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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
大切な親友と。
123/186

夏樹√第四話 親友とパーティー。

 会長がピアノを弾く。クラシックから最近の有名な曲まで、思いつく曲を片っ端から弾いているのだろう、そんなメドレーだ。

 その間にお菓子の追加も済み、今は陽菜が持参されたお菓子の盛り付けをしている。思ったより少なかったから頑張って良かったと思う。

 しかし、会長はあまり印象が良くない生徒と聞いていたが、あれはなんだったのだろうか、曲が終わり観客にお辞儀する、その時に巻き起こる拍手からはそんな評判が嘘のような気もする。 

 もしも短期間でここまで評価されるようになったというなら、それはもはや奇跡、人の心を変える、そんな奇跡だ。

 そして、そんな奴がなぜ今まで好かれようとしなかったのかが疑問だ。

 一人体育館で佇む。特に連絡も急ぎ指示出すような事態も起きてはいない。気になるのは、陽菜と乃安が作ったものからどんどんなくなっていることくらいだ。


「やっぱりあの二人は凄いや」


 そう思いながら外に出る。さて、次だ。

 持参されたプレゼントを整理して配る準備を整える。既に行われている仕事、それを点検する。もしも数が合わなければこちらで余った予算で用意した奴を入れておく。入場した人数は生徒会の方でカウントしてあるから、参加を申請せずに紛れ込んだ生徒の対策も万全だ。


「裏方って忙しいな」


 思いついたことを片っ端から夏樹と陽菜に言って話し合ったわけだが、こんな事いちいちしなければいけないとは。

 あとはそうだな……。


「相馬くん、休まないの?」

「えっ?」

「後の事は私がやるから、少しはパーティー楽しんできなよ」

「夏樹一人に任せるわけには」

「良いから。ほら、行って」


 夏樹は無理矢理体育館に僕を押し込む。振り向いた僕にニッコリと笑いかけると、扉を閉じた。


「どうしたんだ……」


 手持無沙汰になった僕は、とりあえず、壁の染みになる事にした。思い思いの仮装の中、制服姿の生徒会役員は目立つだろう。まぁ、これは何かトラブルがあった時、すぐに役員を見つけて声をかけやすくするためにあえて着替えていないのだが。

 まぁ、役員も普通に楽しんでいるようだし。陽菜と乃安も、家庭科室での片づけを終え、食べ終わった皿を下げる作業など、今できる片付けに勤しんでいる。パーティーは始まった瞬間から片付けが始まっているというのは陽菜が言っていたかな。

 手持無沙汰でここで見ているのは僕だけか。前の僕ならここで終わりだろうな。でも今の僕はこれもまた、有事の際にすぐに動ける待機要員と割り切れる。何も起きないに越したことは無いけど、

