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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
大切な親友と。
120/186

夏樹√第一話 親友と始める生徒会活動。

投票の結果。夏樹ルートから始めます。

 「会長って普段、生徒会で何しているの?」

「んー。基本的に何か書類読んでは何か考え込んで。ふと動き出すと怒涛の如く指示出して。まぁ、はっきりしてて良いと思うけど。どうしたの急に?」


 昼休み、いつもの面子で弁当を食べる。ふと気になったことを夏樹に聞いてみたのだ。


「会長に生徒会に入らないかって」

「へぇ、あの会長が自分から勧誘か。凄いね」

「僕はおまけみたいなもの。本当に欲しいのは陽菜と乃安と入間さんだよ」

「入鹿ですか?」


 入間さんがきょとんとした顔をするが、でもそれは前置きで。


「それでさ、夏樹、お願いがあるんだ」

「何かな?」


 お願いと聞いて目を輝かせる夏樹。頼られるのが好きな夏樹らしいと思う。

 だから僕も、躊躇いなくそのお願いを口にした。


「僕を生徒会に入れてくれない?」

「「「「えっ?」」」」


 あの陽菜までもが絶句していた。

 夏樹も、口を開けてその時間を停止させていた。


「どうかした?}

「相馬くんが、自分から生徒会に入りたいなんて言うなんてと、思って」

「おかしい?」

「ううん。是非是非だよ! 一緒に頑張ろう!」

「あっ、夏樹さん、私もお願いします」

「うん!」

 陽菜は当たり前のようについてきた。



 そんなわけで、久々に訪れた生徒会室の前。がらりと中に入ると、その奥で黙々と何かをパソコンに打ち込んでいる黒井会長がいた。


「今日は特に何もないと通達したはずだが」

「生徒会に入りたいという志願者を連れて参りました」

「そうか。ふむ」


 パソコンから顔を上げる。僕とその隣にいる陽菜を見る。

「ふっ、そうか。私の要請に答えてくれるとは。良い日だ。歓迎しよう、日暮相馬、朝野陽菜」

「よろしく」

「よろしくお願いします」

「フハハハハハ!」

「会長、ご機嫌だ」

「よろしく頼むぞ。まもなく訪れる終業式。ここでもまた、我々の真価が問われるだろう! だが今日は特に何もない、帰ってもらっても構わない」


 上機嫌な会長に見送られ、僕たちは生徒会室を後にする。

 まだ早い時間だ。部活も人が集まり始めたくらいだろう。慌ただしい校内、そんな中を三人で歩く。僕の隣を歩く夏樹、一歩後ろを歩くのは陽菜だ。


「乃安ちゃんは誘うの?」

「考える」

「乃安さんなら、相馬君がお願いすれば入ると思いますよ」

「それはわかっているんだけどね。でも一応確認したいから、ちゃんと話してみるよ」


 それは、乃安の料理の勉強をしたいという希望の邪魔になるかもしれない。でも乃安なら、僕が一緒に入ってと言えば確実に入るだろう。


「そういえば、夏樹は会長に敬語なんだ」

「うん、なんだろう、敬語じゃないと駄目な気がしちゃうんだよね」


 あはは、と照れくさそうに笑う。


「確かにリーダーになるべき人だよ。一緒に仕事していてわかる」


 遠くを見るような目でそう言う。選挙の事を思い出しているのだろうか。


「夏樹の周りにだって、慕っている人はいっぱいいるだろ。僕は夏樹の事、頼りにしてる」

「嬉しいけど、はっきり言われちゃうと、照れるね」


 その日はそのまま駅で別れた。さて、乃安はどうしようか。





 「とまぁ、そういうわけで、僕と陽菜は帰りが遅くなる日もあります」

「わかりました。ふむ、生徒会ですか……」


 乃安はどうする? という言い方をすれば多分、では私も入りますと言われると思ったから、こういう言い方をした。これなら家事と天秤にかけてくれるだろう。料理の道を志そうか考えている乃安のためになると思う。

 うんうんと考え込む乃安。


「乃安さん、私としては、帰りを家で待っていてくれると嬉しいです」


 陽菜の助け舟。陽菜も乃安のやりたいことを理解してくれているのだろう。


「わかりました! 先輩方の留守、全力で守らせていただきます!」


 乃安の力強い宣言。良い後輩を持ったと思う。

 



