉強がすべてじゃないと言われてもね」

「あはは、確かに。出来ない人が言っても言い訳になるし、できる人が言っても嫌味になるもんね。かなりひねくれた捉え方だけど。凄い言葉だよね、勉強がすべてじゃないって」


 そう言って、夏樹は一息つくようにチーズケーキを一口。そして満足気にうなずく。


「うん。美味しい。しっとり柔らか。わかっていらっしゃる。あの三日間限定のお嬢様生活を思い出しちゃうな」

「お嬢様生活?」

「そう。陽菜ちゃんと乃安ちゃんにご奉仕してもらったの」

「夏樹さん、その話は……」

「夏樹先輩、ストップです。ダメ、ゼッタイ」

「あはは、話しちゃお」


 陽菜と乃安がここまで止める話か。気になる。


「朝は起こしてもらって、夜は添い寝。これでもかってくらいに贅沢しちゃったよ」

「まぁ、私たちも頭を冷やす機会にはなりましたけど。夏樹さんのお世話に集中している間は」

「他にも、着せ替え人形のように、色々な服着てもらったり」

「そこでやめましょう夏樹さん。あなたは今一番のタブーに触れようとしています」

「あらま、陽菜ちゃんがマジの目だ。ストップ・黒歴史だね。さて、まぁ、ここに来た理由もあるっちゃあるんだけど。ほら、スキー行こうって話したじゃん。みんなスキー講習、どの級に申し込むのかなって」

「スキー講習?」

「そう、ほら、インストラクターさんに教わる奴だよ」

「受けませんよ、私たちは」

「えっ?」


 夏樹が絶句している。


「もしかして、未経験、私だけ?」

「未経験ですか。なるほど、じゃあ、夏樹さんは特訓してそれなりに難しいコースでも無難に下りられるくらいにはしますから」 


 陽菜の周りの空気だけ、少し変わった、そんな気がした。それは何というのだろう、スイッチが入った、そう表現するべきだと思う。






 リフトを下りて、見下ろした景色。見事なまでの快晴だ。当たりを引いた、そう言うべきだろう。


「なぁ、相馬。本当にここから滑るのか?」

「あぁ、京介はセンスが良いって陽菜が言ってたし。それに京介ってなんだろう、谷から突き落とせば覚えそうなタイプじゃない? つうわけで、着いてこい」


 滑りだす。風を感じる。ちらりと振り返ると京介が直滑降気味に追いかけて来る。乃安はその後ろを付かず離れずの距離で滑る。

 あっ、やっぱり。スピードが出過ぎて京介が俺を追い越して転んだ。

 その横にピタリとブレーキ。


「ジグザグで滑ろうな」

「あぁ、実感した。スピードを求めるのは俺にはまだ早かったようだ」

「よろしい。それじゃあ、右が簡単なコースだから。しかし、転び方は上手いな」

「朝野さんに最初に叩き込まれたことだからな。ぶつかりそうな時とかには転べって。あと、変な転び方しないようにだと」


 意外なことに京介はスキーの経験が無かったようで、しかしこの様子を見る分に、教える事には苦労し無さそうだ。

 最初の方は乃安と競争の真似事していたけど、途中、陽菜から京介の教育を任されたというわけだ。

 ちらりと腕時計を見る。そろそろ昼食休憩の時間かな。夏樹の様子も見たいし。

 少しスピードを落として京介が焦らない程度のスピードで滑る。

 マフラーを口元まで上げる。油断したら鼻水とか凍りそうだな。というか凍るな。

 おっ、陽菜と夏樹発見。滑れてるな、夏樹。ゆっくりだけど着実に進歩しているな。


「陽菜、夏樹」

「あっ、お疲れ様です」


 顔が見えないくらいにガチガチに防備している陽菜がペコリと応じる。


「そろそろ昼飯にしない?」

「良いですね。ではそうしましょう」


 スキー板を外して、更衣室で靴を履き替えると、解放感を感じるのは僕だけだろうか。暖房が効いていて、外とは真逆な空間。


「ピザが有名らしいですけど、ここ」

「うん。有名だよ。本場取り寄せの石窯使っているって」

「興味深いですね。……そういえば、午後は夏樹さんの教育、相馬君にお任せします。桐野君は私が見るので」

「あっ、はい」


 陽菜の唐突な通達に、僕はそう応じるしかできなかった。




 
















 








 






 








 

 

  

 

 

 

 

 




 






 

 









 


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