 しかしこう見ていると、クリスマスというよりハロウィンだなぁ、これ。

 あっ、怪獣いる。仮装する機会がある度に着て来るつもりなのだろうか。お菓子食わないのかな。って、顔出すなよ、怪獣のままでいろよ。



 パーティーももうすぐ終わる。それは盛り上がりも段々と落ち着いてきて、時計を見て現実に戻って行くまでの時間だ。

 お菓子も飲み物もほぼ尽きた。そして、閉会の挨拶、夏樹が立ち、プレゼントを受け取りながら帰るよう説明、そして、入口に来る人たち一人一人にプレゼントを渡していく。

 トラブルも特になく、パーティーは終わった。そう思っていた。





 「えっ、つまりどういうこと?」

「パーティー中のトラブルは全部夏樹さんが処理しました」

「えっ、でも、なんで?」


 それは打ち上げのあと。とりあえず反省点を上げていこうという話になり、それを纏めていた最中である。

 打ち上げ中でも食べきれなかった打ち上げ用にとっておいたお菓子を頬張る夏樹は、それをゴクリと飲み込む。

 会長は既に帰り、他のメンバーも部活に向かった。

 陽菜と夏樹とボランティアとして参加した乃安の三人で、準備中や本番中に見えた反省点を上げていたのだが。


「あぁ、ほら、相馬くん新入りなのにとても働いてくれたからね。ここは古参メンバーとしての意地を見せたかったんだよ」


 夏樹はそう言う。けれど、でも。


「僕はそんなに頼りない、かな?」

「違うよ。ほら、働いてばっかで楽しめなかったら嫌だし。そんなことよりもほら、冬休み何やるか話し合わない?」


 そんな気を使う仲じゃないはずだろ、僕たちは。でも夏樹はその話題をこれ以上掘り下げるのを拒否していた。


「スキー行かない? ねっ?」

「うん。行こう」

「温泉もね」

「楽しそうだ」


 どうしてだろう、足が震える。貧乏ゆすりするような癖なんて無かったのに。

 楽しそうに冬休みの予定を提案してくれる夏樹の言葉が聞こえるのに、でも、思考がそっちに傾こうとしない。


「あっ、初詣も行きたいな。どう?」

「夜に行くか朝に行くかですね」

「朝かなぁ」


 紙に鼻歌交じりに予定を書き連ねていくのが見える。


「とりあえずはこんなものかな。それじゃあ、解散だね。鍵返してから行くから、先帰っていて」

「はい。それでは」


 生徒会室の前、夏樹と別れるけど。でも。


「陽菜、乃安」

「はい? 忘れものですか」

「うん。先行っててくれるかな」

「いえ、忘れものでしたら私たちも……」

「お願い」


 陽菜はじっと僕を見る。そして頷く。


「わかりました」


 職員室側の階段を駆け上がる。すぐに目当ての人が見つかる。

 驚いたような顔をする夏樹に、僕は単刀直入に、誤魔化しようがないように、逃げようがないように問いかける。


「夏樹。本当の事を教えて」

「えっ? 何の事かな?」

「僕に相談しなかった理由だよ」


 夏樹は表情を崩さない。でも、するりと僕の横を抜けようと動く。

 壁に手を付いて、逃がさないように体も寄せる。


「どうしたの? いつになく強引だね」

「教えるまでこうして逃がさないよ」

「良いよ。女の子憧れのシチュエーションだし」


 そんな余裕な口ぶりでも、気まずそうに目を逸らす。


「……嫌だったんだよね。相馬くん。遠くに行っちゃいそうな気がして」

「どういうこと?」

「相馬くんと会長、考え方が似ていてさ。トラブルに対する対処の仕方とか、事前の対策とか、だから会長も相馬くんに指示を出す立場を任せたわけだし」


 目が合う。少しでも動けば顔が触れ合う距離だ。


「このまま仕事をしていったら、なんだか、会長と一緒に世界征服だ―とか言い出しそうで。だったら何もさせないで、会長と特に親密になることも無く引退させたら良いかな、なんて思ったんだ」 


 両手で顔が挟まれる。顔を逸らすという選択肢はもう消えた。


「近いね。うん。ここまで近づいたのは迂闊だよ」

「何がさ?」

「あはぁ、知らないんだ」


 夏樹は見た事無い、艶のある笑みを浮かべる。

 冷静になろうとしても、駄目だ。なれない。頭の中にまともな選択肢が浮かばない。


「こんなことすると勘違いする女子もいるって話。そして、誰の物にもしたくないなら、自分の物にしちゃえっていう考え方をする人もいるって話……なんてね」


 ポンと体が押され、よろめいて、するりと夏樹が壁と僕の間から抜ける。


「ほら、帰ろ」

「あ、あぁ、うん」


 僕と会長が、世界征服? 今はそんな事がありえないとは思っている。でも、それが一概にこれからもそうだ、そんな事言えない。夏樹の心配を笑い飛ばせる状況では無い事は、確かにそうかもしれない。


「ねぇ、相馬くん。遠くに行っちゃだめだよ。言ってくれたよね、これからも仲良しさんだって」

「うん」

「会長は本気だよ。それだけは、間違いないから」


 手を掴んで、引っ張るように歩き出す。


「そうだ、今日もクレープ屋さん行こっ」

「えっ、あんなに食べたのに?」

「スイーツは別腹!」

「スイーツ用に胃がもう一個あるとでも言うのか……」

 





 「先輩ったら、大胆ですね」

「はい、相馬君とは思えません」


 乃安さんと一緒にこっそり見ていましたが、壁ドンですか、まさかの。


「キュンキュンしちゃいましたよ」

「乃安さんはああいうの憧れるのですか?」

「そりゃあ、女の子ですから」


 去って行く二人の背中を見送る。


「さて、どうしますか? 電車の時間までもう少しありますけど」

「あっ、それなら、美味しいたこ焼き屋さんがあるって聞いたのですけど」

「では、それに行きましょう」

 



 





 

  


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