 そんな訳で僕と陽菜は次の日、夏樹に連れられ生徒会室に行く。

 しかし、会長は今日は新聞に目を落とし、こちらに見向きもしない。

 僕ら以外の人たちも、会長の様子を見て部活に行ってしまった


「何をすれば良いのでしょうか?」

「うーん? あぁ、暇していて良いよ。会長が何か思いついたら嫌でも動くことになるから。充電中ってやつ。本当に何も無いと、帰って良いと言われるから」


 そう言って夏樹はおやつを広げる。さらに生徒会室の棚からオセロを取り出す。


「やる?」


 夏樹がキラキラした目で僕を捉える。


「夏樹さん、相馬君、かなり強いですよ」

「大丈夫、私も強いから。チェスでは負けたけど、オセロなら!」


 パチ、パチと中央四マスに駒を置いて準備完了。僕に先攻が譲られ黒を置く。

 ん、本当に強い。ひしひしと追い詰められるのを感じ、置ける場所が減らされているのを感じる。外側に追いやられ、内側が支配されつつある。

 無意識のうちに手がチョコを掴み口に放り込む。陽菜がさらりと置いてくれたお茶を一口で飲み干す。

 脳がものすごいスピードで夏樹に傾く流れをひっくり返す手を考え始める。


「むっ」


 僕の置いた一手に夏樹が動揺した声を出す。


「えいっ。えっ?」


 夏樹がこちらをじっと見て驚いている。そりゃそうだ、夏樹の目に映る僕はニヤリと笑っているのだから。そして僕が一手。


「ほう、良い手だ」


 気がつけば傍らに立っていた会長も頷く、そんな一手。まぁ、正直綱渡り。序盤の失点を取り返しきれるか怪しい所だ。

 そろそろ終盤か。角の取り合い。だけど、僕が見越していたのはそこだ。そして……。


「わぉ、引き分けか」

「うん、そうだね」


 盤面は見事に半々に二分された。


「そちらは終わったか。よし、相馬よ、こちらに来るのだ。安心しろ、お前の疲れに合わせるべく、朝野に付き合わせてオセロで一戦した。さぁ、チェスをするぞ」

「何故に」


 まぁ、良いや。やろう。


「この会長、強すぎます」


 陽菜がそう愚痴をこぼす。

 向かい合わせで座る。


「先攻は俺で良いか?」

「良いよ」


 白のポーンが中央を支配すべく進軍する。


「お前は本当に遜らないな」

「遜ったらダメな気がするよ、君に。黒井会長」

「流留で構わん」


 対抗して僕も黒のポーンを進軍。すると会長はすぐにクイーンを動かした。定石通りだ。

 ……母さんがボードゲーム大好きで、散々やった。父さんも好きで、小学生ながら徹夜で遊んだりもした。思えばその頃には母さんも自分が先長くないと思っていたのだろうか、教える時は全力だった。遊ぶ時は楽しめるだけ楽しんでいた。


「いつだったか、理想を話せとか言っていたな」

「そうだね」

「俺は国を無くす。俺のやるべきことは国境を消す事だ。そして、世界を一つの国として、一人の優秀な王が支配する、そして恒久的な平和を実現する。南極から北極まで。俺が上に立つことで、世界は対話のテーブルに着く。貧困は無くなり、国同士の争いに罪の無い民衆が巻き込まれる。それは許されるべきではない。だから俺が世界を手に入れよう」

「……それまでに流れる血はどうするつもりだ?」

「目的のための犠牲はつきものだ」

「そうか……チェック」


 会長の目が冷たく光る。


「もしそれが達成されたとして、お前の次の王で瓦解しそうなシステムだな」

「ふっ、それくらいの問題を解決する手はいくらか考えてある」


 それからは無言で続けた。

 お互い、一歩も譲ろうとせず、攻め続けた。


「チェックメイト」


 会長が冷たくそう宣言する。


「何も賭けていないからな、何も求めんよ。そして確信した。俺の成すべきことに、お前が必要だと。では、今日は解散だ。お前を盟友として迎えられる日を楽しみにしている」


 負けそうなことに気づけなかった。その事に驚いた。気がつけば取り返しのつかない盤面に追い込まれていたのだ。 

 




 まだ頭が熱い。ほんの二時間程度しか争っていないのに、一晩中戦っていたような感覚だ。


「はぁ~、同年代に負けたの初めてだぁ~」

「そこですか、相馬君。てっきり会長のあの、世界征服宣言の事を考えていると思っていましたよ」

「真面目に捉えていない。誰が世界支配しようとどうでも良い。僕はそうだね、今いるみんなと平和に過ごせれば良いや」

「おっ、相馬くん、これからも仲良しさん宣言?」

「そっ、仲良しさん宣言」


 イエーイと夏樹とハイタッチ。陽菜にも手のひらを向ければ、控えめに合わせてくれる。


「否定する気も無いよ。会長は、本気みたいだし」

 天命というものだろうか。それは与えられたと信じたら、それは本当に与えられたのだろう。天から来たものでなく、自分の内なるものから沸き上がったものだとしても。


 さてと、乃安が待ってるし帰らなきゃ。 

 









 


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